「真夏日に、呟く」

山崎 藤吾

全4話

  第一話



 あの日はとても暑かった。

蒸し暑く、ベタベタするそんな日に

僕は理科室で放課後に6限目で使った道具たちを片付けていた。


ガチャカチャと鳴る、ビーカーとフラスコ、

重く冷たいガスバーナー。

それらを棚に直そうと、裏にある

倉庫に入ろうとした時、理科室の扉が

ガラッと音を立てる。

ふと見ると、そこには

新任の宮本先生がいた。


「こんにちは」


小さくお辞儀をして、ニコッとこちらを見る宮本先生。


「あっ、先生……どうかしましたか?」


「いえ、たまたま通りかかったら、理科室から物音がしたので覗きました」


「そうですか……ちょっと待ってて下さいね」


私は手に持っていた、道具を直しに行こうとする、すると宮本先生は教室に入り机に置いてある、ろ過シートと三脚台を持った。


「私も手伝います!」


「そうですか?それならお願いします」


それから私達は道具の整理と明日の道具の準備を済ませた。


「……じゃあ後は、大丈夫ですね」


僕はそう言うと、腰に手を起き一息ついた。


「結構重たかったですね、伊達先生はいつもこんなに準備なされてるんですね」


「まぁ、これくらい何処の学校もやってる事ですから、特別に凄いことではないですよ」


「いや、でも生徒の為にちゃんとしてくれるんですもんね」


「……そうですかね、でも仕事なんで、これくらいは……ね」


辺りを見回し、しばしの沈黙が流れた。

何てない会話を切るとこうも気まずい、

そもそも宮本先生とは殆ど話した事がなく、

挨拶程度の会話しかしてない。

なので、少しばかり緊張してしまう。

そして、自分で作った沈黙を手を叩き止めた。


「……それじゃ、職員室に戻りますか」


「はい、そうですね」


僕達は理科室から出て、鍵をかけると

暗くなった廊下を二人で歩く。


「先生は……今お付き合いとかなされてますか?」


「……なんでそんな事聞くんですか?」


「いえ……ただ何となく」


さっきよりもより冷たい沈黙が走る。

手にしている鍵もより冷たく感じた。


「そうですか……」


「……」


「いませんよ……彼女なんて」


すると、宮本先生は立ち止まり俯いた顔を僕に向け、暗闇で確かに紅く火照った肌がかすかに見える。


「……そう、ですか」


宮本先生は、6コ年下で小学生で言うと

圧倒的に年下の年齢なので、今まで、失礼だが、色気なんて全く感じたことは無かった。

けれど、今は夏の暑さからかなんなのか、

みょうな色気を放っている。

首筋から垂れる汗、紅く火照った肌、

顔に張り付く、濡れた髪の毛、それらが

なんとも色っぽく綺麗だと思った。


「ほんと、どうしたんですか……?」


「どうって、別にいいじゃないですか……」


いったいこの人は何がしたいんだ……その疑問が脳裏を埋め尽くしていた。


「あの……もう、行きましょうよ」


「待って……!」と、宮本先生が大きめの声を出し、僕の腕をガッチリと掴んだ。


「えっ……?」


「待って、下さい……先生に言いたい事……あるんです」






   第二話


薄暗い廊下の真ん中で、

誰もいない校舎内に響き渡る宮本先生の声、

それは、とても真剣で、真鍮察しろと言わんばかりのトーン、握られた腕のシャツにはシワがより、先生の目は潤んでいた。

ドクドクと波打つ鼓動と共に僕は、宮本先生の握ってる手をそっとどかした。


夕暮れ時の薄暗い廊下。

僕は宮本先生の掴んだ手を退かす。


「話って、なんですか……?」


「……私、ここに赴任してからまだ3ヶ月くらいで、その前から研修で来てたのは知ってますよね……」


「はい……」


「で、そのときに伊達先生のこと知って……その、人としてというか同じ職場の先生としてどうしても見れなくて……」


「……それって」


「はい……伊達先生のこと、好きになったんです、一目惚れです」


「……なるほど」


また少しだけ沈黙が走り、宮本先生は

僕の事を潤んだ目つきで見てきた。

泣いてるのか、元々そうなのか

薄暗くてよく分からない。

けど、確かに綺麗なのは分かる。


「……」


「宮本先生……僕は教師で、特に人と多く関わる仕事です、もし、今先生と付き合ってしまったら、それがバレたときに生徒からの信頼や見る目が多少なりとも変わると思うんです、なので、謹んでお断りさせて貰います……」


