第13話

「えへへ。静玖ちゃんがわたしとの約束を破ったのかと思っちゃったよ」

「ちょっと用事ができて、呼び出されてたの。ごめんね?マシロちゃん、遅くなっちゃって」

「いいよいいよ!結局はこうして来てくれたわけだし!」

「ふふっ。ほんとーに素直になったね、マシロちゃん」

「わたしをこんな風にしたのは静玖ちゃんでしょ?」


 わたしは今、どうしようもない幸福感で胸がいっぱいになっている。

 それは、きっと隣を歩いてくれている女の子が原因だ。


 井上いのうえ 静玖しずくちゃん。


 彼女と出会って、わたしは大きく変わった。

 と言うより、彼女と旧校舎の音楽室で情事をしてから、具体的には、わたしのファーストキスを静玖ちゃんに奪われたあの日から。


 わたしは変わったんだと思う。


 どうしようもなく、日を重ねるごとに静玖ちゃんのことが気になっていった。

 初めてキスをした日から、最初の方はわたしの方から静玖ちゃんに声をかけて。日に日に回数が増えていって。


 そこまでは、わたしはその静玖ちゃんとの関係を『あーちゃん』と『めーちゃん』みたいな、親友みたいなものだと思ってた。


 だけど、あの、静玖ちゃんとまた旧校舎音楽室で二回目のキスをし、胸を優しくいじめてもらった日から。


 わたしの静玖ちゃんを見る目は、変わっていったんだ。


 気になる。

 静玖ちゃんはどんな意図があって、わたしと行為をしているのか。

 気になる。

 静玖ちゃんの細かな行動が。

 気になって仕方がない。

 静玖ちゃんの頭の中を覗きたかった。そしていつの間にか、出来れば、わたしのことを考えてくれたら、なんて思っていた。


 でも、わたしが静玖ちゃんともっと仲良くなりたいと思えば思うほど、静玖ちゃんはわたしと距離を置くようになってしまった。


 静玖ちゃんに距離を置かれるようになっても、最初の一週間くらいは頑張った。

 積極的に声をかけて、冷たくあしらわれても、めげずに笑顔で距離を修復しようとした。

 わたしの何処が原因なのか考えて、わたしの広い交友関係よりも、静玖ちゃんの方を優先するようにした。


 でも、静玖ちゃんはあの日わたしにキスをしてくれたり、お胸をいじめてくれた日のように、わたしのことを可愛がってくれることは無かった。


 わたしは無性に焦った。

 どうしてかは分からない。だけど、きっと親友にせっかくなれたんだから、縁を切りたくない!とかそんな風に解釈していた。自分の気持ちを。


 それでも、いくら頑張っても静玖ちゃんはわたしを見ようとしてくれなくて。

 もう、他のどの人よりも、わたしは静玖ちゃんを優先してるっていうのに。



 もうこの時には、すでにわたしは静玖ちゃんのことしか頭に無かった。

 静玖ちゃんから距離を置かれるほど、段々とわたしは静玖ちゃんのことを『親友としての清い関係を築く相手』から『執着すべき静玖ちゃん』へと向ける気持ちが変化していた。



 それから、わたしは放課後に誘っても彼女が応えてくれないがために、お昼を一緒に食べることにした。


 お昼ぐらい、許可なんて取らなくても良いよね。そうだよ、どうせ静玖ちゃんとわたしは隣の席なんだから、さりげなく机を寄せて、さりげなく食べ始めれば良いんだ。

 そう思って、勝手に静玖ちゃんの机に自分の机をくっつけて、お昼を一緒に食べることにしたんだけど。


 静玖ちゃんが無言でわたしを見るたびに、


「(や、やっぱりダメ、なのかな?ご飯を一緒に食べることすら、ダメなの?わたしはそんなに嫌われちゃったの??お願い、拒否しないで。せめて、隣にいさせてよ。そうじゃないと泣いちゃうよ)」


 もう末期であった。

 わたしはいつの間にか、彼女がわたしを拒めば泣いてしまうほどに、彼女に執着して、彼女のことしか考えられなくなるように。



―――調教されていたみたいだ。



 このことに気付いたのは、本当にここ最近。昨日とか。

 だって、どう考えても昔のわたしは親友である『あーちゃん』と『めーちゃん』のことは同率だとしても一番に考えてたはずだ。

 なんなら、初カレのタッくんのことだって優先して考えてたはずで。


 あぁ、わたし、彼女に躾をされていたのかって思った。


 だけど、それは何故だか、別に嫌では無かった。

 むしろ、じゃあ静玖ちゃんは逆にわたしのことを常に考えてくれてる?って思ったら、ニヤニヤが止まらなかった。


 でも、それとこれとは別、って感情もあったわけで。


 わたしは時には静玖ちゃんに話しかけるのを別の子たちに邪魔されて本気でその子たちに怒りが湧いたし、今日に限っては半ば強制的に静玖ちゃんと放課後の約束をした。


 これでは、愛が重たい束縛女と呼ばれても否定できないと自分でも思う。


 でも良いよね?

