おハーブおじさん 栽培チートでおハーブ大好きお嬢様を助けたら、真の仲間と認められました。合法おハーブで彩る異世界村おこし
金魚鉢
第1話 プロローグ
おハーブコメディです。
よろしくお願いします!
《プロローグ》
「はぁはぁ……おハーブ、もっとキメてぇですわ……」
銀髪が美しい深窓の令嬢は、ふぅとため息をこぼした。
おんぼろな小屋、おんぼろな卓に納まっているが違和感甚だしい。
ティーカップの縁を細い指先でなぞりながら、お嬢様は訴えかけるような憂いの眼差しをおじさんに向けていた。
「ローレルさん、3時のティータイムは終わったぞ」
「えぇ、存じております。カモミールの甘い匂いが鼻孔をくすぐりましたの。わたくしを唸らせるお手前でしてよ」
「どうも。じゃ、午後の仕事に戻るか」
おじさんは、ローレルさんの及第点に胸を撫で下ろした。
この子、ハーブティーガチ勢だからなあ。
ちょっとでも手を抜くと、烈火の怒りが降り注ぐ。
テーブルに広がったお茶会を片付けようとしたタイミング。
「おかわり、いただいても?」
力強く、手を掴まれた。とてもお嬢様のパワーにあらず。
美少女との触れ合いに妙な緊張感が走った。
「おじさん。心拍数の乱れじゃなくて、胸の高鳴りがほしかった」
「タクミ様、この際申し上げておきましょう」
「はい」
ローレルさんの鋭い眼光に、背筋がピンと伸びたおじさん。
一瞬を経て、ローレルさんがモジモジと恥ずかしそうな仕草で。
「わたくし、タクミ様のおハーブがないと、満足できない身体になってしまいましたの……」
「え、何だって?」
聞こえたけど、聞こえなかった。
「わたくし、タクミ様のおハーブがないと、満足できない身体になってしまいましたの……」
永久ループに無条件降伏。聞き間違いだと信じたい。
もはや、諦観の境地に至ったおじさん。
「これが、おハーブ大好きお嬢様、か。慣れたつもりが侮ってたよ」
おじさんは、やれやれと肩をすくめてしまう。
ローレルさんとおハーブ契約した以上、付き合う他ない。
おじさんは重い腰を上げ、キッチン的なスペースへ移った。
ティーポットに新たなお湯を入れ、容器に入ったハーブを品定め。多めに作ったティーバッグとドライハーブの在庫処分を企てれば。
「ここはフレッシュおハーブで。ローリエとタイムのブレンドを所望しますわ」
隣に並んだローレルさんがドヤ顔で先手を打った。
「御意」
おじさんが育てたローリエとタイムをポットへ入れていく。
あとは、3分ほど蒸らせばよいのだが……
「は、はやくっ。タクミ様のおハーブティーをくださいましっ」
ローレルさんが息荒く、苦悶の表情で震えていた。
「ちょっ、やばい薬じゃないから! 合法だよ、合法っ」
「当然でしょう! わたくし、合法おハーブに目がありませんの!」
ローレルさんの禁断症状を宥めつつ、おじさんはどうしてこうなったと嘆くばかり。
清涼感の強い爽やかな香り漂わせ、ようやく動き出した異世界転生のきっかけを思い出すのであった。
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