蓋部と頭を下げた、出来るだけ深く。


「そう、ですか……」


表情は見えないが、その声はおよそ

良いものとは思えない。


「本当にすみません……」


「……良いんです」


「えっ……?」


僕は思わず、頭を上げる。すると

彼女はニコッと笑い僕に言う。


「そういう、小心者というか、顔の割に陰キャみたいな性格……ますます伊達先生の事が好きに

なりました……ほんと、最高です」


「はい……?」


宮本先生は、先程の優しい雰囲気とは、

全くの別人のような顔をした。

まるでそこにいた人がいなくなったみたいに、

狂気を帯びた熱い目を僕に向け、

唇をゆっくりと舐め、僕に顔を近づけると、

「もう、私、先生のこと、本気で自分のモノにしますからね……」と、囁いた。


「……どうして──」


すると、突然チャイムが鳴り響く。


「あっ……もう、そろそろ部活終わりの

子たちが、帰ってきますね」


宮本先生はそう言うと、さっきの優しい

大人しめの顔に戻ると、何事もなかったかの

ように、僕に「それじゃ、私先行きますね」とだけ、言い残しその場を立ち去った。


「……なんなんだ」


僕はもしかしたら、とんでもない人に

目をつけられたのかも知れない……と、

足早に歩く彼女の背中を見て思う、

そして、冷たい鍵を握りしめて、

僕もその後を応用に職員室に戻る事にした……。






   第三話


「せんせい……」


そう声をかけられ、振り返ると、

そこには、宮本先生がいた。


「なんですか?」


「これ」と手渡されたのは、

僕が好きなカードゲームのパックだった、

どうやら僕が休み時間に生徒と話してたのを

聞いてたらしくそれで、通販か何かで

買ったらしい……。


「ほんとにいいんですか……?」


「はい、先生の為に買ったので」


「……」


また、あの目だ、本当に顔つきが変わる人だ、

まるで別人を見てるみたい。

他の先生と話すときや生徒に勉強を

教えているときは比較的普通の人のようにも

見えるが、僕と二人きりになると

完全に喋り口調も変わる。

そんな宮本先生にドギマギしつつ僕は

カードを貰い、授業をしに向かった。


放課後、雨が降っていた。

土砂降りではないが、まあまあ降っていた。


「これは、自転車の生徒は可哀想ですね……」


「そうね、でもレインコートもあるし

仕方ないわよ」


そう教頭が言った。


「伊達先生は車なのよね?」


「はい」


「だったら生徒たち送ってあげたら?」


「無理言わないで下さいよ〜」


教頭のいつもの冗談はほんと、いつも和まされる。


「それじゃ先生、私は教育委員会で仕事あるから、今日の所は失礼させてもらうわね」


「はい、了解です」と、僕が軽く会釈すると、

教頭は手を振りながら職員室を後にする。


「さて、やりましょうか……」


机にある、生徒のテスト用紙をパソコンでまとめ、今日休んだ生徒の親御さんに

個別連絡をしたり、次の文化祭の

話し合いをしたりとそんな事をやっていると

あっという間に時間がたち

外は少し暗くなっていて、雨が降っていた。


「さっきよりも強くなってきたな」


「先生は車なんでしょ?私達送ってよ」


「無理言うな、歩きだし、傘さして

返りなさい」


「それじゃ先生私達帰りますね」


「じゃあね、また明日」


「ほら、カオリも行くよ?」


「え〜先生の車乗りたい」


「ほら、早く行きなさい」と残っていた

女子生徒達に手を振り、帰るように促した。

職員室に戻り、僕も帰る支度を始めた。

書類を直し、パソコンの電源を落とすと、

スーツを片手に下げて、バックを持つと

残ってる先生達に挨拶をして職員室を

後にようとした、その時だった。


