第59話 

 陸路からの情報を元に、噂を流したグループの元メンバーに話を訊いてみることにした。


 ところが残されたメンバーたちも何故退学になったのか分からなかったようで、学校からから知らされた後すぐに連絡を取ったが、つながることはなかったらしい。


 話を訊けば退学した2人と違い、今でもこの学校に残る2人は上澤のことを好きだったわけでもなければ、瀬川の噂を流すことに辟易としており、圧に負けて渋々付き合わされていたとのことだ。


 そして肝心の上澤がその噂を知ってしまっているかについては、正直分からないらしい。暴走気味の2人には付いていけず、途中から距離を少し取っている間に2人が退学したという情報しか得ることが出来なかった。


「こうなると直接上澤に聞いた方が早いかもね」

『そうですね、私の方でも色々と探ってみたのですが、いずみさんのことはあまりお話されたくないようで、さりげなく話題を逸らされてしまいました』


 学校から帰宅後、ミナから珍しく電話が掛かってきたので、お互い集めた情報を交換していた。


 ミナの方も肝心の情報は得られずにいるようで、こちらとしては他にやるべきことが無くなっていた。


「ただなぁ、僕は上澤と面識がないからいきなり話に行くのもなぁ、しかもその話というのが、幼馴染のことだし」

『え……あっはい、確かに初対面で幼馴染の噂を調べてるなんて言われでもしたら警戒されてしまいますもんね』


 どうしたものか。一応瀬川の話では上澤とミナは面識があるようだけれど、上澤のことを良く知らない状態でミナと会わせるのはまずい気がする。万が一でも龍ヶ崎家のことが学校に知れ渡ることにでもなってしまったら大変だからな。


 『ピコン』と携帯にメッセージが届く。それは謎野からの着信を知らせるものであった。ミナと電話中ではあるが、こうもこちらが手詰まっているタイミングでの電話となると何かしらの意図があるように思えてしまう。


「ごめんミナ、急用が出来ちゃったから、続きはまた後でもいい?」

『ええ、構いませんよ。私も少し気になることがあり、調べたいと思っていた所なので』

「ありがとう」


 調べごとというのは僕に気を遣わせないための方便だろう。申し訳ないところではあるが、ミナの優しさに甘えるとしよう。電話を切ると同時に再び謎野から電話が掛かってきた。


『おまえは一体何をやっているんだ』

「いきなり掛けてきておいて、怒られているのはよく分からないんだけど」

『何故金山を巻き込んでいるんだ』


 どうやら謎野はミナを今回の指令に巻き込んだことにお怒りの様子。


「いや、別に金山を巻き込むなとは言われてはいないからな」


 あらかじめ指令として言われていたのならこちらもミナに協力をお願いすることはなかった。ダメなら最初から言っておけ。


『瀬川いずみの噂を調べていることに関しては問題はない。ただ金山が目立ち過ぎているのが問題なのだ』

「目立ち過ぎているって言ったって、学校内だけの話だろ? それなら以前から変わらないはずだ」

『いや違う。今までの金山は人と関わることが極端に少なかった。それはクラスメイトであってもそうだ。だから金山のことを知る人物は少なくあった。だが、今回金山は今まで関わったことがない者たちにも噂のことを調べるために話しかけている。それがどういうことか分かるな?』

「ミナの命を狙うものにも接触してしまう可能性があると」

『そういうことだ』


 この学校はミナの命を狙う蒼龍家の息がかかっている。目立つような真似をさせるなとくぎを刺しにきたのか。


「ミナを巻き込んだことは悪かったと思う。だけどさ、僕一人ではできることも限られるんだよ。上澤と面識があれば僕だって直接話にいったさ」

『ハァ……そこまで重傷であったか』

「悪かったなヘタレで」


 電話の向こうから大きなため息が聞こえた。呆れているのかと思ったが、自然とそのため息は呆れるっといたようなため息ではなく、別の感情がこもっているようにも思えた。


『鬼龍瑠依……』

「何?」

『鬼龍瑠依に会いに行けと言ったんだ』


 鬼龍瑠依という名前には見覚えがある。前回のテストで鶴井に次いで学年2位の男だ。


「その鬼龍っていう人に会えば何か分かるっていうのか?」

『そうだ。こちらからアポはとっておくから明日の放課後、図書館の5階で待つように』

「え、ちょっと」


 用件だけ言い残し、謎野との通話は切れた。本当に用件しか話さないやつだ。

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