文房具王になれなかった女は、異世界で文房具を探して旅をする
ひなまる
第1話
「ザキさん! 右から二体、来る!」
隣から上がった声に、女は視線を動かす。
そこには四角く白い紙に、手足が生えたような物がゆっくりと姿を現わしていた。
手には子供が書いたような剣が握られている。
「はい、まかせて下さい。
『文房具召喚:マスキングテープ』」
女はガラスペンを懐から取り出し、空中にペンを走らせる。
すると、何も無い空間に線が描かれ、マスキングテープの絵となる。
少し、下手だが。
発声とともに実態化したそれは、テープが引っ張られ、50センチ程まで伸びると千切れる。
テープはキラキラとした光、様々な模様を残像のように残しながら手足が生えた紙へと向かっていくと、クルクルと丸めるように固定したのだった。
「これ、すごっく可愛いんですよ。飛んでいる間だけなんですけど、キラキラしたり色んな模様が……」
「いいから倒して!」
「はい……。
『文房具召喚:ボールペン』」
先程と同じように、女はガラスペンで空中に絵を描く。
今度はボールペンの絵を3つだ。
具現化した3つのボールペンはグルグルに縛られた紙へと飛んで行き、線や文字を書き、時に突き刺して紙を貫いていく。
やがて、紙はガラスペンへと黒い影を飛ばし、紙の切れ端だけを残して消えた。
「やっぱり、シュットストリームはいいですね」
「いやザキさん、0.7mmじゃダメっしょ。ブレンドリーはともかくやっぱアクアボーロは0.5mmじゃないと」
女の横で反論するのは、鳥っぽい何かだった。
彼(?)は自分をミミズクだと主張しているらしいが、とてもそうは見えない。
「ブレンドリーもブレな……」
「ブレンドリーは具現化しなくても良かったんじゃないっすか? インクも無駄に使っちゃうし。
とりあえず、次の街までまだまだ距離があるんだからさっさと行くとしましょうか」
「あ、はい……」
次の目的地はまだ遠い。
一人と一羽はその場を後にして、街道を再び歩み始めた。
ズテテズッデ♪(場面転換)
「ザキさん、インクはどれくらい溜まったんすか?」
街道を行く途中、何気なくミミズクは聞く。
女は紙のモンスターと戦った時に使われたガラスペンを女は取り出して確認した。
「四分の一くらいですね」
「はぁ~~まじっすかぁ。この世界に来てもう三ヶ月になるっていうのに……」
インクの量を気にするには理由がある。
それは、三ヶ月前の出来事に起因する。
一人と一羽は3か月程前、突如ステイショナリーワールドと呼ばれる世界に迷い込んでしまったのだ。
女の名はオカザキヒロコといい、自称ミミズクの名はR.B.ブッコローという。
見たことのない場所に突如として放り出され、突然のことに彼女達は大いに慌てた。
直前に異世界の物語が多く投稿されるというサイトとコラボ動画を作っており、興味本位で数作品を読んでいたため、もしや自分達に同じことが起きたのでは? と考えた。
考えたが、荒唐無稽な出来事にまるで頭は追いつかない。
そんな困り果てた彼女達の前に、いつの間にか一人の老人が立っていた。
「このガラスペンを使い、モンスターを退治せよ。
モンスターはインクとなりガラスペンに吸収され、インクが満タンになれば元の世界に戻れるだろう」
老人はガラスペンをオカザキに渡し、ガラスペンの使い方の他にもこの世界の常識を簡単に教えてくれた。
さらに、オカザキとブッコローに質問にいくつか答えてくれたのだが、少し目を離した隙にいつの間にか姿を消してしまっていた。
今思えば、この世界に迷い込んだ原因をあの老人は知っていたのだと思うが、あれ以来再び姿を見せることはなかった。
二人は老人の言葉を信じてモンスターを倒し続けつつ、他に方法がないか旅をしながら元の世界に帰る方法を探して旅をしているのだった。
太陽が傾き、そろそろ沈み始めようという頃、ようやく目的の街が見えてきた。
漫画やゲームに出てきそうな、いかにも中世ヨーロッパのような趣で、全体が石の壁で囲われている街だ。
日本では見ることのできないその光景は、なかなかに圧巻だ。
まだ街までの距離はあるが、太陽が完全に沈む前には着くことができるだろう。
元の世界に戻りたい。
その気持ちはもちろんあるが、この世界も悪くないと思うことが、オカザキにはある。
この世界独自の文房具だ。
「この街ではどんな文房具があるんでしょうね。前の街で買った空中でもどこでも固定できる紙は画期的でしたよね。はぁ~こうやって文房具を集めながら旅を続けるのも悪くないですね」
「ご当地限魔法の定文房具ってか!? ワタシは元の世界に早く帰って競馬がやりてぇの!!」
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