「うわぁっ」


「あ、すみません」


するとそこには、宮本先生がいた。


「あっ、宮本先生……」


「伊達先生でしたか、ごめんなさい、

前見ずに歩いて」


「別に大丈夫ですけど……」


「もう、お帰りですか?」


「はい、そうですけど」


「じゃあ……」と、僕の耳元に手を添えて、

「私も、送って貰おうかな……」と悪戯な表情を見せる。

僕は、あからさまに動揺し、それを見て

彼女は楽しんでいる様だった。

なんでも、傘もレインコートも、何も

持たずに来てしまったらしく、

本当に困っていたようで、あまり教師として

好ましくはないけれど、仕方なく

宮本先生を車に乗せることにした。


「ありがとうごさいます、伊達先生」


「いえ……これくらいなら」と、喋りながら

エンジンをかけた。

ガリガリと音を立てコンクリートの道を

ゆっくりと進み校舎を出ると、

そのままいつも通りの道を走り出した。


「先生の家は……」


「えっと、ここの辺りです」


宮本先生はナビを使い、住所を入力して

場所を入れてくれた。


「意外と学校から近いんですね」


「そうですね、勤務するときに

近めの場所で探してたので」


「そのほうが良いですよね、僕みたいに

少しだけ遠いと何かと不便ですし」


「伊達先生の家って、何処なんですか?」


「それは……」


僕は言うのを躊躇った、本能的になにか

危険を感じたからだ。


「……どうしました?」


「いえ……」


「で、どこに住んでるんですか?」


「……」


「あの……」


「……そういえばさっきの」


「……話逸らした」と小さな声で呟いた

彼女を、無視して僕は話を勧めた。


「……さっきの、話なんですけど

『私も』ってアレどういうことなんですか?」


「え?」


「その、『私も、送って貰おうかな』って

言ったじゃないですか」


「あ〜アレですか……嫌味ですよ、いやみ」


「嫌味?」


「ムカついたんですよ、あんな若い生徒に

デレデレして、教頭とも仲良く話してて

なのでそういった意味も込めての私も、です」


「なるほど、納得しました」


「納得されると逆に嫌なんですけど」


「……でも、よく見てますよね」


「そうですか?たまたま見ただけなんで

別に見ようとした訳じゃないですけど」


「そうなんですね……」と、言いながらハンドルをきると、ナビがそろそろ着くことを知らせてきた。


「そろそろつくみたいですね……どのへんですか?」


「あっちです、あのアパート」


そう言って宮本先生が指差したのは

外壁が白の普通のアパートだった。


「駐車場入れていいですか?」


「そこの4番がうちのなんでそこにお願いします」


地面に書かれている数字の駐車場に

僕は、車を駐車した。


「はい、着きました」


「ありがとう御座います、先生」


「いえいえ、あっ、よかったらこの傘、そこまでですけど使って下さい」と僕は座席の下に置いてある傘を出して宮本先生に渡した。


「……ありがとうごさいます、ほんと優しいですよね、誰にでも分け隔てなく、平等に……さっきは嫌味なんか言ってすみません、嫉妬してただけなんで、でもああいう誰にでも優しい先生が、私は1番大好きなので、それだけは忘れないで下さいね、それじゃ、またね」


「……」


バンッとドアが閉まり、彼女は傘をさして、

1階の部屋に入っていった……。

急になんなんだろう……?

あんな顔して、さっきまではいつもの

顔なのに、またあの豹変した様な目で……ん?


「さっき『またね』って……」


車の窓からアパートを見て、

さっき言葉を聞き返す。

確かにタメ口で言っていた。

いつもは敬語なのになんで……?

