6話
家に帰ってきた私は、家族に挨拶もせず自分の部屋に直行しました。
『なのは』と丸いフォントのプレートが掛けられた扉。その扉のドアノブの少し下にある鍵穴に鍵を差し込み、鍵を開けて部屋に入ります。
入ると、すぐに鍵を閉め、電気を付けました。
パチ、と音が鳴り、部屋が明るく照らされます。
そこには写真が壁や天井一面に貼られていました。その全ての写真に共通しているのは、めるが写っていること。正面を向いて笑っている写真もあれば、無表情でこちらを見る写真もあります。中には後ろ姿を撮った写真もあり、街中を普通に歩くめるをすれ違いざまに撮ったものまであります。
私の部屋を語るうえで、特出すべきは写真だけではまりません。床にはゴミ屋敷のようにゴミが散乱しています。片付けができないわけではありません。無造作に見えて、ちゃんと考えて配置されているのです。本当に本当です。
だけど、私はこの部屋が普通でないことは自覚しているつもりです。だから普段から部屋に鍵をかけ、家族を含め誰一人として絶対に見れられないようにしているのです。
私はおじさんからもらった黒いビニール袋をベットに置きます。
ブレザーをハンガーに掛け、ワイシャツを脱ごうとしましたが、ビニールの中身が気になってそこでやめました。
ワイシャツとスカートのまま、私はビニールに手を掛けます。
ぎゅっと硬く結ばれた結び目からではなく、その少し下に爪をくった立て穴を開け、それを広げます。
中には中身の詰まった透明のビニール袋が入っていました。
私は意気揚々とその透明ビニールを取り出し、今度は打って変わって緩く結ばれた透明ビニールの結び目を解きます。
私は開封されたビニールに鼻を近づけました。ビニールの匂いが鼻腔をくすぐります。でも、そこに微かにゴミの臭いがします。──めるとその家族から排出されたゴミの臭いです。
「ふへ、ふへへへ……」
自然と笑みが溢れました。私は自分の表情に気づかぬまま、透明ビニールを物色します。
「どこかなぁ……、んー、ないなぁ…………おっ」
ティッシュやらお菓子のゴミやらを無視して、私はお目当ての物を見つけました。
それは噛み潰されたストローでした。
私はそれを手に取り、噛み潰された部分を口に含みます。
表面には水分はないように見えましたが、ジュワっと噛み締めると冷たいものが溢れてきます。
めるの歯の形を感じます。唾液を感じます。味を感じます。
めるは決して知ることはないでしょう。友達に家のゴミを漁られていることを。
このストローが一万円で買えるなら安いもんです。
私はベットに体を倒し、仰向けに寝転がります。
口にストローは咥えたまま、私は思考しました。
もしかしたらめるは、私が見つけやすくするためにストローを噛んでるのかもしれない。
ああ、めるはホント、優しいなぁ。
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