第6話 ゲーム
二十二時。
「おじゃまします」
「来てくれてありがとう!待ってたよー!」
藤沢さんに歓迎されながら、部屋に上がる。
丸テーブルに置かれた様々な絵柄のカード。
そして、水島さんがテーブルの前でおそらく正座をしているようだ。
「こんばんは」
僕は水島さんにあいさつをすると、
「こ、こんばんは」
と、小さな声で返してくれた。
「じゃあ、三人になったことだし、何する?たくさんボードゲームあるよ~。あ、まずは無難にトランプでもする?」
子供のように目を輝かせながら、藤沢さんは色々なボードゲームを手に取る。
いつも明るい藤沢さんだが、今は一段と気持ちが弾んでいるようだ。
水島さんもその様子にクスッと笑う。
「なんか、すごく楽しそうですね」
「あはは、そうかも!二人だとできるゲームが少なかったからさー、三浦君が来てくれてよかったよ」
「...なるほど。じゃあ、今日はたくさん遊びましょう。遅くまで付き合いますよ」
「ほんと!?やったー!」
アパートの一室に小さな歓声が上がる。
「あ、これであがり...」
「うわ~、また水島さんの勝ちか~」
「強いでしょ、那澄ちゃん」
「なんか必勝法とかあるんですか?」
「ふふっ、そんなのないですよ」
僕と水島さんは最初は互いに緊張していたが、ゲームをするうちに段々と打ち解けていった。
すっかり夜が更けた頃、水島さんがコクリコクリと揺れ始め、ぱたりとクッションに倒れた。
スースーと寝息を立てている。
眠気に一人が負けたところで、ようやくお開きとなった。
寝ている水島さんを部屋に残し、僕たちはアパートの廊下に出る。
涼しい夜風が肌を流れる。
「今日はありがとうね」
「いえ、とても楽しかったです」
「...よかったら、また暇なときに来てよ」
「いいんですか?」
「うん、三浦君なら」
三浦君なら。
その言葉が素直に嬉しかった。
星明りに照らされた艶やかな瞳が僕を見つめる。
「なんか、感動しちゃったよ。那澄ちゃんが私以外の人と会話してるところ、見たことなかったからさ」
「そうだったんですね...。いつから水島さんと一緒にいるんですか?」
「...十年くらい前かな。学校の勉強とかも今まで私が教えてきたんだ。でも、やっぱり私ができることには限界があるっていうか...」
藤沢さんは、胸の奥から少しずつ言葉を吐き出しているようだった。
今まで、誰にも吐露できずにしまっていた不安を。
「ごめんね。こんな話して。...でも、本当に那澄ちゃん、楽しそうだった。三浦君のおかげだよ」
「ふふっ、なんか、そう言われると照れちゃいますね。僕、バイトない日は基本暇なので、いつでも誘ってください」
「うん、ありがとう」
...そうか。
藤沢さんが今日僕を呼んだ理由がわかった。
彼女らはずっと二人だったんだ。
誰にも秘密を知られず、二人で生きてきたんだ。
今日僕は、彼女らの孤独に少し触れた。
僕は偶然秘密を知ってしまっただけのお隣さんだ。
でも、僕にできることがあるのなら、秘密を知ってしまった僕にしかできないことがあるのなら、彼女らの力になりたい。
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