「何故か、駄目になる」
山崎 藤吾
全3話
第1話
93、83、76、62……。
最近、どんどん点数が下がってる……
おかしい、確かに勉強はしてるのに、何故が
バカになっている。
どうしてなのかは、分からない
勉強の仕方が悪いのか、はたまた記憶力が低下したのか……ほんと、何なのだろう。
「ねぇ……」
「ん、どうした?」
「私の事、すき……?」
「……うん」
「ほんと……?」
「……ほんと、サクラが好きだよ」
「こっち見て言ってよ……」
「……ごめん」
彼は、私の顔を見て、そっと優しく頭を撫でた。
髪の中を通る指差は、串よりも不規則で柔らかく、丁寧な手付きからは、彼の優しい性格が読み取れる。
ほんと、この人が好き……。
ずっと見てても飽きないし、いつでも優しくしてくれる。たまにそっけないけど、
そこがまた、いい。
「ねぇ……マサト」
「なに?」
私はゆっくりと目を瞑り、彼を誘う。
「……」
「………」
何も見えないいが、ふと優しく触れ合う、感触は分かった。
トロトロとして、ゾワゾワとなぞる、
だか気持ち悪さはなく、
何処かとても切なくなった……。
階段から廊下に響く、艷やかな音、
コレが誰にも聞こえてない事を願いながら、
私は、彼をしきりに誘った。
手は腕に、足は足首との間に、軽く当たるくらいに、触れ合わせながら、彼との時間を
楽しんだ。
すると、彼は私の肩を押さえて、口を離す。
「……」
「どうかした……?」
「いや、ちょっと疲れたから……」
耳まで真っ赤になって、本当に可愛い……。
「そっか、なら少し休も」
「……あのさ」
「なに?」
「……明日」
「うん」と、私が頷いたとき、彼が私の
耳元まで近寄り囁いた。
「……うち、来てよ」
「……」
正直、その後の事はうろ覚えで、
家に帰った今も、なんだかふわふわしてる。
けれど、確かに私は彼に『……分かりました』と
言った。
少々の間はあったものの、ほぼ即答だった。
まさか自分がこんなにも、貞操観念が緩いなんて……少しガッカリした。
けど、そんなのどうでもいいくらい、
今の私は、興奮している……。
ベットの上に寝転びながら、
明日に備え、私はできる限りの事をしつつ、
彼との時間を、ただ、待ち望んでいた……。
第2話
次の日が来てしまった。
いつもよりも長めに髪を整え、
下着も、安いものよりも高いものに、
そして、校則では駄目だけど、
色付きリップをカバンに入れて私は
学校へと向かった。
そして長い長い時間がやっと過ぎ、
放課後になった。
トイレに行ってリップを塗り、
少しだけメイクもした。
帰り際に先生にあったら、もしかしたら
怒られるかも……でも、もうそんなこと
気にしたくても出来ない……。
ゾワゾワとする興奮を制して、私は
下駄箱にいる、彼の元に向かう。
「……」と、手を振り、それに彼も返してくれる。
「遅かったね」
「うん……ちょっと」
「……メイク綺麗だね」
「ッ……」と思わず変な声が漏れる。
「じゃあ……行こっか」
彼は私の手を優しく取り、軽く握って
家に向かった。
家につくと、彼はそのまま私を自分の部屋に連れて行ってくれて、
暗い廊下と階段がより、雰囲気を掻き立てた。
「……部屋綺麗だね」
周りを見渡してみると、高校生男子とは思えないくらい、さっぱりとした部屋で
家具の色も統一されてて
なにか趣味めいたものは殆どなかった。
「そう、普通じゃない?」
「……」
「なに……緊張してる?」
「うん……かなり」
「大丈夫……直ぐにはしないから」
優しく頭を撫でられ、私はそれで満足してしまう。二人だけの誰も邪魔しない空間、
もう、世界に私達二人だけの様な
安心感と心地よさが一生続いてほしいと思った。
「……ねぇ」
「ん、なに?」
私は学生服をハンガーにかけていた彼の
背中に無造作にゆっくりと飛びついた。
「……このまま」
「……わかった」
匂いがした、彼の匂いが、優しくて甘くて
少しだけ汗の匂いもする。けれどそれが
とても心地よくて、嫌じゃない。
体育館の汗の匂いは気持ち悪いのに
彼のだけは全くの別物みたい……。
私は、彼をそのまま、ゆっくりと振り向かせて
顔に手を添えて、距離がなくなるまで
近寄り、優しく触れ合うのを味わった。
彼も私の腰に手を回し、いつもよりも
