第21話 朝練はしんどい

 翌朝5時、僕は近くの公園に来ていた。


「眠い……」


 早起きして朝陽を浴びるという心地良さはあるものの、普段はまだ寝ている時間であるため、眠気は全然取れなかった。


 今日は学校が休みというわけではなく、当然のようにこの後学校へも行く。それにも関わらず、こんな朝早くから公園に来ているのには理由があった。


―――遡ること13時間前


 クラス全員の種目が決定した後、僕たちは校庭に出て体育祭の練習を始めた。練習と言っても、障害物競走の練習をすることはできない。レースに必要な用具は借りられないため、こちらに関してはぶっつけ本番になる。


 これから行うのは、全員リレーのバトンパス練習だ。走る順番は先ほどRIMEの方に送られて来ていたので、確認すると出番は真ん中あたりだった。


 正史では最後の方であったのだが、大きく順番が変更された。理由は明白だ。正史では足の速さはクラスの男子の中で5,6番目だったが、先日の記録の通りタイムも落ちていれば順位も落ちていた。


 つまり戦力的に終盤には置くことはできないと判断されたのだろう。僕もそれは自覚しているので、文句などはなかった。明らかに足を引っ張ることは目に見えているからな。


 それに順位が変わったことで、バトンを渡す相手も変わった。本来であればバトンを渡す相手は鶴井であったが、今回は長嶺になっている。


 この時代に来たばかりの頃なら、鶴井と関わる機会が減ったことに喜びを感じていただろうが、期末テストの順位発表で完全に目を付けられているのであまり意味がないことだ。


「内海くんよろしくね」

「うん、じゃあ早速だけどそっちまで走るね」


 練習とはいえ、バトンパスはタイミングが重要になるので、本気で走る。頭の中でどのように走って、どの辺りで長嶺にバトンを渡すかを考え、走り出す。


 あれ? なんか変な感覚だ。頭でイメージしているよりもあまりスピードが出ていないような気がする。上手くスピードに乗れていないだけだろう。少しばかり足の回転を速くするよう意識を集中させる。すると、


「やべっ」


 右足が自身の左足に絡まり、体が宙に浮くのを感じる。不思議なものだ。倒れるのは一瞬であるはずなのに体が地面に激突するまではもの凄くゆっくりに感じた。


「だ、大丈夫?」


 派手に転んだこともあってか、長嶺が僕を心配してこちらに駆け寄ってきた。右手を差し出されたのでその手を受け取り起き上がる。


「ありがとう」

「ううん、それはいいんだけど。怪我しないようにね」

「うん、今度は大丈夫。もう一回走ってみるね」


     *


 今思い出しても恥ずかしい限りだ。その後も何度も転び、スピードを落とせばタイミングが合わなかったりとバトンパスは一度も成功することはなかった。


 その原因は明らか。100%運動不足が原因だ。高校を卒業してからまともに運動をしたことがなかった。そのせいで、今の体についていけず上手く走れなかったのに違いない。


 そう考えた僕は今の体に慣れるために体を動かすことにした。朝5時から6時までの1時間の間、毎日体を動かしていけば、2週間後の体育祭までにはある程度動けるようになっているはずだ。さすがに足を引っ張りすぎるのはクラスメイトに悪い。


 軽い準備体操も終えたことだし、そろそろ始めるとしよう。まずは体力作りからだ。この辺りをジョギングして走る感覚を取り戻そう。


 地図アプリで確認したところこの公園の1周は大体1kmぐらいある。ひとまず1周走ってみて体の変化を調べることにする。


 歩くスピードよりも少し早いくらいのペースで走り始める。最初の1分ぐらいは顔に当たる風が心地よく感じ、全然余裕だという感覚であったがすぐに体に変化があった。


 足も重ければ呼吸もしづらい。予想以上に体力が落ちているのが分かる。若い体なのだからこれぐらいはいけると思っていたが、よくよく考えればこの時代の僕も体育以外ではあまり身体は動かしていなった。


 半分ぐらい走ったところで、僕はトボトボと歩き始めた。予想以上のひどい結果にすでに心が折れそうだった。


 先程から自分よりも遥かに年を取っているおじいちゃんたちに抜かされる始末。ここまで自分の体が弱っていたことに驚きを隠せなかった。


 ついには足も止まり、近くのベンチに座り込んだ。どうしてこんなにも自分は情けないのだろうか。勉強ばかりしていたツケが回ってきたようだ。こうなるぐらいなら日頃からもっと体を動かしておくべきだった。


 今までの人生に反省していると、遠くからトントンと軽いステップで走る足音が聞こえてきた。そう思ったのも束の間、その足音は次第に大きくなりこちらにどんどん近づいてくる。


 随分と早く走るんだな。休憩がてら足音のする方を見てみるとその人物には見覚えがあった。


「おはようございます、内海さん。あなたもジョギングですか?」


 軽快なステップでこちらに走ってきていたのはランニングウエアを身にまとった鶴井沙織だった。



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 PV1000超えました。読んで下さっている方々ありがとうございます。

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