結婚指輪~情報のやりとり、そして──~
「ではな、美咲」
「はい、龍牙様」
龍牙は美咲の癒し部屋を出ると黒炎が立っていた。
龍牙はにやりと笑った。
「聞いていたのか?」
「やっぱり分かってて仰ったのですね……‼」
「当然」
龍牙は意地悪げに笑った。
黒炎はぐむむと眉をつり上げたが、ふぅと息を吐いて額に手を当てた。
「アレ、私に対して危機感を強めさせる目的だったのでしょう?」
「何だ分かってるではないか」
「WGの四天王も焦がれていた女性を私は妻にした。それでも狙う輩は大勢居る」
「相変わらずかじりたがるヴィラン癖の抜けん連中がここにはうじゃうじゃいるしな」
「そこは美咲も対処してますし、私も更に圧をかけました」
「左手の薬指の指輪か? ただのゴールドで面白みが無いぞ、ダイヤモンドはつけなかったのか?」
「それは今度彼女と言ったときにきちんと作ります、今は仮です」
「仮だと安心できんぞ?」
「ぐ……」
意地悪げに言う龍牙に、黒炎は思考を巡らせて──
「明日、美咲と私に休暇を。指輪を作って参ります」
「良かろう」
満足げに龍牙は笑った。
それを見た黒炎は疲れたようにため息をついた。
翌日──
「久々の町! 黒炎さん、何するの?」
「指輪を作りに行こう、ちゃんとしたのを」
「今のでも十分なのに……」
「仮だからな、おそろいのダイヤモンドを入れたものを作りたい」
「あ、あの……」
「どうした?」
恐る恐る何かを言おうとしている美咲の言葉を黒炎は促す。
「私銀色が好きで……あと宝石なら青い石が好きでその……」
「ふむ……では
「え⁈」
「せっかくだから君が好きな物にしたい」
「黒炎さん……」
「では行こう」
「はい!」
黒炎が下調べしていたジュエリーショップで結婚指輪を作ることになった。
代金は黒炎が出すというと、割り勘でと美咲がごねたので割り勘で代金を払うことになった。
だた、美咲の手持ちが多くなかったので、後ほど半分を黒炎に渡すということになった。
「はい、黒炎さん。ATMでおろしてきました」
紙袋を美咲は黒炎に渡した。
黒炎は中身をちらっと見て多く入ってないのを確認すると鞄に入れた。
「ちょうど昼も近いし、どこかで食事でもしよう」
「はい」
と黒炎と手を繋いだ直後──
「「「美咲‼」」」
声が聞こえた。
振り返れば──
「鵤、糸刃、音刃、毒刃も‼」
美咲が声を上げる。
「おい、どうした町に来て」
「うん、黒炎さんとの結婚指輪を作りに来たの」
「けっ……」
「「「結婚指輪~~~~~~ッ⁈」」」
「三人とも五月蠅い‼」
絶望の色に染まった三人に美咲が声を荒げる。
「なるほど、どうりで浮き足立ってる訳だ」
「音刃分かる?」
「ああ、声の振動、息づかい、心臓の音、足の音でな」
「本当地獄耳なんだから」
美咲は呆れた様に言う、でも少し嬉しそうだった。
「お前等飯なんだろ?」
「ああ、そうだが?」
「良い店知ってるから来い、話もしやすいしな」
「黒炎さん、どうしよう?」
美咲は黒炎に尋ねる。
「何処に行くかは見当がついた、いいだろう。行こう美咲」
「はい」
美咲は黒炎の手をしっかりと握った。
案内されたのはWGの経営するホテルのレストランの個室だった。
「ここの防音なら誰にもきかれねぇ、俺は別だがな。料理も美味いぞ」
「わ、本当。美味しい……」
出されたスープの旨さに美咲は声を上げた。
「それで話とは何だ」
「WGの裏切り者も見つかったけどこちらは全員逃げられた」
毒刃が真面目な顔で答えた。
「なるほど」
「そっちはどうだ」
鵤が黒炎に尋ねる。
「ドラゴンファングは全て対処した」
「そうか」
「逃げられた時に『置き土産』を残されなかったか」
「全部調べたけど、無かったそうだ」
「ふむ、今後美咲を外に出すときより注意しないとな」
「そうだな」
「うー……危険物扱いされてる気がする」
「逆だよ、美咲。君は宝、貴重なんだ」
「連中に渡さないように気をつけろよ黒炎」
「分かっている」
美咲は自分の立場が危ういと理解して少しだけ食べ物の味が分からなくなった。
「最初は美味しかったけど、私にとって怖い話ばっかりでご飯喉に通らなくなっちゃった」
美咲はげんなりしたように言う。
「では、戻って私が食事を作ろう」
「本当⁈」
「いつものことだろう、さぁ帰ろう」
「はい!」
町外れの森に待機させていた黒いドラゴンのような生き物に乗ると、黒炎と美咲はドラゴンファングの本拠地へと帰っていった。
「無事に帰ったか」
二人を出迎えたのはボスの龍牙と側近のルローだった。
「はい、無事に帰りました」
「WGの四天王と遭遇しました」
「どうだった?」
「WGの裏切り者は全員逃亡してしまったようです」
「兄者め……」
龍牙は忌々しそうに呟く。
「とにかく、美咲の身辺の安全をここで保証するのが重要でしょう」
「そうだな、美咲の外出は最初から控えて貰ったが今後さらに控えて貰う、すまないな」
「い、いいえ! だって私なんか危険物というか取り扱い注意物みたいなもんなんで! 仕方ないかと」
美咲は慌てて首を振った。
龍牙は苦笑し、美咲の頭に手をのせる。
「本当に、目が離せんな」
「ええ、そうですとも」
「そうでしょうね」
「⁇⁇⁇」
三人に言われて、美咲は頭の中をクエスチョンマークでいっぱいにするのだった。
数週間後──
「美咲」
休憩中に黒炎がやって来た。
「黒炎さん」
仮面をつけている黒炎に美咲は近寄る。
「左手を」
「はい」
左手を差し出すと、黒炎は薬指にしているゴールドの指輪を抜き、白金のリングにサファイアがはめられ、周囲に小さなダイヤモンドがあつらえられた指輪をはめた。
はめると黒炎も左手の薬指をみせる。
同じ指輪だった。
「ふふふ」
「どうした?」
「何でも無いです、ところで黒炎さん」
「何だ?」
「結婚指輪はしましたけど、婚姻届けだしてませんよ私達」
「……しまった!」
重要な事をすっかり黒炎は忘れていたようだった。
「そんな事だと思いました」
ルローが入ってきた。
「二人ともこれにサインを、私が仲介人として届けてきます」
「有り難うございます」
「申し訳ございません……」
二人はサインをする。
ルローも仲介人、代理人の箇所にサインをし、その場を後にした。
「これで本当に夫婦ですね!」
「ああ、そうだな」
「ところで顔を見せてくれないんですか?」
「……見せられない顔になってるから勘弁してくれ」
仮面を押さえる黒炎を見て、美咲はニヤニヤと笑みを浮かべるのだった──
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