第39話 みわちゃんからの電話

久しぶりだな。

就職決まったから、お祝いしてくれる?

…え?突然だなぁ。君が静岡に行っちゃったから4〜5年あってないんだぜ。

いいでしょう。ダメなの?

だめじゃないけど…

ならいいじゃない。今夜時間ある?

今夜!いくらなんでも急すぎるよ。

ダメ?

わかりました。

じゃ、迎えに来て!

どこに?

駅でいいわ。

旭の?

そう。

土曜日だったから仕事はなかった。

しかし、美和ちゃんは随分変わった。あんなに強引な娘じゃなかったのに。もう5年も経っているんだから、変わって当たり前か。初めに会った頃はとても素直で良い子だった。もう社会人になろうって言うんだから変わって当たり前だけど。Y には高校の体操部で頑張っていた頃の記憶しかなかった。あの頃はまだ高校生だったから幼さの残る顔とは対照的に短めのスカートから抜き出た太ももが眩しかった。真面目な子だったから体操でも頑張ってたんだろう、発達した太ももが細身のカラダとはアンバランスに初々しかった。性格もまったく素直で疑うことを知らなかった。あれから社会人として数年を過ごしたわけだから、いろいろあったんだろうけど。

Yは旭駅に向かいながら色々思い出していた。初めて会ったのは隣町の病院だった。なんで病院なんだろうと思ったが、理由は忘れてしまった。大した理由じゃなかったんだろう。美和が何で俺に電話をしてきたのかも忘れてしまったが、受験も終わってしまってなんとなく人恋しくなっていたのかもしれない。学生時代の美和ちゃんはとても可愛らしくて人気があった。男の子からも女の子からも好かれていた。明るく素直な性格で見た目も可愛かったからモテてて当たり前かぁ。駅に着いて車に乗り込むと美和はすぐに車内を物色した。

何してるんだ。

美和は黙って物色を続けている。

ほらあった。

なんだよ。

美和はバックミラーに付いていた小さな亀の人形を見せた。

何これ?

亀だろ

じゃなくって誰が置いていったの?

その亀はなおみがつけていったものだった。女の子っていうのは鋭いなぁとYは感心した。車に乗ってすぐに物色し始めるなんて慣れてると言うか…。最近の高校生っていうのはこういうものなんだろうか。受験勉強が忙しくて大変だったろうに、終わった途端にすぐに頭が切り替わるんだな。にしてもバックミラーに付いた小さな亀にすぐに気がついて、それが女が残していったものだ思うなんて普段友達とどんなことを話しているんだろう。18才にしてこれかぁ…。女性は恐ろしいなぁ。男の俺が鈍すぎるのか…。Yは無邪気に笑っている美和の横顔を見て思わずそう思ってしまった。

で、その人とはどうなったの?

どうもなってないよ。

ふーん…。

亀はすぐにとっておこう思った。

社会人になってもう3年だ。色々あったんだろうね。

それなりにはね。

先生もう結婚した?

独身者です。

そうなの、やばいじゃん先生、もういい歳でしょ。

まだなんとかなるでしょう。

相手いるの?

どうかな…。

どうしても見つからなかったら私がなってあげようか?

俺いくつだかわかってるのか…。

なんてね。

美和はずるそうに笑った。

Yはなおみのことを思い出した。

今の旦那と離婚するから、一緒になってよ。

そう言われてからもう5年もたってしまった。結局返事もしないままズルズル来てしまった。今更もうどうしようもない。直美にそんな風に言われたのは2回目だった。でも黙っていても5年の歳月は断ったのと同じだ。まだ若い美和とは同じ5年でも意味が全く違う。もう取り返しようのない5年なんだ。


直美に初めて会ったのは社会人サークルに入った時だった。彼女はサークルの中でも目立つ存在だった。可愛かったし、なかなか積極的だった。それに何と言ってもダントツに若かった。昨今は男より女性の方がずっと積極的だ。そのことはおそらく彼女たちの年齢とは関係がない。いくつであっても女性達はいつも積極的だ。だから恐らくは男達がいくら誘っても、声をかけても意味がないんだ。まぁそういう女性ばかりではないかもしれないが、私が見てきた限りではそうだった。

ナンパだってそうだ、するにしてもされるにしても女性は全く本気ではないんだ。ゲームでしかないんだ。だからとても自然な感じで緊張もしないし、自由に楽しめるんだろう。直美もサークルでの出会いを楽しんでいた。そして僕に目をつけた。僕もなおみに目をつけていたのでお互いに好都合だった。そしてうまくいって、僕たちはすぐに付き合いだした。

3回目ぐらいのデートでもうやんなきゃだめだぞ。そう教えられた通りにYはした。あの頃はそれが普通だった、そんなものだった。後で直美に3回目のデートでホテルに誘うなんて早すぎるよと嫌味を言われたが、まぁ結果オーライだった。そのおかげか3年も付き合えたんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る