微生物の間で

森川めだか

微生物の間で

ねえダニエル。ぼくは生まれてきてよかったのだろうか。(葉っぱのフレディ―いのちの旅―)


微生物の間で

      


神降祭オラトルム


 「アル」はかなり以前からこの星に降ってきた人知を越えた存在だ。アル・アラッグ・タイマーという。

神なのか狂気なのか分からないまま人々はそれに従っている。

この、滅びかけた世界、頼れる物はそれ一つしかないのだ。

オルマはまだ子供のサキと連れ合いになった。それもアルから命じられたことだ。

そんな事に何の意味があるのか分からない。

アルとの取り決めはもう一つある。姥捨山だ。この時代では誰もが蒼茫とした影の影に住むのをやむなくされた。

ホワイト・リバーの向こうに丘墟があって、そこが姥捨山になっている。若者だけが住むことを許されたのだ。

絶望の紀とでも呼ぼうか。サキはコーヒー色の髪にいつも白いスモックを着ている。オルマとはまだ手も握ったことがない。

「いつか私のために四季を見せて」山の外にいるためか、若者たちは四季を知らないで生きてきた。

「四季って何だい?」オルマは希望と戦うためのキリストのナイフを研いでいた。

「さあ」

「お父さんに聞いてみよう」

オルマはGジャンにセーターという服装でアルの落ちた所に来た。アルは円塔でその光は光を失った太陽のようだ。

「サキに、シキという物を見せてやりたいのだが」ジーパンのポケットに手を突っ込んだままでオルマは聞いた。

アルのあるはずもない目が光ったように感じた。

「それなら舌抜山に行きなさい、オルマ」

「そこにはシキがあるのですか?」

「桜が咲いています」

「サクラ?」オルマはジーパンの革パッチを見せて引き返した。

舌抜山は姥捨山になっていない山で鎮守の森になっている。オルマとサキはそこに出かけた。

「ほら、こんなのもいるよ」オルマが指に乗せたのは一匹のカマキリだった。

「バッタとは違うわね、三角の顔してる」

「私に名前を付けてほしいの」オルマの指の上でカマキリが言った。

「聞こえたかい、今」

サキは肯き、「オーガスタならいいんじゃない」と言った。

「そうだ、君はこれからオーガスタだ」オルマは指の上から地面にオーガスタを逃がした。

オーガスタは草の陰に隠れていなくなってしまった。

「あの山の向こうに僕のお母さんがいるんだ」舌抜山からは灰色に姥捨山が見える。

サキの親はまだだ。

「アルが思っているのって、あなたを私の親代わりにして、この世から親を消しちゃおうってことかしら?」

「アルは生と死をコントロールするっていうからね」オルマもサキもそばで咲いている花が桜だとは気付かないでいた。

もう花吹雪だ。

オルマはいない人症候群になっていた。サキはそれを知っていたが、見守るしかできない。それは孤独とも違う、オルマに親しい人はいなかった。過去から不明瞭な未来まで、自分はいないのではないだろうかという危惧。サキもまだ子供だ。

