黒狐と呼ばれた者

@tsukinokami

第1話

これは黒狐と呼ばれた少年の物語




曰く、その力は絶大であらゆるものを壊すことができる。


曰く、その速さは神速をも超え、目にも止まらぬ速度で動き回ることが出来る。


曰く、その剣技はどんなものも斬り裂き、魔法を切り裂くことすらできる。


曰く、その拳は鉄よりも硬く岩ですら粉々に砕いてしまう。


曰く、彼は魔法の天才であり、無詠唱で魔法を発動することが出来る。


曰く、その身には膨大な魔力が宿り、彼の魔力が尽きることはない。


曰く、その顔は黒い狐の面を被っておりだれも見たことがない


などなど…………


どれもこれも信じられないような話ばかりだ。


そして、そんな彼を人々はこう呼んだ。


『黒狐』と。


◆ ◆ ◆


「今日は転校生を紹介するよ」


担任の先生の声と共に教室の中に入ってきた一人の少年。身長は高くもなく低くもない平均的な身長をしている。そして何より特徴的なのはその髪の色だろうか。白と黒が混ざったような灰色の髪をしている。顔立ちも整っているため女子生徒から人気が出そうな容姿をしていた。しかし、その表情には感情というものがなくどこか機械的な雰囲気を感じることが出来た。


彼が教卓の横に立つとクラス中が騒めき始めた。


「じゃあ自己紹介してくれるかな?」


「はい」


少年は抑揚のない声で返事をした。


「俺の名前は『クロト・シルバ』です。よろしくお願いします」


それだけ言うと軽く頭を下げた。あまりにも簡潔な自己紹介だったが生徒たちは特に気にした様子はなく拍手を送った。


「じゃあ席は……そうだね。あそこの空いてるところに座ってくれるかい?あの後ろの方の窓際のところだよ」


「わかりました」


そう言って指定された席へと歩いていく。


「これからよろしくね!」


隣の席になった女の子が笑顔で話しかけてきた。


「ああ……」


小さく呟いた声を聞き取れなかったのか首を傾げていたがすぐに前に向き直った。


「それじゃあ授業を始めるぞー」


こうして黒狐と呼ばれる少年の日常が始まった。


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