神に見初められし花嫁

咲砂 あねも

序章

 この世界には五行ーすなわち、地・水・空・風・火ーを自在に操ることの出来る能力、異能を持つ人たちがいる。一部の人間のみが産まれながらその内に力を秘め、十歳までにその才能を開花させる。

 地の力を持つ者は、大地を自在に操る。例えば砂利をまるで槍の様に吹き飛ばしたり、己の周囲の地面を隆起させたり。

 水の力を持つ者は、水を自在に操る。例えば何もないところから突如底なしの沼を作ったり、凄まじい雹を降らせたり。

 空の力を持つ者は、天気を自在に操る。例えば、晴れ間に急に雨を降らせたり、吹雪を起こしたり。

 風の力を持つ者は、風を自在に操る。例えば、暴風を巻き起こしたり、竜巻を作ったり。

 火の力を持つ者は、火を自在に操る。例えば、火種の無いところから火を起こしたり、剛鉄をも溶かす炎を繰り出したり。

 いずれの力も、ただ自然の摂理を変えるために存在しているのではない。人々の想像から創り出された妖(あやかし)を退治するための力である。遥か昔から異能を持ち、妖を人知れず退治する任務を任されてきた異能の保持者たち。力の発現には個人差はあれど、異能を持つものたちは皆、何かしらの形で妖と関わってきた。力が強い者は言わずもがな妖を滅し、または滅することを援護する者。妖を滅するほどの力を持たぬ者は、その裏で力の強い家筋を支える役目を背負ったりしている。

 そんな異能の力を持つものたちの中で最強と謳われているのが、天権の力と呼ばれる、地・水・空・風・火の全てを自在に操れる力を持つ者たちである。その力を持つ者は、藤堂の血筋を持つ者達であり、現在は当主の藤堂辰紫(たつし)と次期当主であるその息子の紫清(しき)の二人だけ。ゆえに、異能を持つ家系のものは皆、言わずとも藤堂の援護に廻ることが代々命じられてきた。しかし、それまで藤堂家が一挙に請け負っていた妖退治の指令を先代の藤堂家当主が指揮本部としての協会を新たに設立したことにより、異能保持者に効率よく任務を振り分け、即座に対応し、甚大な人的被害を避けることが出来ている。

 そして、異能と並んで古来より言い伝えられてきた力が、夢幻の力である。過去・現在・未来を視ることが出来、さらに強い力を持つ者は神子としての力も秘めているという。しかし、そんな夢幻の力を持つ者はここ数百年産まれておらず、歴史書にしか登場していないため、現在では神に近い存在として、異能保持者たちの間では語られている。


 これは、そんな異能を操る者たちと、夢幻の力を秘めし神子の物語である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る