第40話 合法おハーブVS脱法ハーブ
観光案内ができるくらい、村の隅々まで堂々巡りを強いられた。
スギト大使に任命される勢いである。名所は……ないです。特産は……ないです。
カゾも他所にマウントを取れるほど、何かがあるわけじゃない。そのためのおハーブか。
「ふひ、フヒヒ! もう限界ですぞっ」
ゼニンドの顔面の圧が、作画崩壊よろしく酷かった。
「ハーブ屋ぁ~。俺も、そろそろ走れねえー」
大剣の人は、ヒューヒューと喘息を引き起こしていた。
……その大剣、道の端に置いてったらどうだい?
カマセのアイデンティティが喪失しかけたところ。
「もう少しで約束の場所だ! 頑張れ、中年たち。おじさんも腰がキツいっ」
何度も砂利道を走って、階段を上り、坂道を下った結果、おじさんの膝はボロボロだ。
「「「はぁぁぶぅぅうううっっ」」」
脱法ハーブ集団も、そうだそうだと言っている。
冷静に考えると、彼らが一番しんどそう。中毒症状を改善しても、筋肉痛に襲われちゃう。
足が棒になりながら、おじさんたちは先導役として大通りに戻ってきた。
「タクミ様! 急いでくださいませっ」
「エンドー氏、上手く誘導したな! 最後まで駆け抜けろッ」
遠目でも美人たちが所定の位置で待ち、なぜかゴールテープまで用意している。
長い長い地獄の追いかけっこの果て。マラソンのゴールは――木橋。
図らずも、中毒者と初遭遇したスタート地点だった。
「はあはあ……2人とも、お待たせ……準備、どう?」
ゴールテープを切った途端、おじさんたちは崩れ落ちるように倒れ込んでいく。
「むろん、準備は済ませてある」
「あとは、おハーブバスソルトを投入するだけですわ」
膝に手をつき、呼吸を整えていると。
「はぁぁぶぅぅううう!」
「はぁーぶぅぅううっっ」
「ハァァブーゥゥウウッ」
奴さんも団体さんで目と鼻の先だ。
もう少し休ませて。コンビニのワンオペくらい辛い。ぐすん。
「ローレルさん、カミツレさん! 思いっきりやっちゃってよ!」
「かしこまりましてよ」
「御意だ」
作戦の最終確認を行うや、おじさんたちは頷き合った。
脱法ハーブ集団を十分引きつけて――橋に入った!
タイミングを見計らい、デュフフと突っ伏したゼニンドの肩を掴む。
「ひょ? もうゴールしたでござろう?」
「いや、ゴールは木橋だけどちょっと違う。おじさんとお前は――橋の下さ」
ハーブティーで強化した腕力で肥えたオジサンを抱え込んだ、おじさん。
ベタベタした脂汗で、今すぐ手放したい気持ちをグッと我慢する。
「いくぞ、悪徳商人の不法投棄だ!」
「なんですとぉ~っ!? ま、待つのですぞ。エンドー殿、早まってはいけま――」
抵抗極まるゼニンドの制止を振り払って、おじさんは一気に橋から飛び降りた!
「バンジージャンプぅぅううーーっっ! ロープなしぃぃいいいーーっっ!」
「ぜぇぇえええっっひょょおおおーーっっ!?」
重力に従い、加速がてら落下していく。サァーッと血の気が引く感覚が伝わった。
ドボンッ! そんな水没音が響き渡る直前。
「「「ハァァアアアーブゥゥウウウッッ!」」」
脱法ハーブ集団は急には止まれない。
ゼニンドの加齢臭を帳消しにしたハーブの香りに釣られて、彼らもまた橋の柵を乗り越えていった。次々と後続が現れ、玉突き事故よろしく先頭から順番に小川へ落下していく。
ドバン、ドシャン、バッシャーンッ! と盛大に水飛沫を上げた。
「ローレル、遠慮はするなよ。すべからく、投入しろッ」
「おハーブバスソルトで、デトックス作戦ですの!」
カミツレさんとローレルさんが、小川に向かって大量の入浴剤を放り投げた。
見る見るうちに、小川が乳白色に染まっていく。香草由来の独特な匂いに包まれた。
「おい、いくら入浴剤入れてもすぐ流れちまうだろうがあ!」
カマセのツッコミに、おじさんは問題ないと独り言ちた。
作戦開始前に、水門は閉めてもらった。そのための時間稼ぎである。
ゆえに、木橋の下は今、自然の温泉として機能させられるわけだ。
「ハーブバスソルトの効能は、身体から悪いものやら毒素を抜くこと」
周囲を見渡せば、中毒症状を訴えていた村人たちが恍惚の笑みを浮かべていた。
「あぁ~、極楽だぁ~」
「溶けるぅ~、憑き物が落ちるぅ~」
「ワタシ、女性だからぁ~。お肌、ツルツルになっちゃうじゃなぁ~い」
こちらの温泉、老若男女問わず内側から綺麗に美しく潤いを与えます。
「って、どうして俺たち川に浸かってんだ?」
「さあ、直近の記憶がなくて分らないの」
「気分爽快だし、良いんじゃない? なんか、腰痛と肩こりも治ってるし」
ハハハハと笑い合った、村人たち。
細かいことは温泉に流そう。それがリラックスなデトックス。
「脱法ハーブ、破れたりっ」
「やはり、おハーブ……っ! おハーブは全てを解決しますわ!」
桟橋の上、おハーブ大好きお嬢様は大歓喜していた。
ローレルさんが満足したようで、何よりです。
「おじさんが今まで作ったアイテムが役に立って良かったなあ」
今までの総決算。それが無駄じゃないと証明できた。
「おーい、そろそろ出ようぜ? 家に帰らねーと」
「え~、出たくね~。ここから出たら、厳しい現実が待ち受けてるぞい」
「温泉、サイコー。スギトにこんな名物があったなんて、ド田舎も捨てたもんじゃねーよ」
スギト流露天風呂、住民たちに大好評。
唯一の欠点は、一度入浴すると自力で出るのが難しい点であった。
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