それが凄く引っかかって、エンジンをかけ、

家に帰る道中ずっと、その意味を

考え続けた。

けれど、意味なんて全く分かるはずもなく

今日もまた、僕は彼女に悩まされる。






   第四話


ある日、私が放課後書類を持って階段をゆっくりと上がってると、そこには抱き合って、キスをしているカップルがいました。


「……なにしてるの?」


「……やば」


どうやら、やましい事をしてる自覚は

あるようで、私は教師として二人を

放課後、生徒指導室へと呼んだ。


「で、なんで僕もなんですか?」


「だって、先生にもいてもらわないと」


「でも、僕のクラスの生徒じゃないんてすよね」


「そんなケチな事言わないで下さいよ」


「……でも生徒同士がしてたことなんですのね、多めに見るとかじゃ駄目なんですか?」


「ダメですよ」


「……仕方ないですね、僕個人としては

生徒同士の交友は生徒どうして責任を持つ、これに尽きるんですが……宮本先生がそこまで

おっしゃるのなら、付き合います」


「ありがとうごさいます、先生」


そして私達は二人ががいる、生徒指導室に

入った。


「……ちゃんと来てくれてありがとう」


入るやいなや、男子生徒のマサトくんが、

伊達先生を見て嫌な顔をした。


「……なんで伊達先生までいるんてすか?」


正直伊達は持ちクラスでもないし、

呼ぶ理由はない、けどこの子達の担任

女子の方の担任は飯田先生、男子の方は

吉川先生、飯田先生は今日は休みで、

吉川先生は怒ると中々に面倒くさい、

特に生徒の恋愛には厳しく

私はあそこまで怒りたいわけじゃない、

ただ生徒にちゃんと正しい場所と

倫理観を教えたいだけで、でも一人では

怖いので1番生徒人気のある伊達先生を呼んだ。


「それは今関係ないでしょ?」


「そうだね、宮本先生が言うとおり、

今話すべき論点じゃないよね?」


さすが、伊達先生、空かさず私のフォローをしてくれた。


「あの……本当にごめんなさい、私から

お願いして、してもらってたんですだから

マサト先輩は悪くないんです」


「ミユキちゃん……これは片方が悪いとか

そういう事ではないの」


「じゃあ、何が悪いんですか?生徒同士の事ですよね、なんで先生達が口出すんですか?」


少し怒り気味に言う、マサトくんに

たじろがない様に空かさず言葉を返した。


「それは、君たちが学校でキスしたりするからで、特に君たちは進学とかまだ先があるわけで、ああいう所から最悪の事もあるし

学校でキスなんて非常識なことしちゃ駄目なの」


「そうだよ、宮本先生が言うように

年齢もまだ若いし、気分がのってしまうのは

理解してる、けれど学校でするのは、

確かに非常識と言えるね、だからせめて

プライベートな所で人のいない所とかね……」


「ハァ〜、もうどうしたらいいんですか、

誤ったらいいんですか?」


遂に怒りだすマサトくん、私はその目つきに

少しばかりビクついた。

それを見てたのか伊達先生が言った。


「そうだね、一応、事が事だし、反省文は書かなくていいとは思う、でも、その代わり僕と約束して欲しいんだよ、もう金輪際、

学校内での不順異性交友は避けくれ……」


「……」


「……出来る?」


いつもとは違う伊達先生の声のトーンに

空気が一変する。

こんな怖い伊達先生を見たのは初めてかもしれない。


「……分かりました」


さっきまであんなに怖かったマサトくんが、

一気に借りてきた猫のように静かになった。


「……ごめんなさい」


ミユキちゃんも、謝り反省したようなので、

私は二人をこれで返すことにした。


「……すみません、伊達先生」


「えっ、何がですか?」


「私が、言い出したのに何も出来なくて……」


「あー……良いですよ、別に

こう言うのは先生誰でも一度は

経験しますし、いざ生徒から噛みつかれると

怖くなって負けちゃう先生結構いますんで」


「……ほんと、ありがとうございました」と、私は、伊達先生に頭を下げる。


「……それにしてもあの二人、付き合ってたんですかね?」


「そうじゃないんですか?確かめたりはしませんでしたけど……」


「でも、もし、違ってたなら……大変ですね」


「まさか……流石にそれは」


「わかりませんよ?だってミユキさん『私からお願いして』って言ってましたし

彼氏ならわざわざそんな言い方、

しますかね……」


「……確かに」


「でもまぁ、そういう、関係性

