第28話 〜新たなる可能性と緊張の一線〜

 「失礼します!」

 研究所の扉を開ける。


 「おお! 雄二か! 待ってたぞ」

 「なんか大佐にも訪ねてくれって言われたんですけど,どうしたんですか?」


 「ちょっと新しい鉄騎を開発中でな! 動くかどうか。反応してくれるかどうかテストしたくてな! 雄二は適合率も高いし,俺も雄二の事を知っているし,テストしやすいと思ってさ」


 「テストですか? 俺は何をすれば? というか,痛かったりしないですよね?」

 「いやいや! ないよ! 俺の事本当に信用してないよな雄二」

 「なんか変な実験してきそうで! それより新しい鉄騎が出来るんですか?」


 「まだ試作段階だけどな! でもちょっと特殊な核を使っているから一体しか作れない。今までにない強い鉄騎を作ってる最中なんだよ」

 「とりあえずそこの椅子に座ってもらえるか?」


 「わかりました」

 特に変わった装置や椅子などではなく,歯医者に行ったときに座るような椅子に座った。 

 和久さんが俺の頭に何やら装置を付ける。


 「ちょっとデータを見たいからそのままでいてくれるか?」

 特に何かされる訳でもなく,ただ椅子に座らせられた。


 「雄二,普段鉄騎を操っている時の感覚を出せるか?」

 「感覚って言っても,意識した事ないですよ!」


 「まあちょっとやってもらるか?」

 「なんとかやってみます!」


 正直どういった感覚なのかと言われると難しい。普通に自分の身体を動かすように自然に動いてくれるから。特別意識して何かを動かすような感覚が俺にはなかった。


 それでも和久さんに言われた通りになんとかやってみる。

 「よぉ〜し! 雄二ありがとう! 終了するよ」

 意外にすぐ終わった。テストとか言うからもっと時間がかかるのかと思ったが,そうでもなかった。


 「それで和久さん,何か分かったんですか?」

 「そうだな〜何も分からんかったわ!!!」

 と言いながら笑う。


 「なんですかそれ! 分からないって! 天才科学者じゃないのかよ!」

 「それでもわからない事はある」


 「でも今のテストで分かったことは,雄二にはこの核は反応をしたんだ。つまり雄二には扱えるって事だ!」

 「それがどうしたんです??」


 「下手したら雄二専用の鉄騎を造る事になるかもしれないって事だ! この核が特殊だって話したろ?」

 「ええ……さっき言ってましたね」


 「色々省くが,簡単に言うと今の鉄騎の約2倍近く威力を増す事が出来ると思う」

 「より強く,より大きく,より速い鉄騎を造る事が出来るんだ。だが,今の所反応を示したのは雄二しかいない! だから雄二専用騎を造る可能性がある」


 「え!? なんですかそれ!!」

 「いいじゃん! カッコいいじゃん!」

 「和久さん完全に他人事だと思って言ってるでしょ」


 「そんな事ないぜ! 強くなるのは本当だ。でもなんで雄二にだけ反応したのか? 全く分からない! 雄二だけだったら雄二の後は誰も乗れないって事だろう?」

 「造っても結構無駄になるだろ?」


 「まあ言われると確かに」

 「その為だけで新しい鉄騎を造るのは難しいかもしれない」

 「千夏……後は大佐の判断によるかな」

 「大佐が造るって言ったら造れるんですか?」


 「そのぐらいの権限はあると思うぞ。一体だしな!」

 「雄二今日はありがとうな! 今から俺は大佐に報告に行ってくるよ」

 俺もそのまま和久さんと研究所を出て,俺は寮へと戻った。


 寮に戻ると何故か俺達のチームの話題が広まっていた。

 一年生にしてレベル3のいる巣に行って勝ったことが広まっていた。

 皆で祝福をしてくれた。上級生にも褒めてもらった。


 元の世界だったら一年生が上級生を差し押さえて結果を出すと,妬まれたりするものだが,この世界は誰が倒したっていい! Antsybalを倒したんだったら誰でもいい! そんな感覚でいる気がする。


 だからこそこんなに祝福してくれるんだと思う。

 確かに戦争をしていて,相手を倒した,相手の指揮官を倒したのなんて誰だっていい。勝って平和になるなら,自分の手柄じゃなくて別にいい。そんな感じなのかもしれない。


 俺は嬉しかった。何でだろう! 俺はこの世界では異質で,この世界の事はほとんど何も知らない。この世界では必要性のない人間なんじゃないか? と思っていた。


 しかし,今いる世界でも徐々に自分の居場所が増え,自分も出来る事があるのではないか? そう思えるようになった。


 今日の皆の祝福してくれた言葉や顔を見ると,この学校にいや! この世界に初めて受け入れられた気が少しした。少しそう感じたんだ。


 毎度の事ながら祝福してくれるのはありがたいが……

 なんで罰ゲーム並に多い量のご飯を出してくるのだろうか……

 勿論美味しいんだけど,量だけが……

 

 今日初めて知ったことだが,雷斗が大食いという事を知った。

 人間じゃない量のご飯を胃袋に入れていく。

 雷斗が居てくれたおかげでなんとか残さず食べる事ができた!


 俺はもう限界で少しも動く事が出来ない。

 透に手伝ってもらって部屋に戻り,ベッドに横になった。気付くと朝だった。


 すぐに三年生との模擬戦があるが,今から何か新しいそして特別な事も出来ない。

 だから毎日行っている日課,そして訓練や練習を行っていた。


 大佐から言われた三年生と模擬戦を行う日になった。今日の結果で,財前を殺した変異種がいるAntsybalの巣の作戦に入れるかが決まる。

 一日授業があったが,身に入らなかった。模擬戦の事で頭がいっぱいだった。


 三年生との模擬戦は放課後行われる。


 模擬戦の事を考えている内に放課後になっていた。緊張なのか心配なのか不安なのか? それとも気負っているのか俺が俺自身の感情がわからなかった。

 バスケの公式戦の決勝戦でもこんな感覚になったことがなかった。


 小学生の時に劇の主演をする事になってしまって,当日緊張で心臓が飛び出しそうな程緊張して,給食を吐いてしまった事もあるが,その時の感覚とも違う感覚だった。


 皆で模擬戦を行う場所へ向かっているが,他の四人も緊張してるのか? 珍しく会話がなかった。


 鉄騎が駐騎している場所に行くと,冬月大佐と山口先生,そして三年生の先生と思われる人が居た。三年生の人達はもう来ていた。

 俺達が一番遅く到着したようだった。


 「じゃあ始めるか! お互いに遠慮がないように本気でやっていいぞ!」

 大佐がそう言い,俺達は鉄騎に乗り模擬戦の準備に入った。


 「では始め!!」

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