人を好きになること


 ニコラはその話を、遊びに来たロットにした。


「ゼラ卿…!?お前は絶対関わるな!もし接触してきたら、僕に連絡しなさい!」

「?わかった」


 ロットは真剣な顔で、ニコラの肩を揺らす。会話を聞いていたアールも顔を険しくした。


「どんな騎士なの?わたし、男装してるのに気に入られたの?」

「………もしかしたら、気付いたのかも」


 うへえ、とニコラは舌を出す。そんなの、どうしようもないじゃないか。


「未成年に手を出しはしないと思うけど…」

「ふーん…ゼラ卿って、本名は?」

「えーと、確か…ゼラヴィストローネルラックだったかな」

「「長っ」」


 ゼラは強いし明るく社交的で、いい奴なんだが…軟派な性格が全てを台無しにしている、とロットは語る。



「……ふーん。恋愛って、そんなにいいもんかなあ…。わたしはやだなあ…」

「え……

 に、にーちゃん。いつか…結婚とか、考えてないの…?」

「全然」


 アールは絶望の表情。なにせ将来、ニコラと結婚という夢を見ていたから。

 ロットも悲しげに目を伏せた。過去を聞いているからこそ「そんなことない、恋愛はいいぞ」と言えない。自分もしたことないし。



「……エリカ達が…いつか、素敵な旦那様と出会えて。アールにも可愛いお嫁さんが来てくれたら。嬉しい…とは思ってる。

 だけどどうしても、自分が誰かと…って考えられない」

「「……………」」


 ニコラはグラスに残っていたジュースをぐいっと呷り、テーブルに置いた。


「恋している人を、否定する気はない。わたしには関係ない…それだけ」



 だってニコラは。大恋愛をした人達のせいで、不幸になった立場の人間だから。




「にーちゃん。マチカねえ、今日もいっぱいおてつだいした!」

「偉いね。よしよし」


 夕食後。頑張ってお皿を運んだマチカは、子犬のようにニコラに頭を撫でてもらった。まだまだ無邪気な、可愛い末妹。


「にーちゃん、おさとう無くなってきちゃった。明日おかいもの行こ」

「わ、ありがとう。じゃあ一緒に行こうか」


 3人娘の中で、1番しっかり者のスピカ。だけど本当は1番寂しがりで、ニコラに抱っこされると大変喜ぶ。


「ねえにーちゃん!大通りのお花屋さん、格好いいんだよー!連れてってー、近くで見てみたーい♡」

「あーらら。男を顔だけで選んじゃいかんよ」


 最近すっかりませてきたエリカ。ニコラよりよっぽど、お洒落に気を使っている。



 この3人は将来、どんな男性を連れてくるのだろう。

 もし…アールみたいな子だったら大歓迎。

 ロットやハントみたいのだったら、最初は反対しちゃうかも。

 ゼラタイプは…断固反対だが…本人が幸せなら…!いいや、気の多い浮気者はお姉ちゃん許しませんよ!!!


 と。ニコラは迎えてもいない未来を憂いていた。



「にーちゃん。何百面相してるの…?」

「お?いんや、なんでもないよ」


 アールは…この家唯一の男として、4人を守る!と気合を入れている。毎日筋トレしてるし、勉強も頑張っている。そしてニコラには内緒で、ロットに剣を教わっている。


 あなたはゼラ卿みたいな、軟派な男になっちゃいかんよ…。1人の女性を愛して、守るんだよ…ニコラはそんな想いを込めて頭を撫でた。




 寝る前に。ニコラは自室の引き出しから、小さな箱を取り出した。木の根元に埋めておいた、宝物のペンダント。


 これは貴族令嬢時代…ある人に貰ったもの。とても大切な人で…売らずに済んでよかった、と今は思う。

 このペンダントを手放すのは…相手に返す時。いつか、いつか必ず会いに行こう。



「にーちゃん、ねむいー」


 マチカが目をこすりながら、部屋に入ってきた。ニコラは眺めていたペンダントを箱に戻して、そっと片付ける。




 もし、もしも仮に万が一、わたしが誰かと恋愛するなら。

 その時は…誠実な人がいいな…と。ニコラは眠りについた。






 翌日。ニコラの家と職場の門、及び隊舎は歩いて15分の距離である。

 家を出て、5分ほど歩いたところで…後ろからポンっと肩を叩かれた。

 振り向くと、逞しい胸板しか見えない。視線を上に…眩しい金髪のイケメンが、ニッコニコでニコラを見下ろしている…


「やっほ!久しぶり、かわい子ちゃん!」

「………………………」

「あははっ、面白い顔してんね!俺のこと覚えてる?こないだ門で会ったでしょ」



 ニコラはかわい子ちゃんって言う人、本当にいるんだな…と思いつつ。

 この男…ゼラヴィストローネルラックをどう撒こうか、頭を悩ませていた。


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