異世界で生きるのって難しい
U0
1回目 異世界へ
「きたぁーーーー!!!」
俺は興奮のあまり、つい叫んでしまっていた。
幸い、周囲は草原が広がるばかりで誰もいない。
俺は一旦冷静になって状況を確認しようと、記憶を辿った。
◇
つい少し前、俺はいつも通り、憂鬱な気持ちで学校に登校しようとしていた。
いや、いつも以上に憂鬱だっだ。
なぜなら、今日は期末テストがあるはずだったのだ。それなのに昨日の俺は、結局全く勉強をせずに、溜めていた漫画を一気読みしてしまった。
時計が夜の2時を回ったあたりで我に返った俺は、勉強をしようと試みたが一向に頭が働かず、教科書の同じ行を繰り返し眺めるという愚行を数分間続けた後、現実逃避的にベッドに潜ったのだった。
翌朝、つまり今日の朝、起きた時の絶望感は、体験した事がある人なら共感してくれるだろう。
隕石が降ってきて学校休みにならないかな、などというくだらない妄想をしつつ、ふらふらと歩いていた時、それは突然に起こった。
目の前に全身真っ黒の服を着た、いかにもな不審者の男が現れたのだ。
黒いマスクに加えて、黒い帽子を目深に被っているから、顔はよく見えない。
背負った黒いリュックサックをゆさゆさと揺らしながら歩いてくる男に、俺は目を合わせないようにしつつ、少し距離をとってすれ違おうとした。
その時、
「お前でいいや。」
男が低いくぐもった声で言った。
(え?)
俺が視線を向けようとした瞬間、俺は腹部に激痛を感じていた。
(は?)
起きたことがすぐには理解できず、俺は混乱していた。
腹部におそるおそる目を向けると、男が手にしたナイフが刺さっていて、制服は赤く染まっていた。
(ぎゃぁぁぁぁーーー!!!!)
「あっ、あっ……。」
叫び狂いたい気分だったが、口からは情けないうめき声が漏れ出るのみ。
俺の腹部からは生温かい体液が流れ出し、文字通り血の気が引いていくような感覚に襲われて、そのまま俺は意識を失った。
◆
次に意識を取り戻した時、俺は穏やかな気持ちだった。
体はぽかぽかと温かく、そよ風に吹かれるような気持ちよさがあった。
(俺、死んだのかな……。)
あまりの心地よさに、つい天国を想起した。
(けど、意識があるって事は、まだ生きてるのか?)
(だとしたら……。)
俺が、病院の白い天井を覚悟して目を開けると、そこには雲一つない青空が広がっていた。
(あれ?)
俺は立ち上がり、周囲を見渡した。
(どこだ?)
周りには草原がずっと広がっているだけだ。
ふと、自分の体にも目を向けてみるが、刺されたはずの腹部には痛み一つないし、体に変な所もない。
まず最初に、あの男に刺されたのが夢だったのかとも考えたが、それだと今、目の前に広がっている見覚えのない景色の説明がつかない。
(ひょっとしてこれは……。)
俺は、物語によくあるあれを思わずにはいられなかった。
そう、異世界だ。
「きたぁーーーー!!!」
俺は思わず、叫んでいた。
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