闇アキバ

@ksilverwall

第1話

闇。

それは、忌むべきもの、恐るべきものの代名詞だ。

しかし今の俺にとっては唯一心を休ませることの出来る静寂だった。

人々の希望の光は、決して埋めることの出来ない喪失感をクッキリと浮き上がらせて、俺はそれから逃げるように、真っ暗な闇の奥底へと足を進めて行く。深く。深く。どこまでも。どこまでも。


「PPPH氏殿?」

背後から不安そうな声が俺を呼ぶ。

黙りこくってしまったせいで彼を不安にさせてしまったらしい。


「ああ、すまない。俺が初めてここを通った時のことを思い返していたんだよ」

俺はニッコリと笑いながら歩みを止めずに首だけ振り返る。

そこには眼帯をつけ身体のあちこちに包帯を巻いた、痛々しい姿の青年が、恐る恐ると俺の後をついてきていた。


俺たちは明かりも限られた曲がりくねった地下道をゆっくりと降っている最中である。


「オタク狩りにやられた傷は大丈夫かい?」

俺は彼の不安を和らげるために当たり障りのない気遣いの言葉を投げかけた。


「こ、この程度の傷、大したことでは」

青年は強がるように言ったが、言葉には怯えの色が感じられた。


「怖いのは皆同じさ。奴らの恐ろしさは俺も身をもって味わったよ」

そう言ってかつて右腕があった場所を左手でトントンと叩いた。

そうですか、と青年は呟くと自身の眼帯にそっと手を当てた。


「だが、もう大丈夫だ。この先にあるのは俺たちの、俺たちによる街。もう怯えて暮らす必要のない理想郷さ」


そう言い終わると俺たちは丁度下りトンネルは終え、開けた場所へと出た。


「ま、まさか、実在するとは思いませんでしたよ」

青年は叫びを上げるのを押し殺し、震える声で呟いた。


今にも飛び上がりそうな青年の方にそっと手を置き俺は優しく語りかけた。


「ようこそ。闇アキバへ」

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