なのかもれませんね」


「……」


「それじゃ僕、これで戻りますね」


「はい……ありがとうございました」


私はそのあと

伊達先生のその一言が凄く頭に残った。

最初から付き合ってると思いこんで、

ちゃんと聞かずに話進めて……まるで

これじゃ、私が先生したかったみたいな、

そんな感じに自分が見えた。

偉そうに一端の言い方して、

伊達先生はきっと、

付き合ってないかもしれないと、

疑っててでも敢えて言わずに、私のペースに

合わせて、サポートしてもらって、

挙句最後は全部してもらった……。

生徒に、本気で向き合おうとしたのに、

なんにも出来ないどころか

当たり前を疑えなかった……。


「私、ダメな教師だな……」


その一言が思わず漏れてしまう。

伊達先生に好きとか言ったり

浮かれて告白してる私のほうが

非常識だ……。

生徒に、ゴチャゴチャ言う前に、

自分の事ちゃんとしないと、

教師同士の恋愛は自由だって校長先生に、

歓迎会の時に言われてたけど、

それに甘えてちゃ駄目だ。

もっとちゃんとしないと……

生徒をちゃんと指導できるようにしないと、

赴任してまだ日が浅いのに告白なんか、

そんな学生気分のままでどうするんだ。

ほんと──。


「ちゃんとしなきゃ……!」





   最終話


 私が伊達先生を好きになった理由それは、

一目惚れなんかじゃありません。

アレはまだ、私が大学生の頃、

サークル友達の飲み会に

参加したときの事です。

そこには5人ほど男性がいて

そこには伊達先生の姿がありました。

あの頃の私は眼鏡に黒髪で

今よりも地味な人間で、

とても飲み会なんて行けるほど

キレイでもなく、そんな場所、別に

行く気にもなれず……けど、

恋愛未経験のまま社会人になるなんて

それはそれで、嫌だったので、

思い切って、羽目を外すつもりで

その場に行きました。

なんでもいい……もう、これでいいと、

少しばかりの自暴自棄もあって

私はお酒を沢山飲みました。

グデグデに酔っ払った私は、何も喋らずに

寝てしまって気づいたときには、

他の女子たちは途中で

いなくなったり、帰ったりで、

私は結局途中リタイアをして帰りました。

足はおぼつかず、前をよく分からずに

フラフラと歩きいていると

何かにつまづいたのか、ゆっくりと倒れこみ

そのみしゃがみ込むと、もうその場から

立てなくなりました……。

結局、何も出来ない絶望感と惨めさで

泣きながら

消えたくなったのを今でもよく覚えてます……。

けど、そんなとき私の肩を誰かが叩いたのです、そう、それが伊達先生でした。


「大丈夫ですか?」


「えっ……」


あまりの突然の事に私の頭は真っ白になりました。まさか、こんな私を誰かが助けてくれるなんて。


「凄い酔っ払ってたので、心配で

追いかけて来ました……」


まるで救世主のような、そんなふうに

先生が写り、そのまま甘えて、

タクシーで、実家まで送ってもらいました。

私はこの時にふと諦めかけてた、

教員になろうと決めました。

なぜなら、最初の自己紹介で伊達先生の職業が教師と聞いて単純に憧れたという

事もそうですし、何よりも

どうせ、恋愛なんて出来ないのなら、

せめて夢くらいは叶えよう、そういう

思いもありつつ、私は教師を志しました。


そして今、赴任した学校で、

先生と奇跡的な再開を果たし、正直、

電気がはしるくらい痺れたのを、今でも

よく覚えてます。

今までやってきた努力が報われたような

そんな心地で、私は伊達先生の事をより

意識するようになりました……。

あの時からずっと、優しくしてもらって

仕事で関わって行くにつれて

より、伊達の優しさや強さに惹かれて

助けてもらった、あの日よりも、もっともっと

好きになり、ついには他の先生に

伊達先生の居場所を聞いて、二人きりなれた

タイミングで告してしまいました。

けれど、今思えばそんなのただの

自己満でした……アレだけ夢見た

教員に慣れたのに、恋愛しようなんて、

あの時伊達先生の言っていた、

生徒の目や信頼という、

言葉の意味をあの時生徒指導で

やっと実感しました。

私はなんて浅はかなのだろうと、

自分が思っていたよりも

馬鹿だったと……なのでその反省も踏まえて

私は伊達先生に

今から伝えようと思います。

自分意思を、


「すみません、こんなところ呼んでしまって」


「屋上なんてよく鍵貸してもらえましたね」


