第21話 都合の良い選択

冬が過ぎ、大学裏の森がみずみずしい緑色に染まり出した。

あっという間に感じるけど、思い返すと濃密な一年だったなと、サークルの新入部員を見ながら感慨にふける。

創作サークルは四年生になった加賀さんと藤沢さんを除けば、僕と健二の二人だけなので、存続の危機だったのだが、この春、見事に新入部員を四人獲得したのだ。

これも、新サークル長となった健二が、一日中ビラ配りに勤しんでくれたおかげだろう。

「森センパーイ、ここの描き方教えてください」

「もー、藍田さん、さっき教えたばっかでしょ」

「私バカだからすぐ忘れるんですよー」

まだ一ヶ月も経っていないのに、健二は一年生の藍田という女子に好かれているようだ。


「森センパイ、藍田さんに気に入られてますねー」

「そうか?」

一年生が全員帰った後、僕は健二をからかってみたが、健二は満更でもないような顔をする。

「そういえば立紀、藤沢さんとのデートのこと聞かせろよ。お土産はこの間もらったけど、サークルの勧誘で忙しくて詳しい話は全然聞けてないからな」

健二から思わぬカウンターが飛んできて、どぎまぎする。

「別に、そんな話すようなことはないよ」

「いや、絶対なんかあっただろ。お前の顔見たらわかるよ」

僕の頭の中をすべて見透かしているかのように、健二はニヤニヤと笑っている。

さすがだなと思う一方で、おそらく健二が期待しているであろう甘い話ではないため、余計に言いづらくなる。

「...振られたよ」

「...まじ?」

健二はやはり予想外といったような反応をする。

「でもまあ、スッキリしたよ」

気まずい空気になる前に適当な言葉を取り繕う。

「うーん...あんなに仲いい感じだったのになぁ。絶対お前のこと好きだと思ってたけどなぁ」

「仕方ないって」

そう言って僕は笑顔を見せるが、最後まで健二は納得のいっていない様子だった。


かくいう僕も、なぜ振られたのか納得のいく答えは出ていないし、答えを考えることすらやめてしまっていた。振られてから色々と考えたが、藤沢さんにしかその答えはわからないし、それを僕に教えてくれないということは、僕は知るべきではないのだろうという結論に至ったからだ。

それに、僕は藤沢さんとの関係を壊したくなかった。

きっとそれは藤沢さんも同じはずだ。

デートの日以降も僕たちはいつも通りに接している。

観覧車での出来事は、胸の奥底に蓋をして大切にしまい込むことが、二人にとって一番都合の良い選択だったのだ。

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