王女だったけど12歳で国が滅んだので傭兵になりました。

暁 雪白

0章プロローグ 国が滅ぶ

 熱い。炎で目が焼けるように痛い。

 でも、目が離せない。

 城郭全体を包んで激しく燃え上がる炎。

 それを見つめる男の顔は、焔を映して灼熱の炎天下のように赤い。めらめらと揺れる炎は、火の粉を降らせる。鉄兜の上に雨のように降り注ぐ。

 ドオオオン。

 ひときわ大きな音が響き渡って、炎に包まれた御殿の一角が崩れ始めた。

 「―――っ」

 叫びそうになる自分の口を、彼女は手で押さえた。煤だらけの顔に涙が伝う。

「ふっ」

 嗚咽が漏れるのを堪えきれなかった。茂みに隠れた自分の姿が見つけられたら終わりだ、ということはお嬢様育ちの自分でもわかっていた。幸い、御殿が崩れる激しい音にかき消されて、そこにいる兵たちには気づかれなかったらしい。

 彼女は地面に這いつくばって、もう一度、目線をあげた。涙でにじむ視界。強く目を閉じて、開く。

 赤々と照らし出される男は、眉間に皺を寄せている。燃え盛る炎が眩しいのだろう。

(お父様、お母様―――)

 少女は草を握りしめた。今日まで土など触ったことのなかった柔らかな皮膚に草が食い込んで、切れる。血が滲むことにも気づかずに、男の向こうで崩れ落ちていく城郭を目に焼き付けるように、目を見開いていた。

 

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