「適当に理由つけたら貸してもらえました……」


「セキュリティー薄いですよねこの学校」


「そうですね……」


「で、話ってなんでしょうか?」


風になびく髪を抑え、私は先生に今の気持ちを告白する。


「わたし、言いましたよね、先生が好きって」


「……はい」


「アレやっぱりナシ、でお願いします……」


「……理由、聞いてもいいですか?」


「理由は色々とありますけど、

先生のこの前の生徒の対応見事でした、

逆上する生徒に臆することなく

対応されたて、私あれみて少し落ち込んだんです……自分の未熟さを痛感したというか

生徒が付き合ってると思いこんで

話してて浅かったなって……それで思ったんです、生徒のこと注意する前に

自分の事ちゃんとしろよって、

新米教師の癖に告白なんてしてんじゃねぇよって……」


「……でも、アレは僕の推論で

事実かどうかなんて分かんないですよ?

それに告白だって僕、嬉しかったですよ、

恋愛には出来ませんけど、好きとか言うのは

自由だと思います!」


本当に伊達先生は、優しい。

そんなふうに言われたら甘えたくなる……。


「……ごめんなさい、ほんと、ナシだとか

ワガママばっかり言って……」


すると、伊達先生が近づき

私の目の前まで来ると、真剣な顔で言いました。


「……たしかにこの前のことは、あり得るかもしれないし、ないとは言い切れません、でも先生は正しい事をしたんです、教師として役割を果たしたと僕は思います、僕個人としては

放任でも良いと言いましたけど、

先生の真面目さに、あのあと考えさせられました、僕だって教師で有る前に人間です、

至らないところもありますし、失敗もします……けれど、それをいちいち落ち込んでちゃ

駄目なんですよ、これはあくまで

ぼくの持論ですけど、人は悩んでも落ち込んでも、救われません、起きた事は起きた事、

かみ砕いで前に進むしかないんです、なので先生も落ち込まずに、あんな……『ナシ』なんて言わないで下さいよ……僕、悲しいです」


「あ、あの……私……」


涙が溢れた。

ポツポツと自然に、止めようとした、

けど出来なかった……。

伊達先生の言葉が優しすぎて暖かすぎて、思う様に言葉が出ない……駄目なのにちゃんとしなくちゃいけないのに、

なんにも分かってなかった私に先生は、

まだ優しく啓してくれる。

本当に、改めてこの人を

好きになれて良かったと痛感した。

この人で良かった、

あの時助けてもらって、単純に好きになって、

再開して、嬉しくて告白したりして、

そんな馬鹿みたいな私に先生はいくつ

優しさをくれるのだろう……。


「……先生、伊達先生」


「……はい」


「私がんばります……教師頑張ります」


「うん」


「ちゃんと教師として一任前になってから

先生にまた告白させて下さい……」


「……うん」


「分かってます……多分無理なだなって事も、

でも今みたいに感情的じゃなくて、ちゃんと

一人でいろいろ出来るようになって、

改めて告白させて下さい……無理でもいいです、

断ってもらっても構いません、

なので、その時まで、お願いします」と、勢いよく頭を下げた。

もう、正直何を言ってるのかもよく分からず、

ただ一心不乱に、今の想いを出来るだけ

伝えようと必死て喋った。

伝わるか分からないけれど、できる事なら

伝えたい。


「……宮本先生、顔を上げてください」


「……はい」


「僕、ずっと待ってますから、宮本先生のこと、何年でも待ちますよ、なのでお仕事頑張って下さい、そしてまた、僕に

言ってください〈告白〉の続きを──」


小さく涙を流す伊達先生を見て私は、

強く心に誓った。

真夏日、暑い日の下で、涼しく風が

吹く中、私はひとつだけ大きな目標が

出来た。それは、教師として

優れた人間になるという事、そしてこの先生の様に生徒に限らず、誰にでも親身に

向き合える強い人間になろうと……

私は深呼吸をして、その思いを

小さく声に出し、そして呟いた……。


 

「はい……!分かりました」




  ─終わり─























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「真夏日に、呟く」 山崎 藤吾 @Marble2002

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