桜に騙されてきた二十年

水花火

第1話

かさっと鳴った

あの日だ。

あの木漏れ日の中、高い木から飛び降りた

今よりもっと自由だった。

今よりもっと楽しかった。

忘れていたのは、何もわかっていないということ。

やり直そう。

大人のふりをするのをやめよう。

ずっとかさっと慣らしていこう。

春風に舞う桜に騙されてきたわたし。

桜のように生きてくれと名付けられた重荷。

桜に騙されたバカな親の身勝手に、私は二十年も苦しめられてきた。

だったら松と名付けてくれたら良かったのだ。

刺々しく空に歯向かう自分が好きだ。

そのことに気付いたのだ。

桜のような女ではなく、松のような男の心をもった女だと。

春は私の二十年を飼い殺しにしてきた。

相川桜は、桜の木に斬り込みをいれている。

「散れ、桜」

でも、ほんとに散ってほしいのは、女で生きてきた過去と、男で生きたいと願う未来。

相川桜は力なくひざまづいた。










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桜に騙されてきた二十年 水花火 @megitune3

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