魔王討伐後勇者パーティーの仲間に裏切られ殺されたら、イジメられている辺境の村娘に憑依転生しました⁉~剣を極めた無名の英雄は、落ちこぼれ村娘を最強に鍛え上げる!!~

水瓶シロン

第一章~憑依転生編~

第一節:運命の邂逅

第01話 落ちこぼれ少女と名もなき英雄

 大陸西部に位置する大国、リーディスト王国。その北端にある辺境の小さな村で、いつもと変わらぬ光景があった――――


「や、やめてっ……!」


「ばぁ~か! 誰が止めてやるかよぉ~! ひゃははは!! ほらっ、お前らもやっちまえ~!」


 まだ幼さが窺える少年少女ら数名が、同じ年頃の少女を取り囲んでいた。


 その少女の名はクリシア。歳は十二、三でまだ幼いながらに、その顔は楚々と整っていて将来は美少女と呼ばれるに相応しい容姿に育つことは間違いなかった。加えて肌も白磁のようで、肩甲骨辺りまで伸ばされた髪は新雪を紡いで編んだかのように純白で美しい。瞳は深い海の色で長い睫毛が彩っていた。


 しかし、そんな容姿とは裏腹に、身に纏う衣服は粗雑なもの。そして、現在進行形で取り囲む子供らに小石や泥を投げつけられていて、その身はどんどん汚れていく。


 クリシアは村の近くにある山で野草や山菜を取ってきた帰りで、両手に抱えるザルに乗せている。そして、それを自分の身を盾にしてでも守るように背を丸めて、ザルを胸に抱える。


「い、痛いっ……!」


 クリシアが悲痛の声を漏らしたところで、子供らを取りまとめている一人の少年が一歩歩み出てきた。村長の息子のグラッドだ。歳は皆と同じだが、発育が良く背が高い。短く切った茶色い髪が特徴的だ。


「どうだ? そろそろ俺様のモノになる気になって来たかぁ~?」


 グラッドは舌なめずりをしながら、目の前の傷付いたクロリアをじっとりと舐め回すように見る。クロリアはそんなグラッドに生理的嫌悪を感じずにはいられず、身をブルッと震わせた。しかし、これまで何度も同じようなことをされてきた中で、屈したことは一度もない。

 クロリアはグラッドと正面から向き合うと、きっぱりと言い放つ。


「いえ、私は貴方のモノになどなりません! お断りですっ!」


「ちっ……しぶとい女だなまったく。けど、今回はいつもみたいに終わらさねぇからな?」


 そう言ってグラッドは右手を持ち上げて手の平を上に向ける。そして、怪しく口角を釣り上げた途端、右手の上にボッと赤い火の玉が一つ出現した。魔法だ。


「おぉ! グラッドさんの魔法だっ!」

「すげぇ!!」

「グラッド君は火属性魔法の術式を持って生まれてきたのよね~」

「おまけに、もうレベルCなんだってよ!」


 ――人は生まれながらにして、その身に魔法の術式を宿している。属性は数多あり、身に宿している術式によって決まる。そして、一人一属性というのがこの世界の常識だ。

 また、使用できる魔法の規模や強度によって六段階の評価基準があり、最低のレベルEから最高のレベルSまで存在する。これらのレベルは魔法の修練によって上げていくことが出来るが、グラッドはこの歳にして既にレベルCにまで到達していた。辺境の村にとっては誇りであり、希望だ。


「へへへ、謝るなら今の内だぜ? どうする、クリシアぁ~?」


「……わ、私は……! 私は誰のモノにもなりませんッ!!」


「クソがッ! ならこうしてやる! 《ファイア・ボール》ッ!!」


 グラッドが右手に灯った火球をクリシアに投げつけた。火球は真っ直ぐクリシアに飛んでいき、身体に直撃。威力は抑えられていたので火傷などはなかったが、クリシアは地面に倒れ込んでしまう。


「きゃっ……!?」


「お前が俺様の言うことを聞かないからこうなるんだよ。ひゃっははははは!!」


「あっ、山菜が――」


 クリシアが倒れたはずみに地面に散らばった野草や山菜。グラッドはそれを踏みしだき、にやっと笑ってクリシアを見下ろす。そして、グラッドに続くようにその取り巻き達も足でクリシアが山から摘んできたものを踏んづけた。


 クリシアは、そんな仕打ちを受けてもなお唇を噛んで耐える。瞳の端にうっすら涙が滲んではいるが、流しはしない。


「っ……!」

(耐えるのよ、クリシア。ここで泣いたりしたら、皆の思う壺だもの! 負けちゃダメ!)