たとえば、たとえばそれがサキだったら自分は未来にはいると思えるが、絶望も希望がさせるものなのだろうか。

姥捨山には山乞いが出るという。希望を捨てられるものなどこの世にはないのかも知れない。

だから、誰彼ともなく、この世界を滅ぼす黙示録の獣が、「希望」という名になったのかも知れない。

誰も希望を殺せやしない。

オルマでさえ希望を持っているのだから。ここに来た時のためにキリストのナイフを持っている。サキとこの身を守るためだ。

もしも、二人の身に何かあったら、「時の名残りで出会おう」と約束している。それが生まれ変わりだから。その時は舌抜山で。二人の逃げ場で。

「元気でいてね」

アルは永遠の存在。全てを壊そうとしている。アルにも意思はある。寓意だけの意思だ。

「わからずや」サキの暴言は初めてだった。

オルマはアルの所に来た。そこには僧侶のアレッサンドロもいた。

アルが何かに反応していた。

円塔を囲むように作られた道に入り口は四つある。そこから何かぬらぬらした光る物が現れていた。

希望だ。それは人間の形にとてもよく似ていた。

「何でここに希望がいるんだ、アルは何を・・」オルマはキリストのナイフを取り出した。

「やめておきなさい、涙の子」アレッサンドロはオルマのことをそう呼んだ。何でこんな落ち着き払ってるのか、自若としている様はアルと一緒だった。

過去の骨だけのアルと。

愛の挽歌がどこからか聞こえてきた。

何もかも手にした。奪いたい。

等し並みに神様がいるなら、「僕を殺してくれ、キリスト」オルマは自分の胸にキリストのナイフを突き当てた。肌のナイフは自分の希望を消した。

一向に帰ってこなかったオルマを心配して、サキは唯一の花見をした舌抜山へやって来た。

そこからは下限の月が見えた。

「オルマー」呼びかけても返答はない。

代わりに自分の声がはね返ってきた。

「帰ってきて」それは私の夢びこだったのかも知れない。

足元にオーガスタがいた。声をかけてもオーガスタではなかった。

「大変だサキ、オルマが飲み込まれた」アレッサンドロが裾を引っ張って駆け上ってきた。

「ここにオルマがいるというの?」見えるのはアルだけだ。

アレッサンドロは筒状の下に案内した。

そこにはアルの入り口があった。古いドアだ。

「ロケットになってるの?」

「手を触れるな! 気が狂うぞ、オルマのように」

「――少し黙って」サキはアレッサンドロを目だけで制して、貝のように耳を当ててみた。

「オルマ?」

「また冬に」オルマの声が聞こえてきた。

寓意だけの意思を持ったアル・アラッグ・タイマーは希望を飲み込んでついでにオルマまで飲み込んでしまった。

サキは円塔を囲む道に戻り、その冷たい床に腹ばいになり少しでもオルマと近い所にいようとその手を伸ばした。

白いスモックとコーヒー色の髪。サキはアルに触れて、生きていいことを知った。

夕日の矢が海に刺さる。それが四季なのかも知れなかった。青はいつも渦巻いてる。過去と現在と未来を笑うように。

いつか旅立つ時までアル・アラッグ・タイマーはその足を空に向けて立っている。屋根は取り外され、それは道標のようでいて、生命の旗のようでいた。

それは呼吸の中ではためいている。

サキはホワイト・リバーからただそれを見ている。翼を抱いて飛べ。私は山乞いになった自分の声を拾いに行く。

遠くを見る。歩き出した。


shonen


buoy

 あの日、僕たちは愛し合ってた。

あなたは知らないでしょ。

蓮っ葉だった私を確か3万円で買ったこと。

彼の名はロッソといった。

青に愛想が尽きたロッソ。

私はヌガー。

スクーター。

本当にいい仲だった。

イラストレーターになるために頑張ってたみたい。

ロッソの体のほとんど全てはデュラムセモリナでできている。

あなたは知らないでしょ。

オーマイじゃないマ・マーにこだわっていることを。

酒びたりで、私を待たせては、安い2Lの赤ワインを買ってきては三白眼で世間を睨んでた。

彼ってpsychoだから。

見返してやる。そんな気持ちが彼の動力だったみたい。

必ず見返す。

彼、無理してた。

彼の出生、知ってる?

日赤で産まれた。

六人の中のただ一人の男の子。

塑像みたいな顔して、いつも一人がちだった。

フランスパン。

ピケのシャツ。

飲んでたなあ、みそスープ。

あなたは知らないでしょ。

日に染まる、彼がとっても綺麗だってこと。


ある日から彼は絵を描かなくなった。

それから、どこか行く度に、お土産のように原稿用紙を買うの。

彼のお母さんと行った、万朶の花が咲き乱れる石舞台古墳が彼は一番美しい光景だと思ってたけど、これから見るだろうものが、彼にとって一番、かどうか分かんないけど大切なことになるって私には分かってた。

千に一夜に。

夜中にいつも出かけるから、私にひどい悪口が巻かれてたこともあったっけ。

彼にとってそれは慈雨だったの。

慈雨だったのよ。

何かを書き終えたのか、長いお休みがあって、灰汁が抜けたようになって帰ってきた。

彼は私にしか助けられないの。


rouge

 ここに私がいた。

それからも楽しいドライブは続いたわ。

コーヒーショップを斜めに見ることも。

原稿用紙を大量に買い込んでいくことも。

私から離れて何をしているのか知らない。

無罪の君。

風で切れた鼻。

争いもなく単純な世界で。

人間の基準とは空白である。

ブラフマン。

あなたは知らないでしょ。

犬食べを気にしてるってこと。


奈良だって二時間もすれば海が見られる。

耳朶。

驚くべきことにその断崖は軽石でできていた。

彼が何を思ったのか知らない。

私が足を取られたせいだ。

天国でなきゃ書けない。

私と、少年アルはXYになって音もなく海に落ちて行った。

それが人類の始まり。


あなたは知らないでしょ?

