第19話 〜復活と戦い〜

 次の日の朝,俺は普段通りに起き上がろうとしたら,全身が痛すぎて起き上がれなかった。とんでもない筋肉痛が俺を襲った。

 それでもなんとかベッドから這い出て朝の支度を済ませて学校へと向かう。


 師匠とやっている鍛錬や学校の授業で学ぶ事も大事だと思うが,俺の一番の強み,それは鉄騎との適合率である事は変わらない。 


 鉄騎に乗って,俺が出来ること出来ない事をもっと具体的にする事をした。

 和久さんが言っていたように他の場所にバリアを作る事が出来るのか?


 そして,他の鉄騎を透明化する事が出来るのか?

 他にも考えられるあらゆる事を試した。


 その中で分かったことはなんとなくイメージは出来るけど程度では扱うのは難しい事が分かった。

 はっきりイメージ出来るものしかきちんと具現化して扱うことができない。


 俺は他の場所や鉄騎にバリアを張る事は可能だった。

 しかし透明化は難しかった。俺自身を透明化出来るのは自分がどんな形をしているのか,どんな姿なのか? どのように姿を透明化すればいいのか? という事を感覚的に全て分かっているから,出来るという事が分かった。


 他の鉄騎はどの位の高さや幅があるのか? など細かい事がイメージ出来ないために,一箇所や部分的に透明化する事が出来るのだが,全てを透明化するのは難しいみたいだった。


 ただ自分がイメージしている場所にバリアを張ったりする事は可能だった。

 これは使い方次第で皆の役に立つ事が出来ると思った。


 自分がチームの為に今出来そうな事を徹底してやるようにした。

 俺達のチームは授業以外に,放課後皆で残って個人的な鉄騎の練習とチームの練習をひたすらしていた。

 

 上級生に相手をしてもらって,チームの連携などを磨いた。

 以前のような醜態を晒すことにはならなかった。


 財前が居た頃のチーム力には程遠いが,バラバラだった頃と比べると大分マシになった。

 恵が基本的に暴走して彩乃とぶつかっていたのは俺のバリアがフォローをして,ぶつからないようにした。前線の恵が傍若無人ぼうじゃくぶじんに動き回るせいで,雷斗の射撃が恵に当たる事がしばしばあったが,恵の背後をフォローする事でそういう事が減った。


 それでも恵の動きが速すぎて追いつかない事も多い。雷斗も雷斗で腕を上げたのか射撃の連射と撃つまでの速度が速く,上手く対応する事が難しい……


 あれから恵と雷斗の成長がありえない。個人の能力が飛躍的に爆上がりしている。

 雷斗は威力を上げるのは難しかったらしく,連射と精密な命中率で威力を補う事にしたらしく,今までの数倍の弾を打ち込む。そしてほぼ同じ箇所に当てる事が出来るようになっていた。


 恵は恵で,上級生との一対多数での鉄騎の模擬戦のおかげで,今までよりさらに動きが速く,無駄の少ない動きに,もっとアクロバティックになり,双剣だったのが,足の爪先にも刃を付ける事を可能にして計四本の刃で戦うスタイルを確立した。

 

 恵のアクロバティックな動きに合ったスタイルだと思う!

 恭子もそんな二人に影響されてか,自分自身で新しい攻撃手段を模索しているようだ。


 彩乃は最初は戸惑っていたが,今では慣れて上手く立ち回ってくれている。

 そこに今の俺のフォローが入りなんとか戦えるようになってきた。

 徐々にではあるが,俺達のチームの新しい形が出来ようとしていた。

 

 最近の日課になっている事だが,放課後恭子がチーム戦術と作戦の講義をしてくれた。

 「とまあ――今日はこの辺で終わりにしましょう! お疲れ様」

 「今日もこの後訓練場に行く?」


 「まあ行くでしょ! 個人もだけど,チームの連携をもっと上手くなった方がいいし」

 「それよりさ〜恵お前ホントに動きすぎなんだよ! いっつもいっつも。なんであんなに幅取らないと戦えないんだよ!」


 「撃った時には居なかったくせして,一瞬で射線入って来るなよ!」


 「というより射線気にして戦ってくれよ!」

 「私は……雷斗さんが下手くそなだけなんじゃないですか?」


 「はぁ!? お前ふざけんなよ! こっちがどんだけ気を使って撃ってると思ってるんだよ!」

 「ひぇ……ごめんなさい」


 「恵さんは正直暴れ過ぎです。私も戦っている時困っています」

 「私は……制御してます」


 「あれで制御してるの? 恵ちゃん……」

 「まあでもそれでもなんとか雄二のおかげで崩壊せずに済んでる訳だが」


 「ん? 俺のおかげか?」

 「そうね! 急に雄二くんどうしちゃったの?」


 「確かに! 雄二お前急にどうしたんだ?」

 「どうした? ってどういう意味だよ」


 「だって急になんかやる気になったし,鉄騎の戦闘でも腕が相当上がったし」

 「ここ最近で一番変化したのは雄二くんよね」


 「まあやる気になったのはいいんじゃねぇ〜の!?」

 「それでもまだ私達は上達しないといけないと思う」


 「それじゃあ訓練しにいきますか!」

 「「「「了解」」」」


 俺達は訓練を重ねた。学校の授業に放課後,そして夜俺は師匠との鍛錬を重ねた。

 

