第38話 プラン1

「おじさんに良い考えがある。脱法ハーブの被害者をまとめて、取りこぼさずに救済するたった一つの冴えないやり方が」

「流石、我が心の友ですな。小生、それがしを信じておりましたぞ」


 ゼニンドが調子よく頷いた。


「ほむん? エンドー殿、今冴えないと申したで候?」

「言ってないよ。心の友を信じたまえ」


 心の距離が最も離れた存在の下卑たスマイル。通じ合えないものだなあ。


「この作戦を決行するには、ゼニンドの協力が必要不可欠。成功の是非はお前次第……やってくれるか?」

「――笑止。今まさに中毒で苦しむ者たちを解放せんならば、一体どうして躊躇する暇があるでござろう? 可及的速やかに、妙案を与えたまえ!」


 ゼニンドの心意気に、おじさんはある意味胸を打たれた。

 感情を揺さぶられるのも納得だ。それだけの理由がある。


「……金儲けは盲目か。ハーブ管理を怠って、大惨事を引き越したのはお前だからな」

「フヒヒ、サーセン」


 ダメだ、こいつ。全く反省しやがらねえ!

 まあ、悪徳商人が心を入れ替えるなんて初めから露ほど思わず。そのためのプランゆえ。


 閑話休題。

 一応、本人の意思確認を済ませたので作戦を始めよう。

 プラン1、ゼニンドの全身にハーブキャンドルを巻き付ける。

 頭、腕、腰、脚にハーブキャンドルを生やした怪しい中年男性が爆誕する。


「ひょ? これは如何な催しですかな?」


 変質者を無視するや、おじさんは黙々と作業に没頭した。


「エンドー殿?」

「こっち見んな、不審者! 通報すんぞっ」

「小生、理不尽に傷心ですぞ!?」


 おえおえーと嗚咽交じりに泣いた、悪徳商人。絵面が汚いよ。

 おじさんは、職人気質よろしくハーブキャンドルへ火を灯していく。


「ほむん? この麗しくも気高き芳香は……小生の体臭?」

「違う。二度と言うなっ。おじさんは構わないけど、ローレルさんの眼が血走ってるから」


 背後に控えたおハーブ大好きお嬢様、シンプルに綺麗な瞳がキマっている。

 ポニテ美人に介護を任せつつ、おじさんはゼニンドの首根っこを掴んだ。


「まず、あんたにやってもらうことを手短に。スギトの村全域を周回して来い」

「散歩の趣味はありませぬ」

「いや、もちろん全力ダッシュだよ? ゼニンドが、ハーブの匂いで中毒者を先導するんだ」

「ほむほむ。小生の魅力で一網打尽とは、罪作りな作戦なりや」


 悪徳商人が、うっとりとほほ笑んでいた。おえー。控えめに言って、気持ち悪い。


「お前は、余罪だらけだろ。これ以上、罪を重ねるな」

「でゅふ、一本取られましたぞ」


 戯言はもはやここまで。

 校門を開け放ち、おじさんはゼニンドを戦場へ放り投げた。


「はぁぁああぶぅぅううう」

「ハァァアアブゥゥウウウ」

「ハァアーブゥウウッ!」


 ハーブキャンドルの香りに反応して、村人たちが憐れな獲物に狙いを定めた。


「ひょょおおおおーーっっ!? お助け仕って候~っ!」


 脱兎のごとく逃げ出した、悪徳商人。

 瞬くうちに、ゼニンドの背中が小さくなった。


「あいつ、あのわがままボディでほんと逃げ足だけは超スピードだな」


 おじさんは、やれやれと呆れるばかり。

 さて、彼が身体を張って時間稼ぎをしてくれたのだ。

 こちらも、たった一つの冴えないやり方の仕上げとしゃれ込もう。

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