第2話 教え手
「僕の居場所を突き止めた理由は分かったよエマ。だけどどうしてここに来たの? まさか会いたいからっていうだけじゃないよね?」
僕は恐る恐る尋ねる。
ネットの中でもエマはぐいぐい来る子だった。それだけ魔法に真剣なんだと思っていたけど、その情熱が僕に会うことに向けられていたら怖い。
そういえば僕個人のことについてもよく質問が飛んできていたような……そういう質問にはまともに返事はしなかったはずだけど。
「もちろん師匠に会いたいという気持ちはありました。でもそれだけじゃありません」
エマは真剣な表情で答える。
よかった、ちゃんと理由があったんだ。僕は心のなかでホッと胸をなでおろす。
「理由って?」
「はい。師匠には私と一緒に魔導師ギルドに来てほしいんです」
魔導師ギルド。
それは名前の通り魔法使いが集まってできた
人々の依頼をこなしお金を稼ぐことがメインの冒険者ギルドと違い、魔導師ギルドは魔法の技術を研鑽することに主を置いている。
そこに所属している魔法使いたちは日々魔法の研究に勤しんで、栄誉ある称号『魔導師』と呼ばれることを目指している……らしい。
僕もそれに憧れはあるけど、まあ僕には関係ない話だろうね。
「なんで僕が魔導師ギルドに?」
「魔導師ギルドにはまだ子どもの魔法使いを育成する『養成所』がありますが、そこの優秀な教え手が不足しているのです。私も養成所に所属しているので教えを受けているのですが……レベルが低すぎると言わざるを得ません」
「へえ、そうなんだ。大変だね」
教え手と言うのはその名の通り、魔法を教える教師のことだ。魔法を人に教えることは難しいから、優秀な教え手というのはどこに行っても重宝されると聞いたことがある。
エマは教えたことはすぐに吸収する、優秀な弟子だった。
頭が良くて好奇心旺盛。僕も何回も質問責めにあって苦労した覚えがある。
そんな彼女のお眼鏡に敵う人は中々いないのかもしれない。
「はい。なので私は優秀な教え手がいるとある人物をギルドに推薦しました」
エマはどこか誇らしげにそう言う。
彼女がそこまで言うのは凄い。いったい誰なんだろうと思っていると……
「それは師匠、貴方です。貴方の力はここで燻っていていいものじゃありません。ぜひその力を魔導師ギルドに貸していただけませんか」
「え。ええ!?」
エマはとんでもないことを僕に頼んでくる。
ギルドに所属すらしていない僕が、魔法使いの教え手になるなんて。そんな話受けられるわけがない。
「何言ってるんだいエマ。見ての通り僕はこの家に引きこもっているただの子どもだよ。確かに
「ご安心してください。既に魔導師ギルド帝都支部長の許可は取っております。誰も文句は言えないでしょう」
そう言ってエマは僕に書類を見せつけてくる。
……確かにこれは正式な書類だ。どうやら本当に話は通しているみたいだ。こんなものを発行できるなんてエマは魔導師ギルドの中でもかなり力を持っているみたいだね。
「いやでも、僕はたいした魔法使いじゃないから……」
「師匠の教え手としての腕は私が保証します。師匠のおかげで私は魔法使いとして成長し、今では養成所の主席となりました。どうかお願いします」
エマは僕に向かって深く頭を下げる。
ううん……困った。こう頼み込まれると断りづらい。
彼女の力にはなってあげたいけど、僕が魔法使いの教え手になんてなれるわけがない。一人で魔法の研究をするくらいが限界だ。
困った僕は、静観していたルナに目配せする。ルナならこの状況から助け出してくれるかもしれない。
「……そうですね。この話ですが私はとても
「えっ!?」
思わぬ裏切りにあって、僕は驚く。
まさかルナがこの話に乗るとは思わなかった。
僕は慌ててルナに近づいてエマに聞こえないようにこそこそ話をする。
「ちょっとルナ、どういうつもり?」
「魔導師ギルド帝都支部は、帝都にあります。皇帝陛下に顔を合わせるついでだと思えばいいではありませんか。それにウィル様がお仕事をなさっていると陛下がしれば、お城に連れ戻されることもなくなるのではないですか?」
「それは……そうだけど」
確かにルナの言っていることの筋は通っている。
手紙を読むに、父上は僕のことを城に戻したがっている。でもそれは嫌だ。僕は今の引きこもりライフを手放すつもりはない。
それを守るためだったら……少しくらい教え手として働いてもいい。少しだけなら。
「魔導師ギルドには、ネットに載ってないことが書かれた書物もたくさん所蔵されています。教え手になっていただければそれの閲覧許可も出ます。いかがでしょうか!」
エマは今が好機と畳み掛けてくる。
まだ見たことない本。それはヨダレが出るほど魅力的だ。
僕は色々なものを天秤にかけ熟考して……答えを出す。
「……分かった、行くよ。その代わり正式にやるってわけじゃないからね。どんな感じか見学してから決めるから」
「本当ですか!? ありがとうございます!!」
エマは喜び再び僕を抱きしめる。
「もが、もがが」
再び窒息しかけていると、すかさずルナが割り込んできてその凄い力でエマのことをぺいっと剥がす。ふう、助かった。
「ルナ、今から準備したとしていつ頃出れそう?」
「言っていただければ明日にでも出発できます。それほど荷物もありませんし」
今回は引っ越しをするわけじゃない。とはいえどれくらい帝都に戻ることになるか分からないし、呼んでない本とかは多めに
「じゃあ今日はエマも泊まっていきなよ。みんなで行ったほうがいいでしょ?」
「いいんですか! ありがとうございます! 師匠と一緒に寝るの楽しみだなあ」
「客人用の布団を用意しておきますね。ウィル様の部屋に行ったら家から叩き出しますので」
「うう、そんなあ……」
エマの暴走をすぐさまルナが嗜める。
やれやれ、騒がしくなりそうだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます