第31話 〜和久が帰りたい理由〜

 朝を迎え,学校へ行くと,大佐が何故か俺達のクラスの前に居た。

 「おはよう! 雄二に伝えればいいか。今日の放課後雄二達のチーム五人で私の所,学長室に来てもらえるか?」

 「おはようございます! はい……わかりました」

 「では放課後に!」


 多分,昨日の模擬戦の事と作戦の事だろうと思った。恭子が登校してきて俺は恭子に伝えた。

 放課後になり,チーム全員で学長室へ訪れる。


 コンコンコンとノックをする。

 「失礼します! 一年クマさんクラスの藤井です!」

 「入れ!」


 学長室に入ると,和久さんが居た。冬月大佐と和久さんという組み合わせだった。

 「チーッス!!」

 和久さんが何とも軽い挨拶を俺達にした。他の皆は軽蔑したような目つきで和久さんを見る。 


 「伊藤研究員ちゃんとしたまえ!」


 「昨日はご苦労だったな! それで三年生と模擬戦をしてみてどうだった?」


 「強かったですとても。私達も相当頑張ったとは思うんですが,実力が足りなかったと思いました。たまたま運良く引き分けたかなと思っています。次またやったらきっと勝てないでしょう」

 「そうか……他の者もそんな意見か?」

 俺達は皆首を縦に振った。


 「結論から先に言おう! 殲滅作戦でお前達も参加させる事にした」


 「何故ですか? 私達は引き分けだったのに……」

 恭子が大佐に問う。


 「いくつか理由があるが,まずは一年生が三年生に鉄騎の模擬戦に挑んで,歴史上勝った事はこれまでに一度だってない。わかるか? 私は絶対に負けると思ってこの条件を出したんだ。負けると思っていたが,お前達は引き分けにまでに持ち込んだ」


 今までで誰も勝ったことがないだって? 大佐も人が悪い……


 「模擬戦が終わった後,三年生から推薦があったんだ。お前らの模擬戦の映像を三年生は一度見てるんだが,まず負けないだろうと言っていたんだ。なのに当日になったら,そんなに日にちが経っていないのにあまりにも急成長にびっくりしたそうだ。そして絶対に勝てると思った模擬戦で引き分けだった」


 「この作戦に出たくてここまで成長したなら,実力も見せたし問題ないと。良かったら参加させてあげて下さいと言われた」


 「確かに大したものだと思った。短期間であれだけの実力を身に着けたのは称賛に値する。そして鉄騎に関してだが,適合率以外の話をしたのを覚えてるか? 強い感情によって強くなる可能性があると! つまり今回のお前達はチームだった財前の敵を討ちたいという強い気持ちがあるだろう? 参加する事で,お前達の中でいきなり急成長する奴が出てくるかもしれないと」


 「実力も示したし,参加させても問題ないと私も思う。だから参加させる事に決定した」

 俺達は変異種の殲滅作戦のメンバーに選ばれた。


 何故か和久さんが俺に向かって得意げな顔をした。

 もしかしたら多少は大佐に進言してくれたのかもしれないと思ったが,俺は無視した。

 

 「殲滅作戦は一週間後に行う事が決まった。それまでに準備をしておいてくれ!」


 「分かりました冬月大佐! ありがとうございます」

 「あ〜雄二!! 時間あったら研究室に顔を出してくれるか? 用事があるんだ」

 「分かりました」

 俺達は大佐に感謝をし学長室から出ていく。


 選ばれた事が嬉しいと皆思っているはずだ。だけど何故か皆は無言のままだった。

 選ばれないと思っていたから,驚いたという感じなんだろうか?


 「とにかく選ばれて良かったじゃんよ!!」

 雷斗が我慢出来なかったのか喋りだした。


 「選ばれる為に俺達は頑張ってきて,実際に選ばれたんだから凄いじゃん!? やるじゃん! 俺達。だから素直に喜ぼうぜ! そして財前の敵を自分達で討つ事が出来るんだから,後一週間時間あるから頑張ろうぜ」


 「そうね雷斗くんの言う通りね」

 「皆さんで頑張りましょう!」

 「がんばる……」

 そのまま皆で訓練場に向かい鉄騎の練習をした。

 皆が今出来る事はと考えたら少しでも強くなる事だと思ったからだろう。


 そうこうしているうちに,数日経ってしまった。

 俺のクラスに和久さんが訪れた。


 三日徹夜したかのような,テカったボサボサ髪の毛と無精ヒゲ。清潔とは無縁な姿をした和久さんがそこには居た。


 「おい! 雄二,研究室来いって言ったじゃん! なんで来ないんだよ。今日の放課後来いよ」 


 「和久さん。完全に忘れてました! どうせ大事な用じゃないでしょ?」

 「なんでだよ! 大佐が呼んだらすぐ来るくせして! まあいいやとりあえず今日待ってる」

 「分かりました」


 放課後,和久さんの研究室に訪れてた。

 朝から何一つ変わっていない姿の和久さんがそこには居た。

 「よく来たな雄二! 待ってたぞ」


 「和久さん,家帰ってますか? それより風呂入ってます?」

 「あぁ〜それはわからん。何日帰ってないかもわからん」

 「なんですかそれ!」


 「そんな事はどうでも良いから,これを見てくれ」

 そう見るとそこには鉄騎が一体あった。ただ見たことない鉄騎だった。それに完成はまだしていないようだった。


 「これは???」

 「え!? お前専用の鉄騎だよ! 話しただろ? 大佐が造るって話を通して造る事が決まって,大佐が無茶な事言うから,連日徹夜で超特急で造ってるんだよ!」


 「え!? 俺専用騎ってことですか?」

 「そうそう! まだ完成してないけど,ちょっとテストしてもらおうと思ってな……」

 大あくびをしながら和久さんが説明する。


 「コックピットに入って,ちょっと腕とか動かして欲しんだ。そのデータと適合率を見たくてな」

 「分かりました」

 

