仲直り
初日は仕事の説明、案内をしてもらい。実際に門に立つ。
「あれ、おにーちゃんだあれ?」
「オレ?ニコラ。新人」
「………ふーん?」
「???」
おやまあ。5歳くらいの可愛らしい女の子が、ニコラの周囲をぐるぐる回って観察している。
なんとも居心地の悪いニコラだが、同僚は笑いを噛み殺しているように見えるぞ。
「きめたわ!しょうらいケッコンしてあげる!」
「はへ?」
「こらっ!もー、お前は…!」
この辺で同僚は噴き出した。女の子は父親と思しき男性が抱っこするも、ニコラに投げキッスを飛ばしている。
彼らは山菜採りに行っていたようで、教わった通りに手続きをしてみた。外出記録と照らし合わせて…身分証を確認。これは読み書きをマスターするまでは、同僚にやってもらう。
門には基本的に2人、1人は文字を扱える者が必須。書類を扱えれば、給料も僅かにアップするのだ。
その間女の子は、ずっとニコラを見つめていた。
「ごめんなさい!この子はもう、ちょっと格好いいお兄さんを見るとこれだから…」
「かっこいい?オレ」
「ええ!今のところおムコさんこうほ、ナンバーワンだわ!ちゅっ♡」
ハートをガンガン飛ばす女の子。父親は呆れながら、女の子を連れて帰って行く。
「(……わたし、格好いいのかな?うーん…子供の感性だし、あんまりアテにしないでおこうっと)」
実際ニコラは、格好いいより可愛いという言葉が似合う。短いけれどサラッとしたオレンジの髪に、宝石のように輝く青い瞳。栄養が足りてないせいでもあるが、小柄で細く儚げな印象を与える。
クランスなんかは一瞬、可愛い女の子が制服着てる!と勘違いしてからの…絶望を数秒で味わったほどに。
それを自覚していないのは、自分よりも3人娘が可愛くて仕方ないから。ニコラの『可愛い』基準は幼女なのである。
初日が終わり、帰路に着く。なんか…楽しかったなー、と1日を振り返る。
ずっと立ちっぱなしかと思っていたが、意外と休憩もあって。気のいいおっちゃん(時々若者)ばかりで。
上手くやれそう…とぐっと拳を握った。
「ニコラ」
「?」
大通りをてくてく歩いていたら、前から背の高い男が2人近付いてくる。あれは…ロットとハントの兄弟だ。ニコラは軽く右手を上げて挨拶。一応仕事を斡旋してくれた恩人なので。
「よ」
「……よう。ほら、言うことあるだろう」
「………………」
ただそれはロットのみ。ハントには腕を折られた怒りしかない。
ロットがハントの背中を小突き、ニコラの前に立たせる。ハントは眉間に皺を寄せて、俯くばかり。背の低いニコラからは、その顔がよく見えた。
「(いじけてる?どうせ謝罪なんてしないだろうな。しても軽〜く済ませるんだろーなー)」
とため息をついた。しかし…
「……悪かった」
「へ?」
「本当に…ごめん。腕…痛かったろう。ごめん…ごめんなさい…」
「……………」
これにはニコラも絶句した。ハントは唇を震わせて、悪いことをした子供のように謝罪を繰り返す。
謝り慣れていないからだろう。ニコラは…「ちょっと可愛いなこの人」と思うようになった。
もう腕も治ったし、治療費はハントの家が出したと聞いている。なので…謝罪されれば、怒る理由もない。
「もういい。はい」
「!!?」ぴき…
ニコラは元々怒りが長続きしない。本当に嫌いになった相手なら、怒るというエネルギーを使うのも面倒だからだ。
なので、仲直りの印に握手を求めた。右手を差し出すと…ハントは固まった。
「「?」」
まるで石像のように、微動だにしないハント。数秒後…恐る恐る手を上げて。
ぶぶぶぶぶ…と小刻みに腕を震わせて。ちょん…とニコラの頬を突ついた?何を考えているのか、つんつん…むにっ。
「なんだコラ」
「手え握っても、折れないよな…?大丈夫?平気か…?」
「は?」
びくびく、ぶるぶる。ニコラが身じろぎすると、ひゃあっ!と肩を跳ねさせる。この細い腕を折ったのが、かなりのトラウマになっているようだ。まあ仕方ないけども。
痺れを切らしたニコラが、ハントの右手を強引に掴んで、上下に大きく振る。ハントは抵抗もできず、握り返すこともできず。されるがまま。
「はい仲直り、終わり!」
「……許して、くれるのか?」
「アホか」
大きなハントの手の平を掴む、小さな手。
俺は…こんな小さな子を、傷付けた。
それがどうしようもなく苦しくて、込み上げてくる涙を必死に押し留める。
「…帰る」
「あ…」
ニコラは左手に変えて、手を繋ぐ形で歩き出した。ハントは歩幅を合わせてゆっくり歩く。ロットはそんな2人を、後ろから見守りついて来る。
そ…っと、指を曲げて。小さくて温かい手を握った。もうあんなことは繰り返さない。決して…!と強い決意をする。
そして、ニコラの家に帰って来たのだが。
「お前は帰れーーー!!!その手を離せ!にーちゃんに触るな!!!」
「ごめんってば〜〜〜!!!」
ニコラはハントを許したけど。アールは大好きなお姉ちゃんを傷付けられて、許せる訳がないよね。
げしっ! バタン!!! ガチッ!
「「……………」」
締め出された騎士2人。
「(僕、とばっちり…)」
「(そうだよな…俺、最低なことしたもんな…。弟ができたみたいで、嬉しかったけど…)」
肩を落として、寮のある王宮に帰って行くのであった。
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