 しばらくすると、グラッド達は立ち去って行った。クリシアはゆっくりと身体を起こし、踏みしだかれた野草や山菜の中から、まだ使えるものを選別してザルに移す。山から戻ってきたばかりの頃の三分の一もない。


 衣服に砂や泥を付け、腕や脚に擦り傷を作った姿で帰宅。


「ただいま帰りました……」


「遅いッ! 一体何してたの……って、全然取ってこれてないじゃない!!」


 帰宅そうそうクリシアにそう怒鳴るのは、育ての親であり義母のモリーだ。小太りでクセの多い焦げ茶の髪の毛を肩口まで伸ばしている。


「ご、ごめんなさいお義母さん。本当は沢山摘んできてたんだけど、帰りにまた嫌がらせされて――」


「――言い訳は止めなさいッ!! ちょっと嫌がらせされたぐらい何よ! それくらいどうにかして対処しなさい!」


 そうモリ―が怒鳴り散らかしていると、その後ろから義父であるガレフが姿を見せる。こちらもやや太り気味で、口を覆うように薄っすら髭が生えている。ガレフは笑いながらモリ―の肩に手を乗せた。


「ははは、駄目じゃないかモリ―。クリスにそんなことできっこないさ。なぁ?」


「……」


 ガレフがクリシアに暖かな視線を向けたかと思えば、一瞬にして人を見下すそれに変貌する。


「水属性魔法の術式適正を持ってるが、いつまで経ってもレベルE。最低のEだもんなぁ? 落ちこぼれで無能で馬鹿なお前が、あのレベルCのグラッド君に勝てるわけないもんなぁ?」


「……ごめんなさい」


「別に謝ることじゃないさぁ。お前は見てくれだけは良いんだから、適当にグラッド君に抱かれて来ればいいんじゃないかぁ? 気に入られると思うぞ? そうすればもう嫌がらせなんてされなくて済むってもんだ、ははは!」


「っ……!?」


 ――クリシアに居場所はない。いつものことであった。



◇◆◇



 時は二百五十年ほど遡る。まだ人類が魔王率いる魔族との戦争で多くの血を流している時代である。しかし、今この瞬間、人類はその戦争に勝利した――――


 黒髪の少年が、魔王の胸に剣を突き刺していた。


 少年の名はフィン。十七歳。魔法の才能に恵まれず、身に魔法術式を宿していないため一切の魔法行使が出来ない。しかし、代わりに振るい続けた剣の腕は極限にまで昇華されており、剣一本で勇者パーティーの一員として役目を果たしてきたのだ。そして今、その刃は魔王の命に届いた。


「はぁ、はぁ、はぁ……これで終わりだ、魔王」


「ふっ……まさかこの私に止めを刺したのが、魔法も使えぬただの剣士だとはな……」


 魔王は長い白髪の髪を力なく垂らしながら、不敵な笑みを溢した。そして、目元を覆う仮面の下でゆっくりと目蓋を閉じる。すると、淡く身体が発光し始め、徐々に身体の端から光の粒子となって大気中に溶けていく。


「貴様の剣は実に見事だったぞ……もはやそれは、魔法の域に達していると言ってもいい。ふふっ、来世なるものがあるならば、私も会得してみたいものだよ……」


 そう最後に言葉を残して、魔王の姿は完全に消失した。フィンは一度剣を宙で振ってから腰の鞘に納める。そして、振り返るとこれまで魔王討伐を目標に旅してきた勇者パーティーの仲間の姿があった。全員ボロボロだが、死者がいないことは奇跡と言っても良い。


 勇者パーティーの顔でありリーダー的存在である少年が、フィンに歩み寄ってきた。


「フィン、やったんだな……」


「ああ、終わったよ。これでもう戦争で血が流れることも――」


 ――ドスッ、とフィンの腹部に軽い衝撃。


「……わりぃな、フィン。魔王を倒した手柄は俺の――俺達のもんだ」


「……は?」


 フィンはよろめきながら後退る。自分の腹を見下ろせば、そこには短剣が突き刺さっていた。それに気付いた途端、激しい痛みと熱を腹部に感じる。しかし、脳がその痛覚を認識するのを拒むくらいに、頭の中は“なぜ?”と“どうして?”で一杯だった。


 みるみる遠ざかっていく意識の中で、最後に仲間の姿を見る。


(……ははっ、全員笑ってやがる)


 フィンの意識は、絶望と共に深いところへと沈んでいった――――



◇◆◇



 如何なる因縁か、この二人は時を越えて出逢うこととなる。

 そして、ここより綴られるのは、そんな二人が『一心同体』で道を切り開き成長していく物語である――――












【作者からメッセージ】


 この作品をお手に取っていただきありがとうございますっ!!

 まだ物語の冒頭も冒頭――というか本題にすら入っていないプロローグと言った感じの第01話ではありましたが、もし、


「なんか面白くなりそう!」

「二人はどういう関係になるんだ!?」

「クリシアをイジメてんじゃねぇよ。ブチ〇すぞッ!?」


 と思っていただけたようでしたら、是非とも作品のフォローや☆☆☆評価、コメント等をよろしくお願いします!


 ではっ!

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