海賊

 岬を離れるバス 震える旧いタイヤが

真面目に読んでいた物語を揺らす

すれ違う風の声 夏の始まりを噂して

今日も輝いた水面みなもを撫でる


南の島とまではいかないけど無垢な儘

輝いて消えて 儚い夏が

あの場所でずっと笑っている 

今すぐに


解いたままの もやい綱に指を絡ませて踊りたい

幼い記憶 隣に居た誰か

タコツボの磯臭さに触れてたいよ

もう戻らない場所 木漏れ日の揺れる鞄を撫でて

蜘蛛の巣の影をトレースしながら

どろどろに溶かされていく心


振り向く船着き場は反対側の港で

見慣れた落ち着いた水面はなくて

いたずらに取り巻いた 生ぬるい風の歌を

今日だけは噛み締めて 飲み込んだ


小さな地球のような この場所を離れて

ロケットよりダサくて古ぼけた

車駕しゃがに揺られて 見つめている

今すぐに


祠の上 鎮守の森を駆け回ってあの場所に行きたい

幼い記憶 手を引いてた誰か

落ち葉の冷たさに触れていたいよ

もう戻らない場所 鮮やかな海の水を撫でて

しょっぱいしぶきを顔に受けながら

冷やされてく 前を向く心


あああ

夕焼けと近付いていく街

あうあ

もう夜なのかな 海の向こうでは


解いたきりの問題集に挟んだメモ帳の裏の赤い字

ちっぽけなあの古びた居間のなか 畳の匂いが抜けていく夜


【こちらは不定期投稿です!】

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