第1話 どうせ私は文房具王になり損ねた女
店はすぐにわかった。「居酒屋一角」と書かれた入り口を入ると、店内はほぼ満席で、岡崎が入ったことを気にしている人は店員を含めていなかった。「みんなどこにいるんだろう。」
「ザキさん、こっち。」
ようやく聞き覚えのある声がした。声の方向を見ると、
「ここ、座んなよ。」
テーブル席にいたのは、いつものメンバーだった。「私、はじっこでいい。」そう言ったが、岡崎は真ん中の席に座らされた。大平に、「ザキさんは今日の主役なんだから真ん中座りなよ。」と言われれば従うしかない。
「全員そろったから、今日の幹事の僕がかけ声やるね、じゃあ、乾杯!」
そう言って、
「そりゃあ来るよ。ザキさんの残念会だって聞いたから。」
「うれしい。」
さらに岡崎は、間仁田の隣に見慣れない人というか鳥がいることに気づいた。「あれは誰?」と間仁田に尋ねると、
「ああ、こいつは今年広報部に入った新人。鳥類なんだ。名前はR.B.ブッコロー。ほら、ブッコロー、岡崎にあいさつしなよ。」
「こんちはー、ブッコローといいます。間仁田さんに誘われて、何の会かわからないけど、なんとなく来ちゃいました。」
「何の会かわからないって?さっき教えたじゃん。今日は、岡崎さんの残念会。この前、テレビチャンピオンっていう番組の文房具の回に出て、いいところまで行ったんだよ、なあ、岡崎。」
「そう、準優勝だったの。最後の最後で負けちゃった。」
「それでもそこまでいけただけでも十分すごいよ。」
間仁田はそう言ってなぐさめてくれる。
「でもくやしくって。あとちょっとだったのに。」
そう言う岡崎に向かってブッコローは言った。
「そうだよ、負けたら意味ないじゃん。社員に文具王がいますって言えば宣伝になるのに、がっかりだよ。」
「そんな言い方ないじゃん。ザキさんだってがんばったのに。」
内野がフォローしてくれる。それでもブッコローは言葉を止めない。
「がんばっても結果が出なかったらだめでしょって言ってんの。」
「まあここはおいしいものでも食べて、楽しくやろうよ。」
間仁田が間に入ってくる。
「店員さん、この店のおすすめの料理をお願い。」
「はーい、これどうぞ、当店自慢のから揚げです。」
店員の横田ひなのが明るい笑顔で、皿いっぱいのから揚げをテーブルに置く。
「おお、うまそう。」
大平が早速箸をのばす。
「うまい、うまい。」
「おいしいでしょ。当店自慢の人気商品なんですよ。」
横田がうれしそうに言う。
岡崎もから揚げを食べる。「うん、おいしい。だけどこのブッコローっていう鳥、感じ悪い。」
「それにしても岡崎さんはよく俺という鳥の前で鳥を食えるな、チャンピオンになれなかったくせに。決めた今日から、岡崎さんのことは、文房具王になり損ねた女と呼ぼう。」
「なにそれ。そういうブッコローだって鳥のくせにえらそうだよ。」
残念会はなんとなく気まずい雰囲気のまま終わってしまった。折角の残念会が本当に残念な会になってしまった、と岡崎は思った。「私、ブッコローのこと嫌い。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます