第13話 ドリア
「いやぁ、すっかり寒くなってきたね。もうじき雪が降るんじゃないかな」
そう言いながら、藤沢宅の玄関で靴を脱ぐ。
「珍しいですね、三浦君から遊びに来るの。昨日いきなり『明日家に行ってもいい?』って連絡がきたから驚きましたよ」
出迎えてくれた水島さんは、パーカー姿で壁にもたれかかりながら話す。
「今日は詩乃ちゃんいませんけど、二人で何します?」
「遊びに来たわけじゃないよ」
僕は持ってきた袋を掲げる。
「なんですかそれ」
「食材」
「食材?」
水島さんはまだ状況が読み込めず、困惑しているようだ。
「料理を教えてもらいに来ました」
「わ、私に?」
「うん」
「教えるって、どうすればいいんですか?」
「一緒に料理を作りながら、指示してくれればいいです」
「うーん」
水島さんは少しの間、部屋を歩きながら考える。
「できるかな」
「できます!できなくてもいいです!」
「なんですかそれ」
水島さんがクスリと笑う。
「わかりました、教えますよ」
「おお、ありがとう!」
僕はガッツポーズをする。
「それでは、厳しいご指導をお願いします、水島先生!」
と、大げさに頭を下げる。
水島さんは少し間をおいてから、
「よ、よろしい!」
と、笑いながら僕の弟子入りを許可してくれた。
「でも、急にどうして?」
「なんか、いろいろ挑戦しようと思って」
「ふーん...いいことですね」
水島さんが袋の中の食材をテーブルに並べていく。
玉ねぎ、ニンジン、トマト、こんにゃく、チーズ、シーチキン缶等々。
家にあった食材を適当に詰めてきただけなので、統一感のないラインナップだ。
「三浦君、何を作るか決めてますか?」
「決めてないです!」
「私が食べたいもの作っていいですか?」
「もちろん」
「じゃあ、ドリア作りましょう」
「ドリア!」
「そう、ドリア!」
「でも先生、材料足りますか?ひき肉とかいるんじゃ...」
「安心しなさい、足りない材料は全部うちにあります」
「せ、先生~!」
一瞬間をおいてから、僕と水島さんは同時にぷっと吹き出し、笑い合う。出会った当初は互いに緊張と警戒で距離を取っていたが、今ではふざけ合える仲なったことを嬉しく思った。
ドリアなんてつくったことがないので、すべて水島さんの指示通りに動く。野菜を切るのが遅かったり、フライパンに油を入れすぎてしまっても、水島さんは少しも文句を言わなかった。そして、途中から水島さんもただ見ているだけではつまらなくなったのか、卵スープをつくりだした。二人でキッチンに並び、他愛もない話をしながら料理をする。
「熱いから気を付けてくださいね」
水島さんの言葉を受けながら、僕はゆっくりとオーブンからグラタン皿を取り出す。
チーズの表面が程よく焦げ、湯気が立っている。
「うわぁ、お店のみたいだ」
「ふふっ、上手くできましたね」
僕たちはその味にワクワクしながらドリアと卵スープをテーブルの上に運び、席に着いた。
『いただきます』
と揃って挨拶をしてから金属製のスプーンを握る。
ドリアをすくうと、中に閉じ込められていた湯気が一気に放たれた。三回ほど息を吹きかけてから、僕たちは同じタイミングで口に入れる。そして、『おいしい』と同時に言った。
「やったね三浦君」
「水島さんのおかげだよ」
そう言って、僕は顔の高さのところで手の平を水島さんの方に向ける。その構えの意味を理解した水島さんが僕の手のひらをパチンと叩く。
『大成功~』
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