ポリティカル・コレクトネスの昇天ペガサスMIX盛りトルネード花魁Remix

ちびまるフォイ

あらゆる要素を認められる土俵

「ダイバーシティ&インクルージョンな物語を書いてください」


「ダイバーシティ……?

 あのすみません、深海の海底都市については詳しくなくて……」


「多様性を認める考え方ってことです」


「はあ……」


カクヨム公式からじきじきにオファーがあったので

「ついに書籍化か!?」などと浮かれてピザを頼んだ自分が恥ずかしかった。


「最近、カクヨムでも多様性について風当たりが強く

 そういった多様性を認める作品をいれておかないと困るんです」


「それで俺にオファーを?」


「そうです。ストーリーとかは好きにしていいんで、

 とにかく人間の多様性をメガ盛りしてください」


「牛丼スタイルで表現することに問題はないんですか」


「うるせえ多様性パンチくらわすぞ」

「すみません、やらせてください」


経緯はどうあれカクヨム公式からのオファーを受けての小説執筆がはじまった。

書く前に公式からは「公式からのオファーであることは伏せる」という条件つきとなった。


「多様性かぁ……」


ネットで軽く探してみると、肌の色や性的マイノリティの記事を目にした。


「なるほど、これを入れればいいのか」


普段はストーリーを考えてから登場人物を配置していくが、

今回に限っては「どういった人種・性別・趣向なのか」を考えてからストーリーを作ることになった。


なので、内容はわりと王道な冒険ファンタジーにまとまった。


さっそくカクヨム公式に提出した。


「どうですか! 言われた通り、黒い肌の人も白い肌の人も入れて

 男性が好きな男性も入れたパーティが冒険をするファンタジーです!」


「いいですね」


「でしょう!?」


「でもダメです」

「えっ」


「服装が描写されてないじゃないですか」


「ふ、服装……?」


「それにほら、髪についても描写が足りてないです」


「俺、普段からそういったキャラ描写は読者にまかせるというか。

 ストーリー進行にいらない情報ははぶくスタイルなんですよ」


「そんなこと知りませんよ。

 あなたがどんな宗派だろうが、カクヨムで活動するんなら

 私が豚肉を食えといえば食うんです」


「多様性を求めている人の言葉じゃないですよ!」


「とにかく、キャラの描写に服装や身なりの表現を加えてください。

 ただし、女性だからスカートだとか、男性だからふんどしだとか。

 そういった偏った服装にはしないでください」


「女性はふんどしで男性にスカートをはかせるなんて、ハレンチすぎます!」


「ぶちころすぞ」


もう少しで異世界転生しかけたため、小説のリライトを行うはこびとなった。

足りていなかった人物描写を追記に追記しまくる。


その結果、物語の進行速度が異常に遅くなり

ページの約半分をキャラの髪色やその長さ……。


肌の色や話し方、目の色からなにまでを書き連ねるだけの

登場人物大図鑑にファンタジー冒険をおまけした物語ができあがった。


書き終えた後にはもうへとへとだった。


「つ、疲れた……多様性への配慮がこんなにつかれるなんて……」


「疲れるのはあなたが差別的な目を持ってるからです。

 これが普通になれば疲れることもないでしょう」


「そ……そうなんですかね……」


「そうです。これがその第一歩なんですから」


カクヨム公式は再度書き直された冒険ファンタジーを読み終えた。

ストーリーがどうなっているか、というよりも指定したハードルを倒さずに超えているかをチェックしているようだ。


「読みました、OKです。ちゃんと配慮されていますね」


「やった! やったーー! ついにできたーー!!」



「でも足りてません」



「ぎゃあああああ!!」


最後の一言で天国から地獄へ急降下した。


「たしかに作中で肌の黒白のキャラは登場してますが、

 この世界で肌の色というのはまだあるんです。

 あなただって黒でも白でもなく、黄色人種でしょう?」


「ま、まあ」


「そういった人のフォローができてないじゃないですか」


「いやいやいや! それじゃ登場人物が増えすぎてしまいますよ!

 100人規模で冒険するファンタジーがどこにあるんですか!?

 読者も名前を把握できませんよ!」


「それはあなたの技量しだいでしょう」


「えええ!?」


「それに、キャラに障害を持った人が書かれてない。

 これじゃ五体満足の人を優遇する物語に見えてしまいますよ」


「それじゃますますキャラが増えちゃいますよ!?」


「あと年齢。なんでパーティはみんな同年代もしくは若いんですか?

 おじいちゃんおばあちゃんが居てもいいでしょう」


「む、無理ですって! 多すぎる! 要素が多すぎるって!」


「無理っていうからムリなんです。

 ストーリーが破綻したってかまわないです。

 全種コンプリートしてこそ、これを書く意味があるんですから」


「そんな……」


「ただひとつ注文をつけるなら……。


 かならず最後は勝利で収めてください。これは絶対です。

 

 そして、戦いの要素を入れてください。

 社会的マイノリティの人たちが戦って勝利を勝ち取る。

 それが社会を変えていくというイメージになるんです。


 あと、すべてのキャラの扱いは平等にしてください。

 全人種ぶちこんで活躍させるのは2人だけとかはNGです。

 

 すべてのキャラを平等に活躍させて見せ場を作る。

 読者は誰が活躍するか予想できないような形にしてください。

 

 あとは……」



「ひとつって言ったじゃないですか!!」


その後もベジタリアンに配慮するだとかの追加注文が延々と続いた。

それらを箇条書きにしてまとめてみたが、とても消化できないほどになった。


どんな料理人だって古今東西あらゆる食材を渡されて

作る料理が「卵かけご飯」だったら使わない食材も出てくるだろうに。


「ダメだ……どうしてもまとまらない……!!」


大量発注されたマイノリティ要素が多すぎて

ついに物語の進行をもはばむほどになってしまった。


ファンタジー冒険譚の村人ひとりと会話するのに、

100人のキャラがかわるがわる言葉を話す。

アイドルの楽屋挨拶みたいになってしまって話が進まない。


「どうにかこの大量のキャラをうまく使えないものか……」


悩んだ末、ファンタジー冒険譚を諦めることで希望が見えた。


数日後、カクヨム公式に新たな原稿が届けられた。


「ついにできたんですね。マイノリティに配慮した物語が」


「ええ、全部の要素をちゃんと入れましたよ!」


「本当ですか?」


「ありとあらゆる性的マイノリティの人を登場させ、

 すべての肌の色のキャラを登場させて、

 どのキャラも平等に扱ったうえで戦いを経て

 最後には勝利を勝ち取る物語ができたんです!」


「こ、これは……!!」


カクヨム公式が見てもそれはあきらかだった。

ありとあらゆるマイノリティが登場する群像劇ができあがっている。

最後にはたしかに勝利で締められていた。


「どうです? 完璧でしょう!!」


作者はほこらしげに語った。



「すべての要素を入れてもバトルロイヤルなら破綻しないことに気づいたんです!」



直後、カクヨムの多様性パンチがみぞおちにめり込んだ。

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