 だって、そんなわたしでも、わたしの静玖ちゃんはきっと可愛がってくれるはずだから。


 わたしは思い出す。

 ここ半月は毎日のように夜中ベッドの上で一人、静玖ちゃんとのキスといじめられたお胸の感覚の記憶に妄想して、性欲求を満たしていた。


 今、ようやっとその相手と再び二人っきりの時間を作れて、一緒に帰れている。


 この機会を、逃したはダメだ。

 わたしは、自分から静玖ちゃんを誘った。


「ね、ねぇ静玖ちゃん。今日、わたしのお姉ちゃんサークルの飲み会で家にいなくて。両親は二人とも仕事で全然帰ってこないから………」


「…………こないから、どうしたの?」


 むぅ、静玖ちゃんはいじわるだ。

 もうわたしの言いたいことは伝わってるはずなのに。最後まで言わせるんだ。


「あの、だから、その、う、うち来てほしい」

「………へぇ、私を呼んで、何かしたいことでもあるの??」


 ほんっとーにいじわるだ!

 そ、そんなことまで、わたしに言わせるつもりなの!?

 そんなの、そんな、したいことなんて決まってる。

 また、キスしたい!静玖ちゃんとキスして、頭を融かして、とろとろにされて、可愛がってもらいたい!!


「………キ、キス、してほしい」

「ふーん♪キスしてほしいんだ?マシロちゃん。それは、?上かな?あいだかな?それとも、、下?」


 し、下。

 もう、どこか想像はついている。と言うか、仮にじゃなかったとしても、最終的にはソコもいじめてほしい。


 ここ数週間で、もう、疼いて仕方がないの。


「ぜ、全部。ぜんぶぅ、お願い。静玖ちゃん」

「っ〜〜〜〜〜〜!もうっ、可愛いねぇマシロちゃんは♡欲張りさんなんだ?いいよ、今日はマシロちゃんの家に行って、マシロちゃんの全部をお世話して、隅々まで可愛がってあげる♡」


 えへへ。やったぁ!


 わたしは自分から静玖ちゃんの手を引いて、自分の家へと招き入れた。


◇ ◇ ◇


「はぁ、、はぁ、、はぁ、、!」

「ふぅ。マシロちゃん、大丈夫?ほら、水分補給」

「し、しじゅくちゃぁん、んむっ」


 本当に、わたしの体の、恥ずかしいところも全てを可愛いがってもらった。いじめてもらった。

 もう、静玖ちゃんに全部見られてしまった。


 わたしのだらしない顔まで。


 今も、静玖ちゃんに口移しで水を飲ませてもらってるけど。

 このお水が静玖ちゃんの唾液ミックスだと思うと、目が更にとろん、としてきて顔がだらしなくなってしまう。


 もう、わたしは静玖ちゃん無しでは生きていけない。


 離すつもりは毛頭無いけれど。

 今夜の情事を知ってしまったならば、意地でも静玖ちゃんを手放したくない。


 行為もそうだし、何よりわたしはもう静玖ちゃんにメロメロであり夢中なのだ。


 静玖ちゃんが、わたしの頭を撫でながら質問してくる。

 今の頭の融けきったわたしじゃあ、きちんと答えられるはずないのに。


「マシロちゃん、私とこういうことしてるけど、いいの?」

「な、なにがぁ?」

「カレシさんのこと。マシロちゃんの初めての彼氏なんでしょう?裏切ってることになっちゃうけど」


 なんだ、そんなことかぁ。

 そんな質問なら、今のわたしの状態でも答えられる。

 と言うか、答えなんて決まっていた。


。あの人よりも、静玖ちゃんのことが好きぃ」

「へぇ?良いの?マシロちゃん。そんなこと言われたら、私、本気にしちゃうよ?」

「いいよぉ。もう静玖ちゃんから離れたくないのぉ。好きなの、大好きだからぁ」

「そっかそっか。マシロちゃんは私のことが好きなんだね?じゃあ、今この場で彼氏と別れてくれたら、私と付き合おっか!」

「うん!わかったぁ!」


 わたしはスマホをバッグから取り出して、メッセージアプリでピンをさしている連絡先をタップする。

 コールを更にタップすると、2コールぐらいで彼は電話に出た。


 たっくさんのメールが届いてたから、よほどわたしのことが気になってたんだと思う。


『おい!なんで今まで無視してたんだよ!ったく、心配したじゃねぇか!!』

「ごめんねぇタッくん。わたしたち、今日で別れよ!」

『はぁ!?いきなり何言ってんだよ!お前今どこだよ!会いに行くから場所教えろ!!』

「わたし、本当に好きな人ができたから、タッくんとはこれでバイバイだね。じゃあね!今までありがとう、さようなら!!」


 わたしは一方的に要件を伝えて電話をきった。

 そして、期待の籠った目で静玖ちゃんを見る。


「別れたよ、静玖ちゃん!!これで、わたし静玖ちゃんの彼女になれる!??」

「うん!ここまでしてくれてありがとう。これで、マシロちゃんは私だけのものだし」

「静玖ちゃんはわたしだけのもの」


「……………」

「……………」


 二人、互いに見つめあう。

 熱のこもった視線は交差して、どちらか、或いは両方か。

 二人は抱き合い、


―――そして深く、唇を重ねた。


 あぁ、幸せ。

 わたし、ちょっと前まではこんなこと知らなかったし、女の子同士なんて考えたことも無かったけど。

 今、わたしが幸せなんだから、全てOKだよね。



 わたし、いつの間にかNTRれたうえに調教されちゃいました♡


 だけど、これから静玖ちゃんと幸せになれるから、これはきっと物語で言うところの―――





 ―――(Happy End)

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わたしNTRれたうえに調教されちゃいました!? 百日紅 @yurigamine33ki

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