第2話 Make up perfect.

『Make up perfect.』


通称MUPと呼ばれるそれははじめ、最先端の整形薬として発表された。

一粒飲むだけで、髪の色から骨格まで自分の望むように変えられるという夢の薬。

発表された当初は誰も信じなかったが、一人、また一人と世界各所で挑戦する著名人が現れて、それは実に見事に成果を上げたんだ。

体を自由自在に好きなように変えられ、望む姿になっていく彼ら。


「この薬のおかげで私の人生は変わりました!」


次第に疑いの目で見ていた人々も信じるようになり、MUPを飲む者が増えていく。

流れが動きだしてからはすぐだったよ。

ほんの一瞬でMUPは世界のスタンダードへと変わる。

飲まない人間は時代遅れと言われ蔑まれる、そんな当たり前のものに。


価格も安い。手軽で、簡単。

街には美男美女があふれた。

でも、流行はすぐに下火になる。

人はすぐに飽きる。

美男美女ばかりの世の中では、もう美しくても目立てない。


その動き見越していたのか、新しいMUPが発表された。

……それがあの立体ホログラム映像で紹介されていた薬。

外見の整形だけでなく、本人の性格、能力、果てには運までもメイクする特別な薬。

それはもうそうだね、メイクではなく、英語の文字通り、作り上げるんだ――人間を。


みんなこれに夢中になったさ。

自分を作り替えるなんて怖いじゃないか、どうしてみんなそれを飲もうと思うのかって? そのころにはみんな洗脳されていたんだよ。

一度飲んでしまったら手遅れ。もう洗脳という真実には気付けない。


整形で洗脳ってわけがわからないって?

いいか、新しいMUPは、メイクする道具なんかじゃない。人々に幻覚を見せるだけの薬だ。

最初のMUPで、人々を信じさせ飲ませてしまったらミッションコンプリートだ。

一度飲んだら、人類はその誘惑に耐えられない。麻薬だ。幸福な幻覚を見せる麻薬。

誰も逃げ出そうとは思わない。だってそのままで十分、幸せだから。誰にとがめられるわけでもないしね。


でもいつの世にも変わった人間っていうのはいるもので、世間に逆行しようとする。例えば、みんな飲む薬を飲まないでみたり。

そして、そんな人は新聞記者だったりするんだ。



そう言って、あたしはちらりと目の前にいる少女に目をやる。

無垢で、何も知らない美しい少女。

あたしはこんな純粋な相手に何を話そうとしてるんだろう。

でも、心は止められない。

――語らずにはいられない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る