飲酒運転がもう時効だってこと。


雁木


 ミドリは今年で30になる。普通は春だがここではまだ冬だ。雪国、上下かみしまで生まれ育って、今は音訳ボランティアをしている。目の見えない人のための読み聞かせみたいなものだ。

ミドリは今日も、雪国で雪を避けるために作られた軒先の小道、雁木を通ってボランティアセンターに行く。

その事務所では段ボールが山積みになっている。ミドリから見るとおばさんたちがせっせとその中に物資を詰め込んでいる。この雪で出かけられない人たちの物だ。

「おはようございます」

朝イチはいつもこうだ。

「今日は寒かったわね」雪国の人たちは寒さの違いを嗅ぎ分ける。

「ええ、底冷えして」ミドリも暖かい靴下をさすった。

「とあるさんから頼まれた物」

とあるとはこのボランティアセンターに登録している人だ。

「ああ、はい」ミドリはその本を受け取って、また雁木を通って音のしない部屋に行く。

とあるから頼まれたのは「存在の耐えられない軽さ」だ。

ミドリはテープに吹き込む前に椅子に座って窓の外を見る。砂漠の雨のように降り積もる雪。雪国を例えるなら夜の海だ。

「存在の耐えられない軽さ、ミラン・クンデラ著、・・訳・・」ミドリは自分の声を雪のような声だと思っている。すぐに消えてなくなりそうな誰かの声に埋もれてしまいそうな声。

