第20話 遊園地デート③
「...藤沢さんは、どうして僕と仲良くしてくれるんですか」
その言葉に、藤沢さんが僕の方を向く。
「それって、どういうこと?」
子供を相手にするような優しい声だった。
「...家に呼んだり、バイト先に顔を出したり、一緒に遊園地にまで来てくれるのってなんでですか」
「なんでって、友達だから」
「ただの友達に、そこまでするんですか」
「するんじゃない?」
混じり気のない目で言われ、僕は次の言葉がわからなくなり、下を向く。
遠回しに相手の心を探ろうとする自分が気持ち悪く思えた。
僕らを乗せるゴンドラが頂上に差し掛かかる。
「三浦君?」
藤沢さんの少し心配そうな声が聞こえ、僕は両手の拳を膝の上で握りしめる。
もうタイミングを考えるなんて余裕は、僕にはなかった。
「...好きです」
絞り出した声は、小さくて震えていた。
一呼吸おいて、今度ははっきりと聞こえるように言う。
「藤沢さんのことが、好きです」
鼓動が高鳴り、汗が噴き出すのを感じる。
僕は下を向いたまま、彼女の反応を待った。
藤沢さんならきっと、このベタなシチュエーションに笑うだろうか。やっぱりロマンチストだったと僕を揶揄うだろうか。
むしろ、そうであってほしかった。
「そっか」
彼女はその一言だけを口にした。
しばらくの沈黙の後、僕が顔を上げると、藤沢さんも俯いていたようで、僕に合わせて顔を上げる。
そして、彼女は悲しそうに微笑んだ。
「ありがとう、三浦君」
彼女の表情から、次に来る言葉は容易に想像できた。
「でも、ごめんね。三浦君の彼女にはなれないの」
「そう、ですか」
僕は黙って俯き、下唇を噛む。
ゴンドラがゆっくりと下降し、空がまた遠ざかっていく。
...じゃあ、藤沢さんにとっての僕ってなんですか。
僕と仲良くしてくれるのは、サークルの後輩だから? 部屋が隣りだから? それとも、水島さんのことを知ってしまったから?
ただの友達だって言うなら、どうしてそんなに悲しい顔をするんですか。
「...僕、わかんないですよ」
ぐちゃぐちゃな感情が、藤沢さんに対して愚痴を言うように、助けを求めるように、こぼれ落ちる。
そんな自分が心底格好悪かった。
でも、自分が今の感情を割り切れるほど大人ではないことも僕は知っている。
ガタン。
ゴンドラが揺れる。
足音と気配で、藤沢さんが僕の隣に座ったのがわかった。
顔をあげようとした瞬間、僕は上半身を引き寄せられ、強く抱きしめられる。
どうして。
僕の出しかけたその言葉が、密着して聞こえる彼女の心音の中に消えていく。
柔らかい体。
ほのかな甘い香り。
耳元で聞こえる息遣い。
「ごめん」
藤沢さんの声が二人だけの空間に響く。
その言葉は、僕を振ったことに対しての意味だけではないように感じた。でも、やはり僕には藤沢さんが何を抱え、隠しているのかはわからない。
僕は藤沢さんの背中に手を回し、ハッとする。
僕を抱きしめる、僕より小さな体は、今にも押しつぶされそうに静かに震えていた。
「大丈夫」
たまらず僕がそう言って、藤沢さんの体をぎゅっと抱きしめると、
「ありがと」
と、藤沢さんは少し笑いながら返す。
そのまま僕たちは、地上に着くまでの少しの間、抱き合っていた。
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