第5話
あっという間に週末金曜日。
月曜日に勇気を振り絞って隣の席の『今ちょっぴり話題の美少女』
それから、そう、あっという間に金曜日。
あの日あの時に井上 静玖ちゃんと言葉を交わしたことで少なからず赤の他人以上知り合い未満から、知り合い以上友達未満という関係には落ち着いている。
しかし、それ止まりなのだ。
知り合い以上ではあるんだけど、友達と呼んでいいのかは定かじゃない。
月曜日の朝から今日に至るまで、「おはよう」の挨拶をお互いに笑顔で交わして、授業で解らない問題を教えてもらったり教えたりして、「またね」を言って各々の帰路につく。
そんなことの繰り返しで、わたしはもうすっかり友達だと思ってはいるんだけれど、肝心の井上 静玖ちゃんは友達だと思ってない可能性がある。
本来の目的は、あの時のキスについてを聞きたいがために親交を深めようとしたけど、今じゃそんな目的もすっかりと忘れて彼女の仕草に一喜一憂してしまう。
と言うのも、なんでわたしが一抹の不安を抱いているか。それは井上 静玖ちゃんが昨日あたりから段々とわたしと目を合わせなくなってしまったことが原因で………
ここ数日で少しは仲良くなれたと自負していたのに、そんな矢先に目を合わせてくれない、会話も消極的、といった冷たい態度を取られてしまうと、わたしは泣きそうになってしまう。
どうしてこんなに悲しい気持ちになるのだろう。
いや、わたしは彼女を友達だと思ってるのだ。たとえ一方的でも、そう思ってる。
そりゃ、友達に冷たい反応をされたら誰だって泣きたくもなるはずだ。きっとこれは、わたしが特別でも無ければ、彼女のことを特別と思ってるわけでも、決して無い。
――――無いったら、無いのだ。
「---ちゃん、--ロちゃん、マシロちゃん?」
「えっ?な、なに?」
今は4限目の授業の最中であって、本来ならばお喋りをして良い時間ではない。のだけれど、隣の席から肩をトントン叩かれ、何度も名前を呼ばれてたみたい。
授業内容を全く聞かずに考え事とは、わたしもどうやらいよいよダメみたいだ。頭の中が井上 静玖ちゃんで埋まっている。
この気持ちは、いったい?
「ここ、わかる?」
「えーっと、、あー、そこは√を外すためにまずは左辺を2乗して―――」
「―――わぁ、ありがとう、マシロちゃん!」
「全然いいよ、これくらい。持ちつ持たれつってやつだよ」
やっぱり、彼女は今日も、今回も目を合わせようとはしてくれない。
わたし、何か嫌われるようなことしちゃったかな??
井上 静玖ちゃんは消しゴムを手先で遊ばせ、目線はわたしと合わせずにノートを見たまんま口をどもつかせる。
何かを言おうとして、躊躇って、言おうとして、を繰り返してる。
「その、今日のお昼ご飯なんだけどね?マシロちゃんと一緒に食べたいなぁ、なんて………、ダメ、、だよね??」
「えっ!??」
「うるさいぞー、マシロー」
突然のランチのお誘いに、しかも井上 静玖ちゃんからのお誘いに、思わず授業中にも関わらずに頓狂な大きい声が出てしまう。
先生に注意され、慌てて口を両手で抑える。
先生から目を離して、再びわたしの瞳は彼女を捉える。
うっすらと赤く染めた頬に、恥ずかしそうに左手をあて、右手で熱を冷ますようにうちわの如く扇いでいる。
もしかして、照れてる?
結構勇気出して誘ってくれた感じ、かな?
わたしは今度は怒られないように、彼女の耳にグイッと口を寄せて、囁くように答えた。
「いいよ!友達二人も一緒だけど、それでも平気?」
親友の『あーちゃん』と『めーちゃん』のことだ。わたしはいつもお昼休みはこの親友二人と共に過ごすことが多い。
例に洩れず、今日も約束していた。
でも、、、
「………きりがいい」
「え………………?」
「ふ、二人きりが、いい!!」
「うるさいぞー、井上ー」
ハッとして、ヒソヒソ話をするために無意識に近くなっていた距離感を正常なものに戻し、しーっと人差し指を口の前に立ててジェスチャーを示す。
クラスメイトたちからは好奇の視線が飛んできて。
井上 静玖ちゃんと言えば、「〜〜〜〜っ!!」と耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆い、机の下の足は可愛らしく地団駄を踏むようにバタバタと悶えていた。
かわいい。とてもかわいい。
わたしは考える。ここで大事なのは優先順位をはっきりさせること。
人付き合いは優先順位が大事、これはわたしの持論だ。
そして、今頭の中に浮かんだ人物は真っ先に井上 静玖ちゃんのこと、そして次に親友二人。最後に、ほんとにギリギリ滑り込みセーフのほんの一欠片部分だけ、彼氏のタッくんについて。
悲しくも今のわたしには、初めての彼氏よりも優先順位の高い同性が3人もいた。
そして、大半を占めるのはたった1人の女の子。
考えるまでも無かった。感じたままに選ぼう。
きっとあの2人なら、誠意を見せれば許してくれるはず。あの子たちの優しさをわたしは今まで特等席で見てきたのだから。
わたしはクラスメイトたちの視線なんて全く意識せず、今度こそ先生にバレないように、再び井上 静玖ちゃんの耳に口を寄せて、さっきよりも小声で、だけれどしっかりと想いが届くように囁いた。
「いいよ。二人きり。――やくそく!」
えへへ、と笑いながら彼女の耳元から離れる。
あ、目があった。
わたしは少し顔が赤くなってるのを感じる。今回もまた顔を赤くすると思ったのに、どうやら彼女はもう耐性をつけてしまったようだ。
少し残念。だけど、約束はできた。
わたしはこの4限目の終わりを知らせるチャイムを今か今かと心を踊らせて待つことにした。
平静を装ってはいても、耳だけが真っ赤になってる井上 静玖ちゃんには、気づかなかった。
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