翌日、王から修道院長へ――《Suggerius abbas》


 シュジェールよ、その勇ましい鬨の声を聞くのはひさしぶりだ。真似事であれ、そなたの秘蹟のひとつに立ち会わせてくれたことを感謝する。

 さて、余はひとつ、そなたに我儘を申し付ける。長らくこれを言いたくていたのだ。

 そなたにはあの旧い修道院を修復、または改築する心積もりがある。そなたが真実その身も心もあの修道院に捧げられたものならば、その名も姿もそこに記せばよい。

 《大修道院長スゲリウスSuggerius abbas》と麗々しく銘を入れるのだ。

 否やは言わせぬ。

 いや、そなたのことだ、そう考えていたとこたえるやもしれぬな。

 それから、余が父王について悪く言わなかったのは、そなたが余を騎士の中の騎士と讃えたせいだ。我が父王は淫欲に溺れて破門され失意のうちに亡くなったとみなが口を揃えて陰口をいうなか、息子である余まで同じことをして何とする。

 それに、そなたも誰かを徒(いたずら)に責めたりはしなかった。弱いものを弱いがゆえに貶めなかった。そなたはその小さな身体に似ず、その心はいつ如何なるときも鷹揚で、勇敢であった。その当時、余は我が手を振り切って背を向けたそなたを理解しなかったが、結果的にそなたはじぶんで問題を解決してみせた。自らを弱いままにせず、驕ることもなく、その不可思議な運命を、暗い闇でなく高きところからくる光のほうへと振り向けたのだ。

 シュジェールよ、我々はこのフランス王国の礎となるべく生まれたのだから、未来永劫、その守護者たる聖ドニと共にあるべきだ。我が友よ、そうは思わないか?

 

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