一章 高校生編 一年生

一節 入学

 春の風は新しい気持ちを運んでくる。温かい日差しは、制服に熱を帯びさせる。初めて袖を通したときの真新しい匂いに包まれた感覚は、まだ記憶に新しい。

 人が群がっているほうに行くと、中学校が同じだった倖成こうせい君を見つけた。


「おはよう、倖成くん」

「おはよう。あそこにクラスの紙があるから、まこ四組だよ。友貴ともきと一緒」

「そうなんだ。倖成くんは?」

「七組。僕は一緒の人いないや」


 全部で八組あるのだから、そうそう一緒にはならないだろう。それに、同じ中学の人は六人しかいないのだからなおさらだ。

 倖成君と話していると、向こうから友貴がきた。


「あ、玉木たまきくん、僕とクラス一緒だよ。よろしく」

「うん、よろしく」


 中学時代、僕と倖成君は二年と三年のときクラスが一緒で、部活も同じだったため、よく話をしていた。そのため、かなり打ち解けている。


 しかし、友貴とは一度も同じクラスになったことがなく、そのうえ話したのも、受験に行った日の電車が初めてだった。

 だからまだ少し気まずい。気さくに話しかけてくるからこそ、僕は距離感がつかめずにいた。


 三人で少し話した後、倖成君と別れて教室に向かった。


「担任の江口えぐちです。なんだかみなさん、まだまだ緊張していらっしゃるような感じなのでですね、自己紹介をやっていこうと思います。じゃあまずは私から、年齢は二十歳から三十歳くらいの予想だと思うので、そう思って下さってよいかと思います。感覚はみなさんに近いと思いますので、気軽に話しかけていただけると、かなり喜ぶかと思われます。担当は国語で、このクラスでは現代文の授業を受け持たせていただきます。熊名東高校は七年目です。どうぞ一年、よろしくお願いします」


 若干役者めいた話し方をする江口先生に、空気が少し軽くなり、その後の自己紹介は淡々と進んでいった。


「南中学校出身、田原友貴たはらともきです。中学は野球部でした。一年間よろしくお願いします」


 前の席の友貴が自己紹介を終え、僕の番が来る。


「同じく南中学校出身、玉木悠太たまきゆうたです。部活はバレーボールをやっていました。よろしくお願いします」


 家から一番近い高校は、中学との距離が近いため、変わり映えのしない人たちに囲まれる。もっと広い世界を知りたいと思っていた僕は、熊名東くまなひがし高校を選んだ。僕の一年四組に同じ中学の人は友貴しかいない。僕は新しい気持ちで、自己紹介を済ませた。


「一通り終わりましたが、いかがでしたでしょうか」


 自己紹介が終わり、先生がまた話し始めた。

 初めての自己紹介というものは、かなり気を遣うため、案外疲れるものだ。その一仕事終えたと言わんばかりの空気に、先生は苦笑いをしながらも、次の提案をした。


「えーっとですね。まだまだ緊張してるようなので、時間もありますし、もう少しだけコミュニケーションを、今度はお隣さんと交流しましょう。話題はそうですね、目玉焼きに何をかけるかで」



――――登場人物――――

玉木悠太たまきゆうた 僕

 中学時代はバレーボール部。


前川倖成まえかわこうせい 倖成くん

 中学時代は、僕と同じくバレーボール部。

 二年間クラスも同じでよく話をした。

 僕をまこと呼ぶ。


田原友貴たはらともき 友貴

 中学は同じだが、話したのは高校受験の日が初めて。


江口えぐち先生

 高校一年生のときの担任。担当科目は国語。

 役者めいた話し方をする人。

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