第10話 探索者になる 前編

 私たちは探索者登録課にいた。

 受付嬢はエルフのお姉さん。

 ハーフエルフのウロちゃんよりも耳がピーンと尖ってる。


 エルフって上品で高貴なイメージがあるんだけどな。受付嬢は美人だけど荒んだ顔をしている。まぁ、こんな忙しい職場で働いているから、きっと色々とあったのだろう。


「高校生が探索者になるのですか? 保護者の推薦状はあるのでしょうか?」


 それはS級探索者だった母さんのお墨付き。ウロちゃんの推薦状まで書いてくれてるんだよね。えーーとどこにしまったかな?


「まったく。何もわかっていない学生というものは気楽なもんです。ダンジョンはゲームみたいな冒険の世界ではないのです。ここにもそんな輩が毎月のように来ますけどね。私は現実の厳しさを説明して帰っていただくんです」


「でも、ダンジョン攻略って楽しいじゃないですか」


「何を能天気に! 遊び感覚で入っていい場所ではないのです! 年間の死亡者は1万人を超えているのですよ!」


 うーーん。

 まぁ、それは怖いけど、


「生活のためだからね。はいこれ。母さんからの推薦状」


「まったく、娘に危険なダンジョンを勧める親の顔が見たいですって、え!? ええええ!? あ、あな、あなた一香さんの娘さん!?」


「あはは。お姉さんも母さんのこと知ってるんですね。魔晶石の買い取りをしてくれた店員さんも知っていましたよ」


「閃光の探索者、一香。イティハーサで知らない者はいませんよ」


 母さん有名人だったんだな。

 閃光のってめちゃくちゃカッコいい二つ名までついてるし。


「一香さんの娘さんなら大丈夫ですね。これは失礼しました」


「あはは」


 すごい変わりよう。


「でも、大丈夫ですか? 登録費用はお一人で100万円かかりますが?」


「高っ!!」


 魔晶石を3万円で売っていたらできなかったな。

 手持ちが300万円あるからなんとかなるや。


わたくしは自分のお金でやらせていただきますが?」


「いいよいいよ。カメラマンなんだからさ。気にしないでよ」


ひとえさん……♡」


 でも、随分とお金がかかるんだな。


「登録するのって恩恵あるんですかね?」


「勿論ですよ。入院保険は勿論のこと。ダンジョン情報の共有。能力の成長の支援ができますからね」


「能力の成長……」


「探索者の登録は魔力の神ズノーブレイディアスとの契約になります」


 はい? まりょくのかみ??


「契約なんて聞いてないよ?」


「安心してください。探索に有利な力を得るだけです。所謂ステータス表示ですね」


「え!? あのラノベ界では有名なヤツができるんですか?」


「はい。契約者の潜在能力を可視化して数値化します」


 おおおお。

 これは燃える展開だ。

 200万円の出費は痛いけど、ステータスが見れるようになるんならアリかもしれない。


「んじゃ。契約します」


「承知しました。契約ルームに移動しましょう」


 私たちは受付のお姉さんに別室へと案内された。


 おお、なんかデッカい魔法陣がある。


「お一人ずつ中央に立ってください」


「んじゃ。私からいくね」

「あ、はい。がんばってください」


 お姉さんは私の親指に印鑑を当てた。


「痛」


「すいません。ちょっとだけ血が出ます」


 印鑑を契約書に押す。

 その書には日本語とは違う異界の文言がズラリと敷き詰められていた。


「では、参ります。ひとえさんは中央に立っていただくだけで構いません」


 いよいよか。


 お姉さんの詠唱が開始されると魔法陣は光る。


「魔力の神ズノーブレイディアスよ。かの者に万能の力を捧げよ。叡智と真実の力を解明せよ!」


 発光。


 うわ! 眩しい!!


 でも、数秒で収まった。


「はい。終了です」


 何も変わってない感じだけど?


「次はウロタカさんですね」


 ウロちゃんも同じように契約する。


「はい。それでは契約が終わりましたので、ステータスを出してみてください」


「どうやってやるんですか?」


「勿論。ステータスオープンと言えばいいのですよ」


 勿論、と言われても笑うしかないんだけど。

 そんな簡単にできるんだ。


「で、ではわたくし、やってみますわ。ス、ステータスオープン!」


 すると、空中に光る数字の羅列が出現した。


「うわ! 出ましたわ!!」





名前:ウロタカ・フォーマ・西園寺


LV:1


攻撃:13


体力:13


防御:12


速度:12


知力:120


魔力:120


特性:賢者タイプ





 うぉおお!

 なんかすごい!!


「ウロちゃんは賢者タイプなんだね! 知力と魔力だけ異様に高いし!」


「こ、これは喜んでもいいのでしょうか?」


「はい。賢者タイプは攻撃と回復魔法が使える器用なタイプですからね。探索でも重宝するのです」


 え?


「ま、魔法が使えるんですか?」


「ええ。魔力の神ズノーブレイディアスと契約しましたからね。ただし、神の力は地下ダンジョンに入った時にしか発動しません。つまり、ステータスを見るのも、魔法を使うのもダンジョンだけです」


 へぇ……そうなんだ。

 だから、母さんは家で魔法を使わなかったのか。


 あれ?


「ここでステータスを見れてますが?」


「イティハーサは特別です。お香の匂いが独特でしょ? 結界を張って魔力の神ズノーブレイディアスの力を保っているのです。ですから、ステータスだけに留まらず、魔法だって使うことができるのです」


 おお、つまりダンジョンと同じ環境なのか。


わたくしひとえさんのステータスが気になりますわ!」


「あ、うん。だね」


 私も気になってた。

 よし。初めてのステータスだ。

 ドキドキするな。


「ステータス。オープン!」

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