第6話 三代目 直記ペンのように直行する私の行き先

 最近の岡崎の日課は、仕事が終わったらブッコローと会うことだった。定時になるとさっさと荷物をまとめ、ブッコローがいる広報部に向かう。今日も二人で会議室に入る。


「ブッコローこれ食べる?内野さんからもらったの。」

「あの人変った食べ物仕入れるよね。何これ?」

「ドライたくあん。」

「えーどんな味なんだろう。」

「食べてみてよ。」

「食べたよ。うーん、うわー、そういうことか。」

「どういうことなの?じゃあ、こっちは?」

「これは何?」

「ドライマンゴー。」

「あ、これはうまい。」


 しかし、そんな平和な時間は長くは続くはずはなかった。突然会議室のドアが開いた。


「一体、そこで何をやっているんだ?」


 入ってきたのは、松信社長だった。


「ひえっ。あの、YouTubeの打ち合わせをしていたんです。」

「ほう、私からのお願いを忘れていなかったようですね。どう見てもいちゃいちゃしていたようにしか見えませんが。」

「あの、YouTubeはブッコローとペアでやるつもりなんです。」

「ペアで?」

「はい、そうだよね、ブッコロー。」

「え?えっと、はい、そ、そうです。」

「本当かなあ。そのお菓子はなんだね?食べて遊んでたんじゃないのか?」

「何言ってるんですか。商品紹介ですよ。YouTubeのコンテンツを考えていたんです。実際に食べてどういうトークをするか、とか。」

「なるほど、一理あるかもしれないな。じゃあ一度撮影して見せてください。」

「わかりました。」


 社長が部屋から出ていったのを確認したら、ブッコローが早速岡崎に文句を言う。


「どうしてYouTubeプロジェクトに俺を巻き込むんだよ。」

「しょうがないでしょ。あの場をごまかすにはそれしかなかったのよ。」

「このままいったら本当に俺もYouTubeやることになるじゃないか。」

「やろうよ。そうしたら、打ち合わせや撮影のとき毎回会えるじゃない。」

「それもそうだな。俺もYouTubeやろうかな。」

「やったー。」


 こうして、有隣堂のYouTubeチャンネルの方針が決まった。それから幾度となく試作された動画はいつしか社長承認が得られ、有隣堂のYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」は開始されることになったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る