 チームとしても野外での演習でも今までの遅れを取り戻すが如く成績を上げていった。

 とにかくツボに入った時の瞬発力と爆発力は凄い。


 Antsybalのレベル0やレベル1を倒すだけだが,殲滅するまでの時間が他の一年生のチームと比べて圧倒的に早いのが俺達のチームだ。


 以前よりも戦闘中に遥かに口喧嘩する頻度も,罵声も増えたが,どうしてだか何故か上手くまとまってきているのが不思議だ。

 こういう時にチームワークとは何か? と思う事がある。

 お互いがお互いをある程度譲歩するものがチームワークだと思っていた。


 だけど,全て尖った人達がお互いをぶつけ合って,徐々に円に近い形にしていくのが,本当のチームワークというものかもしれないと俺は考えていた。

 

 訓練や授業を頑張っている頃,三年生がとある場所のAntsybalの調査に出掛け,そして戻ってきた。


 とある場所というのは,俺達チームが初めて野外演習に行った時の巣の調査だった。

 あの時変異種が仲間を呼んだ事でAntsybalの巣窟となっているようなのだ。


 山口先生が学校の授業の前に報告をしてくれた。


 「この前藤井達のチームが行ったAntsybalの巣に三年達が調査に行ってきた。それで分かった事はAntsybalだらけの巣になったって事だ。レベル3も何体かいるみたいだ」


 「そこで冬月大佐は全学年で殲滅作戦を実行する事を決めた。まあ総力を使って一掃する事になったんだが,このクラスからも一チーム選出しなくてはいけない」

 「正直私も大佐もどのチームを作戦に使うか迷っている所だ。一年生は対して重要な位置に配置される訳でもないし,私はどのチームでもどうでもいいと思うんだが,そうも言ってられなくてな」


 「よぉ〜し! 今決めた! お前らこの作戦に名乗りを上げるチームは模擬戦で戦え!」

 「勝ったチーム,一番強いチームを選抜してやる」

 「作戦の実行は一週間後位って言っていたから,明日模擬戦をする事に決めた。名乗りを上げるチームは明日の朝学校で代表者が私に言ってくれ」


 「じゃあ今日は解散! じゃあな〜〜〜」


 相変わらずふざけた教師だなとつくづく思ったが,強ければいいという単純明快でそれはそれでいいと思った。

 俺達のチームは集まった。


 「勿論俺達は参加するだろ?」

 雷斗が率先して参加表明する。


 「私も雷斗くんの意見に賛成だけど他の皆はどう?」

 「私は……どっちでもいいです」


 「私も参加したいわ! せっかく頑張ってるんだから選ばれたいわ」

 「雄二くんは?」


 「あそこの巣はある意味では俺達のせい……だと思う。なのに俺達が参加しないなんてありえないだろ? 俺達で本当はカタを付けたい所だけど,きっと東雲会長が殲滅してくれると思う。俺らはそんな三年生のサポートをしよう」


 「そう! じゃあ決まりね。明日美咲先生には私が言っておくから」

 意見が一致した所で,いつもように訓練へと出向いた。


 次の日になり,山口先生に俺達は参加表明を伝えた。


 「意外に二つのチームしか名乗り上げなかったな。じゃあ藤井のチームと加藤のチームで今日の鉄騎の授業で模擬戦をやるから,その時に勝ったチームが選抜チームとして決める。じゃあまあ二チームとも頑張れ〜」


 今日一日の授業は身に入らなかった。模擬戦の事で頭がいっぱいで,座学の授業も他の授業も上の空だった。


 昼休みに恭子がメンバーを集めた。

 「今日の模擬戦だけど,相手のチームの特徴とか個人個人のデータとかあるけど,皆にも伝えておこうかと思ってるんだけど??」


 「いやいい! 藤井だけ知っていればいいよ。俺達も知っていれば勝てる確率も上がるだろうし,本来ならそうすべきなんだろうけど,未知の分からい相手と戦った時に俺達は簡単に負けたんだ。そういう意味でも知らない事が訓練の一つになると思ってるから俺は知らなくていい」


 雷斗が雷斗らしくない発言をする。あの時の事を今でも雷斗の中で思う所がるようだ。


 「私は……関係ないからいらないです」

 「藤井さん。私はそのデータ教えてほしいわ!」


 「雄二くんは?」

 「ん〜俺もいいや! 恵や雷斗が作戦どおりに動いてくれるとも思えないし,その瞬間瞬間の判断と応用が俺には大切かなと」


 「分かったわ,じゃあ彩乃ちゃんにだけ詳しく話すわね!」


 恭子と彩乃を残し,他は解散した。


 昼休みが終わると,俺は鉄騎が置いてある駐騎場へと向かった。

 これから模擬戦を行うからだ。


 駐騎場に着く。


 「これから藤井のチームと加藤のチームで模擬戦を行いま〜す! 勝ったチームが今度の殲滅作戦の選抜チームになりま〜す」

 全く緊張感のない声が駐騎場に響く。


 「二チームが行う模擬戦を見て,他のやつらは今後の鉄騎の参考にするように!」

 「そして模擬戦を行う二つのチームは模擬戦である事を忘れずに全力で戦うように」

 「じゃあ準備を始めてくれ」


 俺達は鉄騎に乗り込み模擬戦の準備をし終えた。そしてお互い戦う準備が出来た。


 「よぉ〜し! それでは始め!」

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