姉さんからの相談

 部活動見学の翌日、昨日の約束を守るために俺は不良っぽい子達三人の見学に雪さんが体調不良で帰ってしまったので一人で付き合っていた。


「蒼汰ってもう部活入った感じ~?」


部活を二つ行った時に「柳って言いづらい」と言われ、自己紹介の時に名前で呼んでくださいみたいなことを言ったのを覚えていたのかみんなは俺のことを名前で呼ぶようになった。


「うん、文芸とゲーム」


「アタシらそこにあんまり興味ないんだよね~」


「でもさ二つ回っていい感じのとこ一つもないんだしさ一回行ってみる?運動部は行く気ないんだし」


「ありかも。蒼汰君、文芸部の場所教えて?」


 


 先輩たちが今日も部室を開けていることをいっていたので三人を案内すると部室には由香先輩が一人いるだけだった。なので俺も部員側に加わって昨日夏樹先輩から聞いた話を由香先輩の話に付け加えながら説明すると、みんなが興味ありげに話を聞いてくれているのがわかった。


「ねえ、結構よくない?」


「ね?アタシも思った」


「ここにする?」


「でもさ、いい男いなそうじゃない?」


「まあ、そこは別で見つけたらいいじゃん」


「そうだね~」


 小さい声で何やらうれしいことを話してくれているのがこっちのほうに聞こえてきたので部室にあった入部届を人数分出すとその場で三人ともは文芸部と書いて、そのまますぐに由香先輩と職員室に入部届を出しにいってくれた。





「……ってことがあったから帰るのが遅くなったんだって」


「へえ~?でもさ、遅れるならちゃんと連絡しなきゃダメじゃない?」


「……」


「まあまあ、許してあげなよ翠。蒼汰君だって高校生なんだしこういうことだってあるよ」


 部室で長い間話していたこととバスが少し遅れていたことが相まって結構遅い時間に家に帰ると、先に帰ってリビングで姉さんと咲さんが待っていた。


「でもね、蒼汰君この時間まで連絡が何にもないと翠だって心配するんだから気を付けないといけないよ?」


「気を付けます…」


「まあいいや。ちゃっちゃとご飯作って~」


 姉さんは一回注意したらご飯が遅れたこと以外はそれ以上は何も言わなかった。




「姉さーん、できたー」


 俺は急いで作った焼きそばとサラダを置いて姉さんたちを呼んで、着替えを済ませた二人と一緒に遅めの晩御飯を食べ始めた。


「「いただきます」」


「いただきます」


「蒼汰君、結局どの部活に入るかは決めたの?」


「文芸とゲーム部です。兼部ですけど、文芸が週二でゲームは不定期開催です」


「そうなんだ」


 話しながら食べているのにふと、二人の茶碗を見てみるともうご飯がなくなっていたのでおかわりを聞くと二人ともいるようだったのでご飯を多めに一杯よそって渡した。


「気になってたんですけど、姉さんと咲さんって部活の顧問とかしてないんですか?」


「やってるんだけど、私んとこも咲のとこも外部のコーチとかいるからあんまり関係ないのよね~」


「何の部活?」


「私が女バスで咲はえ~っとバレーだっけ?」


「そうそう」


 姉さんが中学生の時にバスケをやっていたのはなんとなく覚えている。その時から結構身長も高かったし男勝りな性格のおかげで県大会でもいい成績を残していた。




「「ごちそうさま」」


「ごちそうさまでした」


「あ、翠。なんか蒼汰君に頼みごとがあるとかって言ってなかった?」


「もちろん忘れてないって。蒼汰ーこっち来てー」


 キッチンで食洗器の中に調理器具とかを入れていると急にテレビの前の姉さんから呼ばれた。


「なに?」


「私の部活の子で二年生なんだけどその子なんでか知らないけど部活に来てなくてさ。それで担任の先生にも聞いてみたんだけどなんか学校にも来てないらしくてー。で!ここからなんだけどもう一人の女バスの顧問に私が家に行って説得して来いって言われたの」


 そこでなんとなく次に言われることが俺にはわかった。


「俺にもついて来いって?」


「さっすがぁ蒼汰!この子、女バスの主力らしくてコーチからもお願いされちゃったから断れないの。だけど、知っての通りこういうの私めっちゃ苦手だから、ね?」


「めんど……」


「そういえば、連絡もせずにお姉ちゃんをとっても心配させた……」


「…はぁ、わかったって」


 さっきの話の時、やけに優しいな~とは思ってはいたがこれを俺にやらせるためだったのだとここで初めて気が付いた俺は前にいる悪だくみを成功させた子供みたいな笑みを浮かべていた姉さんをあきらめを含んだ目で見つめた。


「じゃあ、来週の日曜だから予定空けといてね~。」


何も言えなくなった俺はせめてもの抵抗として姉さんの好きな一番風呂をもらっていくことにした。

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