力強く抱きしめられた。
少しだけ痛かった、でも嬉しかった。
初めて位に彼が、私に大きな感情をぶつけてくれたから……クールな彼も好きだけど、
そこからたまに覗かせる荒々しさも
同じくらい大好きで私はその瞬間
理性が完全に崩壊した。
もうどうにでもなればいい、そんな感情だけが鮮明に頭に残ってて、気づいた時には
服も身体も心も、全部めちゃめちゃになっていた……。
頭に響く彼の声、私の名前を何度も呼んでた。
反復するように何度も何度も、
こんなにも名前を呼んでもらえたのは
初めてかもしれない……ふと、横にいる
彼を見ると、彼も私を見た。
「大丈夫……?」
「うん」
彼は私を気遣いながら、優しく
寝たまま抱きしめる……。
背中を擦る彼の手はとても冷たく、
それが火照った私の体にはとてもよく馴染んだ。
最終話
あれから暫くがた経った。
彼と結ばれたあの日から私の世界は、
澄み切ったように、爽快で、
何をしてるよりも彼といる時が嬉しく、
嫌な事も忘れられた。
手を繋いだり、ハグしたり、
危ない事なんかもして、今までのつまらない
人生とは逆転したように感じる。
彼を見るといつも思う──。
「……私、マサトになりたい」
「え?なに、急に……」
「別に、なんでもないよ」
彼の腕を抱きしめながら、彼の肩に頭を載せる。
「そう……」
「……あのさ、今日は放課後どうするの……?」
「……ウチ、きたい?」
「……」と無言で、頷く。
「わかった、じゃあウチで」
彼の問いかけに、腕をギュッとして、
意思表示をする。
彼の細くしなやかな、指を見ながら私は、
放課後を待ち遠しく思った。
そして放課後、私は先生に頼まれ、
急遽クラスの仕事をする事になった。
彼には連絡をして、先に家に帰って貰うことにした。
正直、すごく嫌だったけど、これを断ると
後々先生との信頼関係に隙間ができるのが
して、仕方なく受け入れた。
でも、放課後にこんな掲示の仕事なんて、
確かに今日の日直は私しかいない、
もう一人の男子は今日休みで、
クラスの子が言うにはゲーセンで遊んでるところを見たと言っていた。
要はズル休みなのだ。
「先生、これはここでいいんですか……?」
「そうね」
淡々と続く作業に、私は不満を覚えつつも、
しっかりと最後までやり通した。
「それじゃ、サクラさん、気おつけて帰ってね」
「はい、お疲れ様でした」
そう言って、手を降る先生を横目に、
割と早めに終わる事ができたので、
彼の家へと向かう事にした。
彼の家は、学校のすぐ近くにあって、
裏門から出て、角を曲がり、
少し歩けば見えてくる。
一軒家で、かなり綺麗なお家で、
お父さんは、弁護士をやっているらしく、
かなりお金持ちらしい……私とのデートでも
いつも彼がお金を出してくれる。
そんな、太っ腹な彼が、私は好きだ。
家につくと
「ピンポン〜」と呼び鈴を馴らした。
けれど、彼は出てこなかった。
もう一度押した、だか返事すらない。
なぜだろう……もしかしたら、
私がデートをキャンセルしたから、
どこかに遊びに行ってるのかな?と、
私は彼にすぐに電話をした。
すると、ドアの向こうから小さくではあるが、
着信音が聞こえた。
「?」
私はもう一度呼び鈴を鳴らす、すると、
ドアがガチャっと音を立て、ゆっくりと開いた。
「……ごめん、ちょっと出られなくて」
するとそこには、首にアザのある彼がいた。
「……」
「ん、どうかした……?」
「それ……なに?」
私は、彼の首を指差した。
すると、彼は携帯の画面で首元を見ると、
明らかに動揺した様子で、ドアを閉めようとした。
「ちょっとッ……!!」と、空かさず扉に
足を入れ、
私は彼を家の中に押すと、私も入った。
そして鍵を占め、彼を問いただした。
「……なにしてたの」
「……」
「ねぇ、なにしてたの……?」
「……」
「だから、なにしてたの……」
横にある傘立てから、傘を取り、先端を彼の顔に向けて、もう一度聞いた。
「……誰といたの?」
「……」
沈黙を続ける彼に、私は無言で、傘を振り下ろした。
「あ゛っ……!」
傘は彼の手に当たり、彼は悶えた。
私は彼の前にしゃがんで近寄ると、目を見ながら聞いた。
「あの……さ、もう怒ってるからハッキリと言ってよ……」
「……なんでだよ」
「ん?」