音訳ボランティアを始めてからヴイックスヴェポラッブを胸に塗って眠るようにしている。風邪軟膏だ。健康法としていいのか分からないが声にいいような気がして。

雲は隠れている。自分の声しか聞こえない。

深い青に時として消えそうな雪。今日の分を録り終えて停止スイッチを押すと本と一緒にロッカーに鍵を閉めた。

そのロッカーから着て来たシャドーチェックのブルゾンを取り出した。

「お先に」もうおばさんたちは届けに行っていない。

ブルゾンを着込んで雁木を歩いていると、向こうの前をとあるが歩いているのが見えた。テープを届けに行ったことがある。

ミドリは声をかけることはしない。ただ追いつかないように後ろを歩いていた。

信号を染めて、二人は立ち止まった。

「変わりましたよ」

「あ、ありがとうございます」とあるはミドリの声に気付かないで歩き出した。

肝臓の形に似た月。帰りの路面電車に揺られていると、妹のむつから着信があった。ミドリは取らないでいた。

電車がくしゃみをして停まった。またマンションの話か。「一緒に住もうよー」と言う。「雪かきしないですむんだよ」

ミドリは父母と住んでいた家に一人で住んでいる。父母はもうマンションに移った。むつは家賃でカツカツらしいのだ。

私はこの雪が好きだ。雪に声があるなら誰も起こさない。私のテープにも雪の声が入っていたのだろう。

「さっきの話なあに」停留所で電話をかけ直した。

「メッセージなら吹き込んでおきなさいよ」

「お姉ちゃん、すぐに取ってよ」

「無理よ。電車なんだから」

「私、もう家まで来てるのよ」

「お茶だけでいいから」とむつは言う。

「自分の家の鍵の開け方まで知らないのー」ミドリは洗い物を片付けながら、姉妹の遠慮のない会話が始まった。団子っ鼻が二人はよく似ている。

「またマンションの話なんだけどさ・・」

「塩辛もあるわよ」

「聞いてよ、お姉ちゃん」

「あんた一人で住めばいいじゃない」

「家賃どうすんの?」

「もー」

「こんな古い家に住んでるのうちぐらいだよ。それに危ないし。雪で崩れたらどうすんの」

「今日、泊まってくんでしょ」

「もー」むつは座布団に頭をつけて仰向けに寝た。

翌日、むつが目を覚ますとミドリはもういなかった。

「存在の耐えられない軽さ」を録音し終えたミドリは本を戻し、ボランティアセンターに行っても誰もいない。

シャドーチェックのブルゾンを着てその足でとあるに届けに行くことにした。雁木を通って。

誰か後ろにいる道。凍った電話ボックス。誰もが「存在の耐えられない軽さ」に君を求めているんじゃないか。

とあるの家は表からは薄い剥げた合板のドアと流しの窓しか見えない。インターフォンを鳴らしても誰も出ない。ただ、流しから水の音がした。

「すみません、ボランティアセンターの者ですが」頭だけ窓の方に向け声をかけた。

水の音は止まない。

「あの、頼まれていた本・・」音が止んだ。ギッギッと音がして、とあるは玄関に来たようだ。

開くのをミドリが待っていると、ドアの下の端の郵便入れの戸だけが開いた。

ミドリはそこにテープを差し込んだ。ドアの中で手と手が少しだけ触れた。ギッギッとまた遠ざかる気配を聞いた。

「失礼します」

今日は寒さでいうなら暖かい。回らない雪。

渡し終えた手をポケットに突っ込んで雁木の中を歩いていた。ミドリの存在の耐え難い軽さ。私は蘭虫だ。音のない雁木にいるだけ。空気も吸えない。

とあるの手が触れたねつ。雪も見えませんか?

