秘密を守る代わりに…


 ざっざっざっ


 すたすたすた


「歩くの速いね!」

「………………」

「俺ゼラヴィストローネルラックっつーの。長いからゼラでいいよ!キミの名前は?」

「……………………」


 ニコラは精一杯早歩きをするが。足の長さが違いすぎて…ゼラは余裕でついて来る。

 その間も色々話し掛けてくるが完全無視。



「わお、つれないところも可愛いね。仕事何時に終わるの?よかったら夕飯食べに行かない?もちろん奢るよ☆」

「…………」


 奢り、という単語にピクッと反応。いやいや、施しは受けぬ…得体の知れん男なら尚更。

 ただモテる男というのは、女性のほんの少しの変化も見逃さない!


「俺、美味しいレストラン知ってるんだよ〜。ね、どうどう?」

「……………」だっ!

「あっ」


 この辺でニコラは逃走。職場は知られてるから意味無いかもしれないが…とにかく走った。

 途中振り返ってみたが、ゼラはついて来なかった。


「あら〜、ガード硬いな〜」


「なんだったんだ一体…」






 翌日。


「やほ☆」

「…………………」


 またいた。今度は仕事終わり…夕方に姿を現した。


「(ハロット兄弟は週1…非番の日しか来ないのに。ヒマなのか…?)」

「ね、夕飯が無理ならお茶でもどう?」

「…………どうして、ボクなんですか?」


 逃げる意味はないと悟り、ニコラは渋々返事をした。


「声も可愛ーね!いや…さ」

「?」


 ゼラは声を潜めて、ニコラに顔を寄せて耳打ちする。



「可愛い女の子が男に紛れてたから、おにーさん気になっちゃってさ」

「………………こっち…」


 やはり、完全に気付いている。ニコラは少し考え…人の少ない路地裏に誘導した。



「わ、大胆な子だね!でも残念、俺未成年はNGなの」

「どうして気付いたんですか?」


 アホな言葉はガン無視。ゼラは肩を竦めてみせるが、楽しげに話を続ける。


「見りゃ分かるよ、こーんな可愛い男がいる訳ないじゃん!

 ああでも俺、前からキミのこと知ってたんだ。あの気難しい双子が可愛がっている男の子、ってね。王宮の一部で有名だよ」


 双子といったら、あの双子しか知らない。だが、気難しい…?


 ニコラを宝物のように、非常に大切にしてくれるハントと。

 真面目で堅物だが、揶揄うと面白いロットが?



「それ、キミに対してだけ。普段は全然違うよ?

 ロット卿は無口で、仕事以外は大体単語で返事するし。社交性皆無だし。

 ハント卿はいっつも不機嫌顔で、短気でよくキレてるし。上官の言うこと無視することもあるし

 それにどっちも、令嬢のお誘いには全然乗らないんだ(多分むっつりだと思うけどね〜)」


 あらびっくり。だが確かに…ハントは最初、暴走してたなー…と過去を懐かしむ。



 それは分かったが。じゃあゼラは何しにニコラに会いに?


「最初は「へー」しか思ってなかったけど。門で初めて見かけた時に、ビビッときちゃった!ねえねえ、18歳になったら俺と付き合わない?」

「お断りします」

「即答!!そんなところも可愛ーね!」

「…………………」


 言ってろ、と思いながら。ニコラはゼラに背中を向けたが…



「ん〜…バラされちゃったら…困るんじゃない?」

「…………………」


 その発言には、足を止めざるを得ない。

 文句を言おうと、振り向いたら…


「………っ」

「ねえ、俺の何が駄目?こう見えて一途な男だよ〜」


 壁際に追い込まれ、顔の両側に手を突かれた。顔は吐息が掛かるほど近く、ゼラの長い睫毛がよく見える。逃げられない…瞬時に理解した。

 だが体格差がありすぎて…ときめきよりも、恐怖のほうが遥かに大きい。


「……………………」

「(ヤバ、怖がってる…!)なんてね☆壁ドンってもう古いよねー、前はウケたんだけどっ!」


 ニコラが顔面蒼白でカタカタ震えていたら、ゼラはパッと離れた。ニコラはその場にずりずるとへたり込む。

 心臓がバクバクと、嫌な音を立てている。もしも…ゼラが強引に迫ってきたら。ニコラに逃れる術は無い。剣を振っても、騎士には勝てないだろう。



「ごめんね!俺、嫌がる女の子に無理強いする趣味ないから!

 本当に、キミと仲良くなりたかっただけ〜」

「………職場に、バラすつもりですか」


 ニコラは声を震わせながら、必死にゼラを睨む。ただ涙目なせいもあり、可愛らしく見上げているようにしか見えない。


「(うわ、これでよく襲われないな…ヤバくない?気が強い子って聞いてたんだけど…男が怖いのかな…?)」


 ゼラは動けないニコラから5メートルほど離れて、目線を合わせるようにあぐらを組んで座った。


「しないって〜!」

「……信用できません。ボクはあなたのせいで、職を失う危険もあります」

「うーん…じゃあ、キミのお願いなんでも1つ、聞いてあげる」


 だから信じて〜!と、ゼラはウインクしながら両手を顔の前で合わせた。全く意味が分からない、普通逆ではないだろうか。


「それではあなたに、なんのメリットもありませんが」

「え?あるよ?

 キミみたいな可愛い子とお友達になれるんだから」

「はえ?」


 お友達…?なんで?と本気で困惑する。



 だがゼラは、ニコラが怯えていたら離れてくれて。家や職場に押しかけたり、秘密を盾に脅したりはしてこない。

 なるほど、ロットの言っていた…「軟派なところ以外は完璧」か。


「だって、キミってレイリア殿下の公務の一環で、今の暮らししてるんでしょ?

 仕事の斡旋だって、言ってしまえば殿下の決定だし。俺が秘密をバラして、キミが兵士をクビにでもなったら。

 俺は殿下の仕事を否定してるようなモンだしー。本当のほんとに俺は、キミと仲良くなりたいだけ☆」


 ミャハ☆と自分の頬を人差し指で指している。ガタイのいい男がやっても可愛くはない。


「…………………」


 まるっきり信用できないニコラ。考えに考え…



「……あなた。沢山食べるほうですか?」

「へ?あ…うん。よく食べるよ…?」


 よし。と拳を握る。2人は大通りに戻って、とある場所を目指した。

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