会いたい
ニコラが姿を消して…早くも1週間が経った。
「なんで目撃情報もねえんだよ!?」
ハントの怒声が寮の部屋に響く。そして懐中電灯を手に持ち、乱暴に部屋を出る。
同室のロットは、ベッドに腰掛けて俯いていた。
「ニコラ…やっぱりあの時、1人で帰すんじゃなかった…」
その目は虚で、何も映していない。フラフラと立ち上がり、廊下に出る。
「ニコラ…どこに、いるんだ…」
向かうべき場所なんて分からない。ただただ、足を動かす。
そこに…同じように憔悴しきったゼラが姿を見せた。
「「………………」」
自然と合流した2人は街に出る。ゼラは人脈を駆使して聞き込み。ロットはひたすら歩く。遠くから、ハントの大声がしている。
彼らはこの1週間…仕事もサボってニコラを探した。昼間はもちろん、こうして夜も街を歩いて回る。誰もそれを咎められないし、止められない。
食欲も無く、ほとんど寝ていないせいで窶れてしまったが。動かずにはいられなかった。
アールから電話があった夜。ロット、ハント、ゼラと…ダスティンは彼女の帰宅ルートを辿った。だがどこにも、なんの痕跡も無かった。
もしかしたら、皇子のショックで一時家出をしているのかもしれない。胸騒ぎはするけれど、一旦それで王宮に帰った。
翌日になっても…ニコラはどこにもいなかった。
不安で泣きじゃくる3人娘と。妹達を守るため、気丈に振る舞うアール…ただその顔色は最悪だった。
アールも探しに行く!と主張したのだが…ロットの「妹達を支えてやれ。ニコラが帰ってくる家を、お前が守れ」という言葉に、涙を呑んで頷いた。
もしかしたら。皇子に会いたくないから…逃げているのかもしれない。
ただあのニコラが、他はともかく弟妹に何も言わずに姿を消す訳がない。むしろ家に引きこもるか…5人で一緒に逃げるか。
最低でも「皇子が帰るまで隠れます」と書き置きはする、と確信がある。
もしかしたら…皇子が彼女を攫ったのかもしれない?ツェンレイに連れて帰るなんて宣言していたようだし…
だがステランも焦った様子で、己の護衛騎士にニコラの捜索を命じていた。必死な様子から、純粋に彼女の行方を案じてるのが分かった。
つまり…ニコラの失踪に、ステランは無関係。
なんらかの事件・事故に巻き込まれた可能性が非常に高かった。
すぐに捜索届けを出し、調査が始まったけれど。ここで…問題が発生した。
仮にニコラが誘拐されたとして。男性として…女性として…どっちだ?
女の子に勘違いされてだったら、最近の失踪騒ぎと関連があるかもしれない。けど男としてだったら…全く別のルートになる。
ここで「ニコラは本当は女の子なんです!だからそっちの線で探してください!」なんて言ってしまえば。もう1つの可能性を潰してしまう。
なのでロット達は、どちらの線も考慮してほしい…と捜査官に願った。女性と見間違える程可愛らしいので、確かにと納得してくれた。
「(そもそも…皇子が余計なことをしなければ。ニコラはあんなに取り乱さなくて、僕達の誰かが付き添って!安全に帰ったはずなのに…!!)」
ロットは涙を流しながら、ステランへの憎悪を募らせる。
愛しい彼女の安否が分からない今…誰かを、何かを憎んでいないと狂ってしまいそうになるのだ。
「(……いや…違う。たとえ切っ掛けはそうだとしても。彼女から目を離したのは…僕達の責任だ。必ず側にいるって…誓ったのに…!)」
乱暴に袖で顔を拭い、唇を噛んだ。血が出てきても構わない。焦りと不安に圧し潰されてしまいそうだ…早く、早く会いたい…
更に3日後。その間も、女性の失踪事件は続いていた。これまで失踪したと思われる女性達は、身体の一部すらも発見されていない。
ならば…人身売買目的で、すでに首都にはいない可能性もある。捜査の範囲を広げる必要がありそうだ。
その頃ダスティンも、ニコラの失踪に心を痛めていた。純粋に心配な気持ちと、親友が探し求めていた女性を見つけたのに…と。
「(これでルーファスも喜ぶと…皆が救われると思ったのに…!)」
ギリ… と歯軋りをして拳を握り、捜索に参加する。ニコラの笑顔を、また見るために。
若い女性には、昼間であろうと1人で出歩かないよう注意喚起していたある日…動きがあった。
昨日姿を消した19歳の女性の家に、直前に…何者かが訪ねてきたというのだ。それは若い女性だった為、家族もただの友人だと思ったらしい。
だが、少し出て行くと言ったきり…帰ってこなかった。彼氏の家にもいなかった。
その女が怪しい、と徹底的に正体を探る。存在も分からなかった尻尾を掴んだんだ、捜査の熱は高まった。
するとその女は…以前に慈善活動と称して、美しい娘を引き取ったことが数件確認された。次は…どこの誰なのかだ。
更に2週間後。事態は急変する。
「誘拐されたと思われる女性が保護されました!そこで…ニコラと名乗る少女と接触したそうです!」
「「「……!」」」
報せを聞き、ロット達は捜査本部に走った。
もう、駄目なのかもしれない…と最悪の未来すら想像した。一縷の望みに懸けて、必死に足を動かす。
「まず詳しい場所は不明だ。外が見えない状態で少し移動したというが…総合すると、どこかの貴族家と考えられる。
そして、ニコラという少女の発言が鍵だと思われる」
「なんだ!?ニコラはなんて!?無事なのか、今どこにいるんだっ!!?」
ハントは捜査隊長の胸ぐらを掴むも、周囲に落ち着け!と宥められて少し冷静になる。
逃げた女性の話では。連れてかれた部屋には同じように…多くの女の人がいて。
皆…血を抜かれている、とのことだった。それ以上は犯人の顔も何も分からなかったけれど。証言によると。
「みんな、何か薬を使われているのか…目の焦点は合っていなくて、ぼうっとしていて…腕や足、胸なんかを切られても無反応で…!
私は使われる前に、ニコラさんという人が助けてくれたんです。袋を震える手で指差し、「入って。逃げて…」と。
そ、そこには…首の無い死体が入っていました…!おぞましくて吐き気がしたけれど。「生きたいなら、入って」と…
ニコラさんに言われた通りに死体を出して、部屋の隅に隠して。入れ替わって…外に出れたんです…。そこからは燃やされる前にどうにか逃げました。
ニコラさんも身体が動かないようでしたが、最後に。
犯人は森の魔女。と…確かに言っていました」
「森の…魔女…?」
それが何を示すのか。誰にも分からなかった。
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