第4話 内なる暗黒

「――――ッ! なに、この魔力!?」


 僕の体から滲み出る魔力を感じ取ったのか、アスタロトさんの表情が変わる。

 よかった。どうやらこの魔力なら悪魔にも対抗できるみたいだ。


「こ、こんな魔力、悪魔でもありえない! い、いや! やめて!!」


 僕の体から出た黒い魔力が、鎖の中を伝っていく。

 アスタロトさんは全力でそれを阻止しようとするけど、僕の黒魔力はそれをものともせずに進んでいく。


 そしてものの数十秒でアスタロトさんの胸に到達し、彼女の体の中に入っていく・・・・・


「いや、あ、あぁっ! 知らない、こんな魔力、私知らないぃ!」


 アスタロトさんは必死に僕の魔力を押し返そうとしてくる。

 可哀想だけどここで手を緩めたら僕の自由がなくなってしまう。僕は心を鬼にして、魔力を送り込む。


「あ、ああ! 入ってくる、私の魔力が、全部塗りつぶされる……!」


 僕の魔力が大量にアスタロトさんの中に流し込まれていき、彼女の体を満たす。


 するとパキン! という音と共に鎖が砕けてしまう。どうやら勝敗が決したことで魔法が終わったみたいだ。

 魔法が終わった瞬間、アスタロトさんがその場に倒れる。

 やばい、やりすぎたかもしれない。そう思った僕は彼女に近づく。


「だ、大丈夫ですか!?」


 今のところ僕の体に異常はない。どうやら奴隷化は防げたみたいだ。

 だけどアスタロトさんは大丈夫かな?

 僕が呼び出しておいてこんな風にさせてしまったのは申し訳ない。謝らないと。


「あ、あの、アスタロトさん?」

「責任……取ってね」

「へ?」


 倒れていたアスタロトさんは体を起こすと、胸元をはだけさせて、露わにする。

 するとそこには何やら黒い紋章のようなものが刻まれていた。なんだろう、これ。


「これは『奴隷紋』よ。貴方との魔力の押し合いに負けた私は、貴方の奴隷になったの」

「ええ!?」


 驚く僕。

 だけど考えれば当然だ。あの魔法は一方的に契約を押し付けるものじゃなくて、どっちかが勝利することで成り立つものだった。

 押し合いに勝った僕がアスタロトさんの主人になるのも当然。いや、どうしようこれ。


「あの、契約を破棄することは……」

「これは悪魔の契約魔法。当然ながら破棄なんて出来ないわ」


 アスタロトさんはそう言うと、僕の手を取って手の甲にキスをする。

 それは絶対的な従属を表す行動だ。以前メイドのルナにもやられたことがある。


「乱暴な真似をしてしまい、申し訳ございません。まさかこれほどの方に召喚されたとは思いませんでした」


 そう言って僕のことを見るアスタロトさんの瞳には♡マークが浮かんでいた。

 ……そう言えば聞いたことがある。魔を信仰する悪魔や魔族は、大きな魔力を持つ者を好きになるって。もしかして……。


「大悪魔の一人、アスタロト・ヴェフェニュキス・デモンロウズは貴方様に絶対なる忠誠を誓います。どうぞよろしくお願いしますね」


 こうして僕に悪魔なお姉さんの仲間が出来てしまった。

 引きこもりライフを送りたかっただけなのに、なんでこうなるの……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る