 まだ上半身しか出来ていない鉄騎のコックピットに入る。見た目の外観もコックピットの中も今までの鉄騎とは違う。


 「あぁ〜雄二聞こえるか??」

 「聞こえますよ!」

 コックピットの中から無線で和久さんの声が聞こえてくる。


 「とりあえず普段鉄騎に乗っているみたいに乗ってみてくれ!」

 「わかりました」

 いつもようにしてみる。ただ普段乗っている鉄騎とはどことなく違う感覚が俺を襲った。

 鉄騎と本当に一体化しているような俺自身が鉄騎になったようなそんな感覚だった。


 「雄二! そのまま手とか腕とか少し動かしてもらえるか?」

 「その後に,普段使ってるバリアとかちょっと出してもらえるか?」


 「分かりました」

 指示されたように,動かしてみる。普段鉄騎を動かしている時より軽く感じる。

 新しい鉄騎だからなのか分からない。バリアを張っているみるが,問題なかった。


 「透明化してみてくれるか?」

 和久がいうように透明化に試みた。


 「おお! 透明化出来てるな! ちょっと効果が切れるまで続けてくれるか?」

 「わっかりました」


 透明化に関しては神経を使う。言うなれば息継ぎをしないで,プールで潜水をして泳いでいるような感じだ。だからそんな長く出来ない。長くても戦闘では二分が俺には限界だった。


 「和久さん! 透明化の効果がなくなったら教えてください」

 「はいよぉ〜! 了解した」

 戦闘がなければ,少しは長く出来るけど,それでも三分位しか今までもたなかった。


 「もうキツイ! 和久どうでした?」

 「今ので,丁度六分ちょっとだったな!」


 なるほど,この鉄騎は性能がやっぱりいいのだと思う。

 「雄二,降りてこっちに戻って来てくれるのか?」

 鉄騎から降りて和久さんの元へと向かう。


 「それで和久さん,どうだったんですか?? 何か分かったんですか??」

 「ん〜〜わからん!」

 そして笑った!!


 「分からんって……前と同じじゃないですか!」

 「ただ雄二に反応して,鉄騎自体はちゃんと動くし,能力も使えた! 実際感触としてはどうだったんだ?」


 「今乗っている鉄騎より感覚的には良かったですよ! 具体的にどうかとか説明出来ないですけど」


 「そうなんだな! 結果として本当に雄二専用騎になりそうだな。この特殊な核と雄二の適合率を調べようとしたけど,数値として出なかった。でも適合率が高くないと出来ない技も出せたし,普段よりも結果が良かったんだろ?? だから問題ないと判断した」


 「このまま雄二の専用騎としてこの鉄騎は造る事に決まった!」

 「いいんですか? 俺だけの為なんて……」

 「大佐が決めたことだからいいんじゃねえの!?」


 「そうなんですかね〜?? この鉄騎はいつ頃完成しそうなんですか?」

 「ん〜そういえば近々なんか大きな作戦があるみたいな話を聞いたけど,いつなんだ?」


 「二日後です!」

 「二日?? それには間に合わないな。その次位からはこれに乗れるんじゃないか?」

 「そうなんですね。分かりました!」

 「そういえば雄二,今まで結界の外に何度も出てるとは思うんだけど,何か手がかりは見つかったか??」


 「元の世界に帰る方法ですか?」

 「そうそう」

 「特に見つけてないです……Antsybalの巣に行ったりしてますけど,中に何か特殊なものがあったりしたこともないですし」


 「なるほどなぁ〜そうなるとやっぱり,祈り子様が使っているという核,もしくはモノリスに何かもしかしたらあるかもしれないなぁ」

 「和久さんは帰りたいんですか?? 俺は正直帰れないと思ってます」

 「帰れるなら帰りたいだろ!? 諦めたらそれこそ帰れなくなるからな!」


 「引き続きなんでもいいから怪しいと思ったものは何でも報告してくれ。頼んだ雄二」

 「分かりました……和久さん聞いてもいいですか?」

 「ん? 何だ?」

 「そんなに帰りたい理由ってのはなんですか? 五年も経ったなら,帰る方法がない! って俺だったら諦めちゃうなと思って」


 「ん?? 月並みだが俺には家族が居てな。奥さんとそれともう生まれてると思うが娘も居るんだ。出産の前に俺はこっちに来ちまった。帰れるなら帰って家族と会いたいなと思うんだよな」

 「奥さんと娘いるんですね。なんか結婚してるなんて意外です!」


 「なんだよ! 似合わないってか?」

 「ん〜まあハッキリ言っちゃうと」

 「そういう理由かな! それだけじゃない事もあるけど……」

 「今後は辺りを見る余裕がある時は注意して探してみます」

 「頼んだ」


 「今日はもう大丈夫ですか? まだ何か俺にテストする事はありますか?」


 「いや! 今日は大丈夫だ。ありがとう雄二」

 「じゃあ失礼します」

 俺は研究室を出た。


 時々和久さんが何処と無く悲しい表情をするのは,元々居た日本に世界に会いたい家族がいるからだとこの時に初めて知った。

 向こうに居る家族も子供が生まれる前に和久さんが居なくなって大変だろうなと思っていた。


 俺自身もだけど,和久さんの話を聞いて,諦めかけていた帰りたいという気持ちを強めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る