地獄の門の鍵
維 黎
いまどきの地獄事情。
「――俺たちクビっすか?」
「……あぁ、そうだ」
交代までの数十分前、待機室にて。
苦虫を嚙み潰したような顔で若い青鬼族の男の問いに答える赤鬼族の男。こちらはそれなりに年かさのようだ。
地獄第三正門守衛部。
地獄には第一から第四までの出入り口があり、それぞれは頑丈な門で閉ざされている。とはいえ、出入り口とは言ったが地獄の性質上、入る者はあれど出る者など無いに等しい。
門の内側からは開けることが出来ない仕様となっていて、地獄門の開閉と施錠は外にいる守衛部の仕事だ。
24時間365日、常に管理している。
それぞれの部署は
「――ッす」
「――」
「納得いかないッすよ、俺! 嫌ッすよ、クビなんて! 俺は……俺は地獄門を守るこの仕事に誇りを持ってんすからッ!」
「……いろいろあるんだ。だからこその上からのお達しさ。グダグダ言ったところで変えることなんざ出来やしねぇんだ。飲みこめ」
「おっさん!」
「誰が”おっさん”だ、ごらぁ!」
バシュシュ!
赤鬼の右拳が唸りを上げて青鬼の顔面にHIT!
青鬼に180のダメージを与えた!
「す、すんません。ちょっと頭に血が昇っちまって”や”が抜けちまいました。おやっさん」
待機室の椅子をなぎ倒しながら吹っ飛んだ青鬼が、鼻血が出た鼻を押さえながら立ち上がる。
「フン。まぁ、俺も他の連中も悔しい気持ちは同じさ。中にはもうじき勤続300年の皆勤もんの奴もいるしな」
「クソッ! クソっ! なんで……。なんでなんだよッ!」
律儀になぎ倒した椅子を元に戻しつつ、悔しさを滲ませる青鬼。
「――わからねぇのか?」
「わからないっすよ! 俺らの何がいけないって言うんすか!」
「本当に……わからねぇんだな?」
「わからないっす! おやっさんはわかってるんすか!? だったら教えてくださいよッ!」
「――そうか。なら教えてやる。もっと近づいてこい」
赤鬼の手招きに素直に近づく青鬼。
「てめぇのせいだろうが、ごらぁぁ!!」
バシュシュシュン!
赤鬼の左拳が青鬼の顔面へ
青鬼に340のダメージを与えた!!
「ひでぶっ!!」
懐かしい悲鳴と共に再び椅子をなぎ倒しながら吹っ飛ぶ青鬼。
「三本ッ! 三本だぞッ! 無くした鍵は! しかも一週間の間にだッ! な~にが『俺らの何がいけない』だ。 ”ら”じゃねぇ! てめぇだけだッ! どの面下げて『この仕事に誇りを持ってんすから』なんてセリフ吐きやがる! 誇りを持つ前にしっかり鍵を持ってやがれっ!」
地獄門守衛部廃止。
昨今の鬼の高齢化及び、少子化による鬼員確保の困難さ、それに伴う働き手の争奪戦による鬼件費高騰により、全守衛員の
これからの方針として地獄門の管理は外部に委託することになるという。
今後は物理的な地獄門の鍵を取りやめて、網膜、指紋、声紋の生体認証による
守衛は置かず各門それぞれに四台の監視カメラ、緊急用にドローンを一台常備する。
四か所の門をモニター監視で一元化して鬼件費を抑えると共に、鍵の紛失、盗難防止策も兼ねているこの方針は上層部満場一致で可決された。
変わりゆく地獄に、変らぬ安心を。
まずは資料請求。
フリーダイアル0120ー
――了――
地獄の門の鍵 維 黎 @yuirei
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