家に帰るとすぐ流し場で手を洗った。雁木からストンと雪が落ちた。

「あんた、小さい時さ、塩呑んで吐いてたじゃないの」ミドリは酢飯をかき合わせていた。

「だって、お塩っておいしいから舐めてたのよ」

「私が叱られてたのよ」

ミドリとむつはフフフと笑った。

塩少々だ。

「じゃ」むつはいただきますをしようとした。

「お母さん、よくお上がりって言ってたわね」

「言ってた、言ってた、お上がりって」

二人は笑った。

マンションに住んだらこの雪も積もらない。

「お姉ちゃん」むつが父の使っていた徳利を差し向けていた。

それも悪くないか。インターフォン越しに話しかけたのもいつか思い出に変わるだろう。

少しの酒で酔ってミドリの真っ白な雪のような肌がポッと熱くなった。


フレディー


 何もかも海に揺られて影一つなく、人間というものは愚かと白痴であるとする。

フレディーは長靴をはいた猫で、自分のことを人間だと思っている。グリーンのナイロンジャケット、一つの栗を大切に持っている。

父親がそばにいるのに、フレディーは他のことを考えていた。

攫われた方が幸せか。

どうしても反りが合わない、ジェフリーとは。

あっちも僕のことを何とも思ってないようだ。

時はエコール・ド・パリ。昨日との抗争。

僕は何のためにうまれてきたのか。フレディーはいつも死に場所を探していた。

ツヤけしでマットな空は赤紫の微生物の間で君たちは春に生えるから、どこかめんどうくさくて、ジェフリーはどっか行った。僕を置いて。

「いいの? 攫われちゃうよ」

僕は灰猫で人気があるんだ。

少し背の高い月。フレディーの死に場所探しの旅だった。

僕を攫った女はリプリーといった。リプリーは老船に住んでいた。

リプリーは全然違う所に行きたい、フレディーは過去を捨てに。

その老船は頭だけがデカくて、窓から見ても何の景色もない。

フレディーは吉凶ききょうの木の上で黄金のがちょうを読んでいた。

「人はどうなったんだろう、この三男にひっついてた七人もの人はお姫様が笑った後に離れたんだろうか」

リプリーとの日々はジェフリーと同じくミリデイでちっとも前に進まなかった。

フレディーは寂しげに窓を見た。夜露に濡れた窓には砂の海が映っていた。

死に場所はいつも空にある。自分でも何でこんなに死にたいのか分からなかった。きっと100万回生きたねこなら分かるだろうけど。

リプリーの乗った老船は元の位置に戻って来ただけだった。ここにも僕の居場所はない。

ジェフリーはブロッコリーヘッドだったけど、リプリーはカリフラワーヘッドだっただけだった。

老船はまた船出しようとしてる。昨日まで王国だったものは王団に変わってマッドな戦争との抗争だった。

フレディーは老船と離れリプリーとも別れ、誰もが王様になろうとする王団に身を置いた。

そこにはパタコがいて、ハチワレの顔をした美しい猫だった。パタコは僕のことを「フレッド」と呼んだ。

「パタコって名は誰が付けてくれたの?」

「この王団の人」

「殺すぞ、この野郎」罵声が聞こえてきた。

罵声を浴びせられているのは父だった。

「お父さん」

時は糸のようなもの。ジェフリーはすっかり老いていた。

「痩せたね」フレディーはその骨ばった体を抱いて背骨をさすった。

フレディーはとっさに取った行動に自分でも驚いていた。

「ねえ――。ぼくは生まれてきてよかったのだろうか」こんな言葉を父にかけるなんて信じ切れない。

「そのためには何のためにうまれてきたのかを考えないといけないね」ジェフリーはそう言って僕の手から離れた。

僕は誰かを抱きしめる資格はないんだ。過去を捨てるということは孤独に残されることだ。

「僕は頭が悪くてもあの三男のように生きたかったよ」

こんな父の世界を見たフレディーはパタコの所に戻った。長靴を脱いだ。

「少しそばで寝てもいいかな?」フレディーはパタコの座っている切り株の横で横になった。

「誰が王様になるのかな? そうしたら僕は誰かに親切にして旅は趣味だけにするよ」

パタコは僕の背骨をさすってくれていた。

「何のためにうまれてきたのか、君はどう思う、パタコ」

パタコはゆっくりと首を振った。

「いい気持ちだ。そのまま・・」

スーッと死にたい気持ちがなくなってフレディーはそのまま目を閉じた。

「そんなこと取り越し苦労で終わればいいね」

ずっと大切に持っていた栗の実が落ちたが、再び拾うことはなかった。

世界が終わってもまだ空は青い。

ねえフレディ。ぼくは生まれてきてよかったのだろうか。

――野に風が折しも吹きすぎる。


大統領は死んだ


 皆さんはテカムセの呪いというのをご存じだろうか? 20年ごとに選任されたアメリカの大統領が死ぬというインディアンの呪いである。

ネザリはルンペンだ。ひと昔前のアメリカにはそこら中にいた。

アルフレードは暗い、引きこもりだ。そんな真逆の二人が出会うことになる。しかも最悪の形で。

「ウサちゃん」ネザリは公園に捨てられたウサギと暮らしている。時には同じ食べ物を分ける時もある。

夜に女一人だと危ないのだが何が起ころうとアメリカだ。訴えた方が勝つ。

その公園はセリヤとハワードも根城にしていた。主に青姦が目的なのだが、たまにホームレス狩りもする。

その日はたまたま二人とも機嫌が悪かったので、次通る奴が男だったら襲う、女だったら襲うのゲームをしていた。

そこに来たのは帰って来たネザリだった。

「やっちゃいなよ」セリヤが言った。

ハワードは後ろから口を押さえ、押し倒した。

「こいつ、女のくせにルンペンだ」

セリヤはヘラヘラ笑っている。

ネザリは服を脱がされ、押さえつけられ、レイプされた。

その間もネザリは目を開けていた。神様はそこにいて、ただつったっているだけだった。

「アルフレードも呼んで来いよ」何度も何度も犯された。

アルフレードは嫌とは言えない。そこに広がっていたのは異様な光景だった。

痩せた少女が丸裸にされ、悄然と横たわっている。

「お前、初めてなんだろ?」ハワードがアルフレードの男根を握った。

アルフレードはネザリを犯した。ネザリは傷だらけだった。

何か呟いている。「ウサちゃん、ウサちゃん」と聞こえる。

ハワードが血の混じった唾を吐いた。

「まだ終わんねえのかよ」ハワードがアルフレードとネザリを離した。

アルフレードはズボンを上げた。セリヤは「短小」と笑っている。

「家に帰って、一人で続きでもしてろよ」

「その子どうするの?」

「お前には関係ねえだろ!」

アルフレードは怯えていた。外にではなく中にだ。

ネザリの悲鳴が後ろから聞こえてきた。アルフレードは急いで帰った。

鍵を閉めて引きこもり、ブルブルと震えていた。

もし出会い方が違っていたらこの二人は違っていたのかも知れない。ロビンフッドのような二人とも知らない物語だ。

骨だけになったウサちゃんと、雪の下で真っ白なウサギに生まれ変わるだろう。

どれだけ長い時間、神と目が合っていたか。

皆さんはテカムセの呪いというのをご存じだろうか? 僕には心の呪いがあります。

冬になると雪が降ります。

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微生物の間で 森川めだか @morikawamedaka

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