第6話 クビ
おハーブ大好きお嬢様の襲来から、翌日。
何が起きてもなくならないのが、コンビニバイト。爆ぜろッ。
自称、カゾの村屈指の品揃えを誇る雑貨屋・カゾマート。
おじさんの仕事は、朝の清掃から始まる。
品出し、POP作成、帳簿チェック、シフト管理、OJT。
気付けば、ワンオペばっちりバイトリーダー。
時給は上がらず、出勤時間ばかり延びていく。
機械のごとく、同じ動作を繰り返す。社会の歯車はファンタジーでも回り続ける。
ふざけろッ。こんなブラック、もう辞めてやる!
メロスが落ち着けよと窘めるくらい、おじさんは激怒した。
「エンドー、ちょっと来てくれ」
今日は珍しく休憩時間があり、バックヤードで呆けていた。
年齢より一回り老け込んだ店長に呼び出され、おじさんは後をついていく。
「店内じゃダメな話ですか?」
「まあな」
腕を組んだ店長が大きく息を吐いた。
目をつぶって、数秒間待たされて。
「単刀直入に言おう。エンドー、明日からお前の仕事はない」
「――え」
お暇を頂きました。
「クビですか? いや、確かに労働なんて不満しかないですけど! 何が原因ですか? これ以上、身を粉にするのは流石にうんざりですけど!」
「正直だな。本音がダダ洩れじゃないか」
やれやれと首を振った、店長。
「働きぶりに文句はない。経験者の手際だ。正直、お前が店長やれよと何度も思った」
「じゃあ、なぜ?」
「それは、俺の口からはなんとも」
店長が苦笑するや、言い淀んだ。
おじさんが無言の圧を放ち、くたびれた中年を追い詰める。
「事業拡大の資金援助」
「はい?」
「とある権力者から融資の話を提案されてな。突然舞い込んだ破格の条件に、オーナーが小躍りする始末だ」
つまり、どういうことだ? 簡潔に、教えて。
「従業員のエンドーをリストラしたら、100万イェンの返済不要金だそうだ」
「なに、ゆえ?」
意味が分からず、意味が分からなかった。
「サイタマの大地主に名前を通してくれるそうだ。汚い大人の話さ」
店長にそっと肩を叩かれる。
「俺も所詮、雇われの身。ガキが2人いるんだ。恨まないでくれよ」
「上司の発言は絶対。店長、心も社畜に染まったか。残念です」
「……これは退職金だ。受け取ってくれ」
「手切れ金の間違いでは? 本来、バイト風情に退職金はないですよね」
店長が強引に、封筒をおじさんに握らせた。
「これも条件の1つだ。じゃあな。おまえとの仕事、楽しかったぜ」
「おじさんは、仕事を楽しいと感じたことはないよ」
「ふっ、違いねえ」
そう言って、店長は疲れた表情のままカゾマートへ飲み込まれていった。
取り残されたおじさん。空を見上げ、独り言ちる。
「とりあえず、サビ残分の給料払えって訴えないと」
労働基準法? 何それ、美味しいの? どこの世界もブラック労働が蔓延していました。
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