第2話 冒険者デビュー、失敗
《1章》
――異世界転生しても、コンビニで働いてるのだが。
おじさんの名は、遠藤匠。
コンビニバイトの帰り道、トラックにはねられて死亡。かと思えば、謎空間で女神の面接を受け、異世界行きの流れになった。
つまりまあ、異世界転生の導入部だ。いつものやつゆえ、割愛しよう。
ここは日本に酷似した異世界、ムサシの国。
レベルやスキルの概念がある、RPG系ファンタジー。和風テイスト多めで、カルチャーショックを受けずに済んだ。
テンプレに従って、おじさんは冒険者になろうと思った。
正直、この手の類の小説は好きである。暇潰しに結構読んでおり、あれこれ妄想もした。
酒場兼ギルドへ赴き、暗黙の儀式を行うシーンだ。
「では、確認いたしますね……っ、こ、これは!」
受付嬢が登録を済ませ、その秘められしステータスやスキルに驚愕する場面だろう。
おじさんが期待を膨らませて、内心そわそわしていると。
「<栽培>スキルに<薬草強化>スキルッ! はては、<家庭菜園>スキルまで!? ……あ、あのぉ~言いずらいのですが、ステータスも平凡です。農家に転職をオススメしますが?」
SE、パリーンッ!
ガラスの心が砕けていく。
「あはははははははっ!」
「ぎゃははははははっ!」
「がはははははははっ!」
昼間から酒をひっかけた荒くれどもが大笑い。
「おいおい、にーちゃんよお! とんだ一発芸みせてくれたなあ! やるじゃねえーかっ」
「農協は、三軒隣の建物だぞぉ~」
「ギルドに草生やすなっての! 草ぁああああアアアーーっっ」
おじさんは居たたまれなくなったが、愛想笑いで誤魔化した。
「あはは、どうも~。就職前の記念登録です」
何が記念登録だ。ちょっとでも期待していた自分が愚かしい。
異世界転生した程度では、人は変われない。
厳然たる事実を突き付けられた、おじさん。
「す、すごいっ! <聖剣>スキルに<神聖術>!? <古代魔法>に<未来観測>スキルまで!? あ、あなたたちは一体何者なんですかぁ~っ!」
偶然たまたま、異世界転生の面接会場が一緒だった男子大学生と女子校生。先ほどまで、協力して異世界生活を乗り越えようと誓ったばかりの同期組。
「私たち、ごくごく普通な一般人ですよ?」
「俺たち、何かやっちゃいました?」
2人は顔を合わせて、きょとんと首を傾げた。
「うぉぉおおおい、超新星のルーキー誕生だぜッ!」
「これでムサシの国は安泰だぁぁあああ! ヒューヒュー、飲め、飲めい!」
「冒険者ギルド職員一行は、あなたさま方を歓迎したします! 今後ますますの発展とご活躍を期待すべく――」
当然、おじさんはあなたさま方に含まれていなかった。
これ以上聞くに堪えず、逃げるようにギルドを後にするのであった。
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