10月第3週 獣対策簡易版

『グリュナー フェルトリーナー

 2020

 ニコライホーフ』


 中欧オーストリア・ドナウ川流域のヴァッハウに、2000年前にローマ人が建設したワインセラーが土台となる歴史ある醸造所である。

 ワイナリーのシンボルとなっている聖ニコライ修道院は1000年以上前に建造され、19世紀後半にサース家の所有となりワイナリーとして復活した。

 ビオディナミ農法を早くから実践し、その道の先駆者として知られている。


 今回はオーストリアを代表する白ワイン品種グリューナー・フェルトリーナーを開けてみよう。


 色合いは淡い黄色、見た目は軽やかでキリッとしたタイプを思わせるが、レモンや洋梨のフルーティーな香りがある。

 味わいにもフルーツの甘さを感じるが酸味も程よく、胡椒のスパイシーさがあったりと複雑な飲みごたえがありながらも、後味良い心地よさがある。


 要するに旨味の宝庫だということだ。 


『くるみソースの生春巻き』


 なぜか普段食べない物が食べたくなり、たまたま目についたクルミを買ってみた。

 それでもこんなに量はいらないのでどうしようかと考え、レシピを調べてみる。

 その中で「カリフォルニア くるみ協会」という不思議な組織が公開しているレシピを使ってみた。


 早速くるみソースを作ってみる。

 クルミをローストするのだが、オーブンが無いので早くもレシピを無視してフライパンで煎った。

 次にフードプロセッサーを使うのだが、もちろん持っていないので粗めのソースと言い訳をしてフォークで押さえながら手で押し砕いていく。


 後は程よい大きさに刻んだサラダたちを水にくぐらせたライスペーパーで巻いていくだけだ。

 

 見た目は雑、ソースに滑らかさがなく歯ごたえはある。

 だが、味はスィートチリソース風で悪くはない。


 生春巻きのモッチリ感とサラダのシャキシャキ感は絶妙であり、さらにクルミの粗さが良いアクセントになっている。

 クリーミーなアボカドとスモークサーモンの相性は最高すぎる。


 ワインと合わせてみる。


 自分の存在を主張しすぎないこのワインは料理をよく引き立ててくれる。

 奥ゆかしさがある故か、気がつけば料理は進み、グラスも気がつけば空になっている。

 ワインが精神的支柱でいてくれるからか、食事が活き活きして楽しめるのだろうか。


 誰かが影で支えていてくれる、それ故に真っ直ぐに前を向いていくことができるのだろう。


☆☆☆


 前回の終わりに、獣対策としてカモシカネット云々という話をしたが細かい話を今回はしようと思う。


 開拓している畑は山際にあるため、獣の出現が多い。

 そのため、何の対策もしなければイノシシ、サル、クマ、カモシカなど様々な獣たちに荒らされ放題になる。


 いずれはと思っていた獣対策だったが、地元の農林課から最寄りのJAで獣対策のカモシカネットを配っているという話を聞いてもらってくることにした。

 前回は8月下旬と書いたが、作業日誌を見返してみると7月下旬に引き取りに行っていた。

 忙しく働いていると時間の感覚が狂ってくるようだ。


 さて、こうして無料で手に入れたカモシカネットであるが、周辺の木を切り倒さないことには設置することはできない。

 電柱以上の巨木ばかりなので、先に立ててしまうと当然潰されてしまうからだ。 


 周辺の木も他人の土地に生えているところもあるので、農業委員会に間に入って問い合わせをしてもらっていた。

 許可が出るまで待つ必要があるので、その間にできる仕事をするだけだ。

 そういうわけで、周辺の伐採が終わった場所から徐々に支柱を立てていく作戦に出た。


 この作業は道具があれば一人でも簡単にできる。

 使う道具は「アースオーガ」という異世界ファンタジーに登場しそうなモンスターのように強そうな名前の機械である。

 ガソリンエンジン式とバッテリー式があり、僕はマキタの電動工具一式を購入したのでバッテリーだけは潤沢にあるのでバッテリー式を使っている。


 支柱の太さに合わせた口径のドリルをセットして地面に穴を開けていく簡単な作業だ。

 ただ、このアースオーガは図体はやたら大きくて重い。

 しかしながら、チュイーンと数秒で50センチほどの深さの縦穴を開けることができる優れものだ。


 この支柱が意外にもしっかりとした鋼管製で2.5m、まとめて持つと重い。

 少しずつ運び込み、畑の外周に結界のように支柱が立てられていく。

 と、同時に伐採許可の出た箇所の巨木もなぎ倒していく。


 そうして切り開きながら徐々に進んでいくが、切り開いた雑木林の中から投げ捨てられたコンクリートブロックや壊れたポリバケツなどのゴミが出てくる。

 ヤレヤレ、これだから年寄りというやつは……と思いつつゴミの中から錆びた番線の束が出てきた。

 畑を潰した残骸だろうか、この番線の量が凄まじく、軽トラックで三回分も満載になるほどだった。


 だが、鉄くずも積もれば山となり、金となる。

 町中にあるスクラップ屋に運び込むと、1回分で牛丼ランチ代ぐらいのお小遣いになった。


 こうして外周ぐるりと支柱を立て終われば、ネットを張るための金具の取り付けと支柱が真っ直ぐに立っているかの確認だ。

 これも難しい作業ではなく、ボルト付きの金具を電動のインパクトドライバーで高さを合わせて締めていくだけだ。

 鋼管製の支柱なので、マグネット式の水平器をカチッとくっつければ地面と垂直に立てることも簡単である。

 しかし、数だけは多いので1日では終わらず、翌日に持ち越した。


 こうしてやっとネットを張ることができるようになった。

 これも難しくはない。

 電気工事に使う屋外用の耐候性の配線バンドで、ネットを張りながら締めていくだけの簡単な作業だ。

 これも1日で終わらず後日に持ち越した。


 その後2日ほど雨で作業はできなかったが、無事にカモシカネットの設置は完了した。

 高さ2m全長300m弱、独りでもこれぐらいはやってみれば余裕でできる。

 だが、このネットはポリエチレン繊維なので、野生の獣相手では少々役不足だろう。

 苗木の間まではこれで獣避けになってくれれば儲けものだと思う。


 それにしても、最近はめっきりと人恋しい寒さになってきた。

 獣は寄って来なくてもいいからムニャムニャ……と今夜も独り布団に包まる。

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