「なんで、来たんだよ……」
なぜか逆ギレした口調で話しだしたので、私は彼に舌打ちをした。
「『なんで』じゃないでしょ……言わせないでよ、そんなの当たり前じゃん……わたし彼女なんだからさ」
そう言うと、彼は私を馬鹿を見るような
顔で言ってくる。
「何言ってんの……?彼女じゃないだろ……
オレ、一度も付き合おうなんて、言ってないいし」
「えっ……」
何を言ってるのか、理解するのに数秒かかった。
言ってる意味がまるで、掴めず、私は酷く動揺した。
「いや……俺別にそんなこと言ってないし、そもそも付き合う気、なかったし……」
愕然とした、あんだけしといて、私が彼女じゃないたんて……。
「……それ、嘘だよね」
「……」
また、黙ったまま何も言わなくなった。
なので私は、落ちた傘を手に取り、それを、傘立てに直した。
立ち尽くすまま、私はもう何も言えなくなり、
廊下の後ろからずっとコチラを見ていた、女を睨みつけ、そのまま、何も言わずに家を出た。
そしたらちょうど、黒塗りの高級車が
マサトの家の駐車場に入ってきたので、
私はその人に言おうと思った……。
「こんにちは……君は、マサトのお友達かな?」
私はお父さんらしき人にそう聞かれたので、
そのままを言った。
「さっきまでは……ちなみに何ですけど、
マサトさん、さっき家の中で女の子と二人で変なことしてましたよ」
「はっ……?」
なんとも、間の抜けた返事をしたお父さんは、
はや歩きで私をチラッと見つつ家に入った。
するとドアの隙間から、
倒れ込んだままの彼と、お父さんが
鉢合わせてるのが見えた。
そして、お父さんは廊下の方を見ると、
まだその場にいたであろう、女子を見て、「お前ら、なにしてたんだ!」と
怒鳴りながらドアを締めた。
私はその光景を見ながら、今までにないくらいに、お腹が捩れるほど笑った。
住宅街なので声には出さなかったが、
それはとても堪えることはできないくらい面白く、最高に、スッキリした気分に包まれた。
彼の『あっ……!』とした、間抜けな顔は、何度思い返しても笑える。
きっと今頃、最高の修羅場になって、
地獄の様な空気になっている事を
想像しただけでなんだか
ゾクゾクが止まらなかった。
なんて最低で最高な1日なんだと、
こんなにおかしいのは生まれて初めてかもしれないと、泣きながら、笑い、そのまま私は
家へと帰宅した。
それから何週間か過ぎたある日のことだった。
学校内にある噂が広まった。
それは、一年の女子生徒が妊娠したらしいという、噂だった。
なんでも、年上の男子との子供らしく、
ラインのやり取りやそのスクショが学校の掲示板やツイッターアカウントにリツイートされて、発覚したらしい。
今の時代簡単に情報が拡散するから、怖い。
これが自分だったらと思うと、かなり
怖いが、でも、それがあの二人だったので、
死ぬほど嬉しかった。
私を裏切った分、しっかりと地獄に落ちてしまえばいいと、私も別アカウントでその
ツイートをリツイートしたり、
別のサイトにも貼ったりして拡散した。
もう二度とこの二人が離れられないように、
私からのせめてもの計らいだ。
おそらく、二人は喜ばないだろうけど、
大丈夫……私は、それで満足だから、
なんの問題もなかった。
「いつまでも、末永く、お幸せに……」
そう呟きながら、私は彼にその言葉丸々送信してブロックしたのち、彼のアカウントを綺麗さっぱり削除した。
「はい、それではね、この前の期末テストを返却します」
黒板の前には伊達先生がたっており、
テスト用紙をトントンとしながら、先生が、1枚ずつ、テストを生徒に返却しだす。
「眞島……サクラさん」
私の名前が呼ばれた。
席を立ち、教卓の前まで行くとテスト用紙を貰った。
「おめでとう、サクラさん、点数、前よりも上がってましたよ」
「ありがとうございます」
貰った用紙を見ると、点数の欄に、
〈98点〉と書かれてる。
「なにか、勉強法を変えたんですか?」
伊達先生の問に私は、満面の笑みで答えさせて貰った。
「いえ、少しだけ環境を変えたんです」
─終わり─
「何故か、駄目になる」 山崎 藤吾 @Marble2002
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