ブッコロー、教祖様になる~俺の言うことだけ聞いてろよ
あさひ夕陽
第1話 声
また今日も聞こえる。
私にしか聞こえない声。
耳をふさいでも、知らんぷりを決めても、それは確かに私に届く。
耳ではなく、頭で聞いていると言った方がしっくり来るこの現象は、突然始まった。
まだ暑さが残る季節。
日課にしている文房具屋巡りを終えて、新商品を発見できた喜びでニヤニヤしながら帰宅した。ずっと欲しかった『鳥になる付箋』を見つけられたのだ。しかも自宅隣りの文房具屋で。灯台下暗し。脱いだ靴下もそのままに、何枚も付箋をめくって鳥にして、部屋でうっとり眺めていた、その時。
・・ロコ・・・
・・・・・ヒロコ・・・・・
部屋を見まわした。誰もいない。明るい夕方のせいか、全く怖くなかった。
気のせいか、と思って、付箋に文字を書いた。
『今 度 こ そ 必 ず』
ここまで書いて、また聞こえた。
———ヒロコ…
今度ははっきりと。
部屋のドアを開け、「呼んだぁ?」と親に確認したが、「呼んでなぁい」と返ってきた。
本当に不思議なことが起こると、人は、誰も見ていなくても首をかしげる。
その間も、私を呼ぶ声は止まらない。
———ヒロコ、聞こえてる?
私は初めて応えた。
「誰?」
———お、やっとかー。これから俺の言うことを良ぉく聞け。そうすれば何にも問題ないから。えっとまずは、そうだなー…
とりあえず明日は青、青のものを身につけなさい。
「嫌です。」
はっきり言った。
———えええええ。なんで?問題ないんだよ?勝ち馬だよ?ノーリスクハイリターン、だよ!?
「嫌だから、です。」
———ちょっとぉ!言うこと聞いてよ、まじでぇ。悪い様にはしないってぇ。
私が黙っていると、声は大きくため息をついた。
———ねぇ、今更なんだけどさぁ。あなた誰?的なの、ないのね。ヒロコちゃん。さすがだね。
この人、なんで私の名前を知ってるんだろう。
心の中でそう思っただけなのに、声は答えてくれた。
———そうそう。まずはそこから。自己紹介しなきゃだよね。メンゴメンゴー。
ハッとして、私はスライディングした。
これ?これが喋っているの?
さっき作った鳥の付箋を覗いた。
———プッ!やだぁ!ヒロコちゃん!うけるーーーーー!
さっき、声は自分のことを『俺』と言っていた。今、この喋り方は女子だ。多様化の世の中なんだから、性別なんてあってないようなものだろう。そもそも声なんだし。
良く聞いてみると高い声だ。ヘリウムガスを吸ったような。ロボットのような。でもなぜだか嫌な感じがしない、声。
———んもー!付箋がしゃべるわけないでしょ。ヒロコはメルヘンだねぇ。
そんなんだから……あーいや、なんでもない。
3秒遅れて、え?と聞き返したときには、声は自己紹介を始めていた。
———名前、ブッコロー。オス、ミミズク。ヒロコ、俺の声、聞く。分かった?
・・・
放っておこう、そう思った。付箋鳥に、黒寄りの黒で目を付けて、羽を描いた。お気に入りのノートを開いて、それを貼った。思った以上にかわいい。
———おおおおおい!ヒロコ!行くな!戻って来いって。こっちが現実だって!おーい!ミミズクだけに!?オーーーウイ!オーーーウルイ!owl!
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