黄昏の君

中山 みどり

第1話春の日

高校入学の日、「美緒のおばあちゃん、かっこいい。」と絶賛された美緒は誇らしい気持ちと祖母への感謝で高揚していた。


「おばあちゃん、ありがとう。」美緒は心の中で祖母に感謝した。

昨日のことだった。祖母は突然シルバーグレイの髪を明るいブラウンに染め美容室から帰ってきた。ハイヒールを履いて入学式に来てくれた祖母は若々しかった。

友人達が母親と来ると思うと、今日の入学式は少し気が重かったのだ。せめて髪を染めてくれたらと思った。でも、6年前母が亡くなってから母の代わりに奮闘してくれた祖母にそんなことは言えない。少し、重い気持ちで入学式を迎えようとしていた美緒は若々しく装ってくれた祖母に驚き、感謝した。


さくらの舞い散る急な坂道を歩きながら、美緒はふと季節外れの服装の少年に目が留まった。美緒の学校の制服は紺のブレザーに濃いグリーンを基調にしたタータンチェックのプリーツスカートだった。男子はブレザーに女子のスカートと同じグリーンのタータンチェックのパンツだ。少年はブレザーを着ておらず、カッターシャツとパンツだけだった。

明るい色の髪は光のせいで、金色に輝いているように見えた。どちらかといえば背が高く、長い手足をしている。

切れ長な涼しい目元で、欠点と云えば少し口が大きいくらいだろうか。

「おばあちゃん、あの子」

と言いかけた時、祖母は

「目を合わせちゃダメ、知らん顔してなさい」

いつになく厳しい口調で言うと私の手を引いた。

私は歩調を早めて歩く祖母の横顔見て、見たことのない厳しい表情に驚いた。そして、駅への道を急いだ。


新学期が始まると、早速部活の勧誘が始まった。

「今年はかわいい子いるかな。やっぱりだめか」

「まあ、期待するな、こんなもんだろう」

「あ、あの子可愛くないか」

「もう、止めろよ。あ、気づかれたみたいだぞ」

「おい、岩井と山口、あのポニーテールの色の白い子、勧誘して来い」

美緒はどちらかといえば小柄で色が白かった。

黒目がちの大きな瞳でやや小さな口元はふっくらしている。つやつやした黒髪を結んでポニーテールしていた。

岩井は美緒に声をかけた。

「テニス部に入りませんか」

一瞬美緒は、入学式に見かけた季節外れの服を着た少年だと思った。けれど、よく見ると髪の色も違うし、口元も微妙に違う。

結局、美緒は少年の勧誘もあって中学から続けていたテニス部に入ることにした。

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黄昏の君 中山 みどり @mimahi686

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