仕事再開~驚きの事実~




 美咲が回復したのは、寝込んで二日後だった。

「よーし、張り切って癒やし係再開するぞー‼」

「「「「美咲さん/ちゃーん‼‼」」」」

 どっと部屋にいつもの面々が入ってきた。


「美咲ちゃん寝込んだってきいたから大丈夫⁈ 大丈夫だったら少しかじらせて⁈」

「美咲さん、大丈夫ですか、二度とそうならないように私に首を……」

「美咲、大丈夫か? 大丈夫か確認する為に俺が血を舐めてやろうか?」

「美咲、無事か? 駄目そうなら早めに心臓を──」


「大丈夫ですから、お断りしますー‼」

 美咲は大声で叫ぶ。

 いつも通りの命の危機を感じる職場に戻ったなぁと思った。

「貴様等」

「「「「こ、黒炎様‼‼」」」」

 その場に居た美咲以外の全員が硬直する。

 仮面をつけている彼は美咲に近づいた。

「美咲、左手を出してくれ」

「は、はい」

 左手を出すと薬指に黄金に光る輪──指輪をはめさせた。

「えっとこれって……」

「仮のだ、落ち着いたら二人で指輪を見に行こう」

「……はい」

 美咲は嬉しそうに顔を赤らめた。


「美咲は私の妻だ、先ほどの発言、二度とするな」


「「「「は、はい‼」」」」


 黒炎はそう言って部屋の外へと出て行った。


「うう、これじゃあ今まで通り美咲ちゃんに相手してもらえない」

「そうですねぇ……」

「どうしようかね……」

「どうしたもんか……」


「何を言ってるんです、癒やし係はいつも通り行いますよ」

 美咲は微笑み、正座をして膝をぽんぽんと叩いた。


「「「「美咲さん/ちゃーん‼」」」」


 元ヴィラン、否現在もヴィランから抜けきってない面々は涙を流して喜んでいた。





「ふー一端休憩」

 寝込んでいる間に色々と鬱憤やら何やらため込んでいたドラゴンファング所属の者達がこぞってやって来て、四時間ぶっ通しで対応をし、漸く休憩がとれたのだ。

「次は寝込まないようにしないとなぁ」


──いやいや、寝込まないのは無理でしょアレは‼──


 顔を赤くして、ぶんぶんと頭を振った。


「美咲いるか」

「龍我様‼」

「休憩中すまんが」

「はい、畏まりました!」

 美咲が正座をすると、龍牙は美咲の膝の上に頭をのせた。

「体はもう大丈夫か?」

「はい、大丈夫です!」

「全く、黒炎の奴も大概だな」

 龍牙のその言葉に、美咲の顔が再度真っ赤になる。

「ど、どこでその情報を……」

「龍牙がお前の部屋に行って夜過ごしただけで分かる」

「Oh no……」

 美咲は顔を覆う。

「それにお前の雰囲気も変わった」

「え、変わりましたか?」

「恋に恋をする乙女から、愛を知る女の顔に変わった」

「……すっごい恥ずかしい台詞じゃないですかそれ?」

「それと恋する乙女という奴か? リフレインは言っていたよ『恋する乙女は最強』だとな。たしかに、あの光景を見たらそう思ってしまうな」

 龍牙は喉の奥でくくっと笑った。

「まぁ、アレはリフレインさんに行ってこーいされたんですけどね。戻る気満々でしたし、死ぬ気は無かったですし」

「兄者と和解するなどありえんと思って居たのに、お前はそれを成してしまった」

「兄者?」

「王牙だ、血のつながりはない。リフレインに共に育てられたからな」

「王牙ってWGのトップの方⁈」

「ああ、そうだ」

「なんで喧嘩というかヴィランになってWGと敵対するようになったのですか」

「……リフレインが死んだ際、私は世界を見た。醜かった、だからこんな世界に価値はないと思ったのだ」

「……」

 美咲は黙って聞く。

「だが、兄者はそうではなかった。リフレインが命をかけた世界だから存続させねばならない、そこで私と兄者は道を別つことになった」

「……」

「ざっと三百年前の話だ」

 ぶーっと美咲は吹き出した。

「どうした?」

「りゅ、龍牙様って何者⁈ WGのトップも⁈」

「私達は『落とし子』だ」

「『落とし子』?」

 聞いた事があるようでないような言葉に美咲は首をひねる。

「特殊な細胞を持ち、食らい戦う事で強くなる者達の事だ。化け物じみたことから『落とし子』と呼ばれるようになった。寿命も常人より長い」

「ちょちょっと待ってください、もしかしてここの人達って……」

「ああ、全員落とし子だ。人工的なものもいるがな」

「え」

「特殊な細胞を注入することで『落とし子』へと変化できる。が、細胞に負けて死ぬ事もある」

「うへぇ……」

「ちなみに『鎮めの乙女』も『落とし子』の一種だそうだ」

「え」

「良かったな、これで黒炎を置いて死なずに済むぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください……駄目だ色々ありすぎて頭がごちゃごちゃだ……」

 美咲は頭を抱えた。

「『落とし子』は神の落とし子、悪魔の落とし子、二つの意味がある。私は悪魔の落とし子として、村を追われ、食えるものは何でも食っていたが、それでも足りなくなり倒れたところをリフレインに救われた。彼女は私にとって母親のようなものだ」

「だからリフレインさんが犠牲になったのが許せなかったんですね……」

「ああ、あんな薄汚い連中が生きる為にリフレインが犠牲になったのではない、そう思ったのだ」

 美咲は無言になり、龍牙の長い髪を撫でた。

「だから食らって倒して、今も若いままで強いままでいるんですね」

「ああそうだ」

「……」

「飢えに飢え、食らいに食らい、そして倒して倒して力をつけた、兄者を越えるほど」

「それくらい悲しかったんですね……」

「ああ、ずっと飢えていた、悲しくてな。だが──」


「今はお前がいる」


 龍牙は美咲の頬を撫でた。

「俺の乾きを癒やしてくれるもの──リフレインと同じ『鎮めの乙女』、リフレインとは全く異なるが人に癒やしを与える者」

「……龍牙様の乾きが癒やされたなら私にとって幸いです」

「本当に可愛い娘だ」

 龍牙は美咲の髪を梳いた。

「黒炎が見惚れていなければ俺が貰おうかと思った位だ」

「え゛」

 美咲はぎょっとする。

「本気だ。だが黒炎がずっと前から見惚れていたのだ、俺は見守ろうと思った」

「は、はぁ……」

 困惑の声を上げる美咲に、龍牙はにやりと笑った。

「黒炎に愛想が尽きたらいつでも歓迎するぞ」

「それはないので安心してください」

「それは残念」

 そう言ってから二人は笑い合った。





「りゅ、龍牙様……」

 別室でモニターと音声で監視していた黒炎は頭を抱えた。

 自分達のトップも美咲を自分の物にしようと考えていたことを今知ったのだ。

 頭も痛くなる。

 しかし、美咲は黒炎に心を寄せていて、龍牙のものにはならないとはっきり行ったのだ。

 愛想を尽かさないと言って居た事に心底安堵した。

 だが──


──愛想を尽かされないように、私の方こそ何とかしなければ──


 黒炎は自分に強く誓った。

 決して他者の者にはさせないと。

 美咲を守り、愛し通すと──






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